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 ■ 迷惑メール対策カンファレンス レポート (5)
セッション3 パネルディスカッション 「迷惑メール対策と法律」
カンファレンス最後のセッションとして慶応大学村井純氏によるコーディネートのもと、迷惑メール対策と法律、法整備についてのパネルディスカッションが行なわれました。
このパネルディスカッションではまず各パネリストから現況の報告や問題提起がなされた後に議論が行なわれるという形式で進行しました。

・コーディネータ 村井氏


・総務省 渋谷氏
総務省の渋谷氏からはまず日本における迷惑メールの特徴として、携帯電話向けのものが多くありPC向けは少なく、内容としては出会い系が多いことが報告されました。
迷惑メール対策に法的な整備が強く望まれていますが、現行法では措置命令がさほど下されていないため次の法改正で『直罰』制度を取り入れることで効果を上げようとのことでした。また「迷惑メール」と判断しサービス提供を拒否する基準の緩和も行なうとのことです。
一方、国際間ではやはり英語の迷惑メールが多いものの、各国の事情等があり例えばイタリアでは法律でフィルタリングが禁止されているといった興味深い事例が示されました。
国際的な迷惑メールでは米国、中国、韓国からのものが多いので各国との連携を進めているとのことでした。


・経済産業省 十時氏
十時氏からはまず経済産業省は商取引の観点からの迷惑メール対策を進めているとの報告が行なわれました。
経済産業省の認識している現状としては、携帯の迷惑メールはここ3年間でキャリアの対策により減少傾向にあり、その一方でPC向けが増加しつつあるとのことでした。
迷惑メールの内容については苦情や相談が寄せられるものの大半が不当請求に関するもので、概ね若年層が多く迷惑メールから誘引されたWebサイトに関するものが多い傾向があるとのことでした。
これら報告に加えて、特定電子メール法および特定商取引法に関する内容の説明が行なわれ、ふたつの法は同様な禁止をおこなっているが「意に反しての申し込み」や「錯覚」「虚偽」「誇大」といった表示での契約も特定商取引法で禁止されている旨の説明や、画面遷移上に利用規約等が現れない場合も違法であるという解説が行なわれました。
経済産業省の迷惑メールに対するスタンスとしては、送らせない、不当請求させない、引き出させない(金融庁と連携)を3本柱に迷惑メール追放支援プロジェクトを展開するとのことでした。

・ニフティ 木村氏
木村氏からまず提起されたのは、日本における迷惑メールの統計は公的なものはなく、ユーザ―アンケート等によるものしかないため、正確な動態が把握できていないのではないかという問題でした。
キャリア/ISPとしての立場からの問題提起として電気通信事業者は通信の秘密を守らねばならないこと、また検閲の禁止によりユーザのメールを勝手にチェックしてはいけないのではないか?という二点が挙げられました。
これは日本国憲法に書かれている通り、通信の秘密は何人にも守られなければならないことを守ろうとすると、電子メールの内容は当然ながら例えヘッダであれ、この情報を知ることは通信の秘密を侵すことになりかねないというものです。また電子メールの「ログ」を記録することも『誰と誰が通信したか』という記録を残すことから、これも通信の秘密に触れるのではないかという問題提起もなされました。
通信の秘密を守った上で内容なりをチェックする際には「通信の当事者」の了解を得なければならない前提があるわけですが、電子メールの場合には送信者・受信者の双方の了解を得ることはまず不可能です。このため了解を得るにしても、通常はISP等の顧客である受信者側からしか得られないことが一般的です。この状況において、電子メールのチェック行為は果たして行なっても良いのか悪いのかの解釈をどうすべきかという質問が木村氏から総務省、経済産業省に対して投げかけられました。この他にも木村氏が提起した問題には興味深いものが多くありました。

・NTTコミュニケーションズ 甲田氏
甲田氏からの問題提起もやはりキャリア/ISPとしての立場からのものとなりました。ISPとして迷惑メールに対応するということは、迷惑メールの発信元の情報を特定し相手ないしは相手ISPに通知することは、通信の秘密を侵しているのではないかという疑問がまず投げかけられました。
次に、迷惑メールに対する対応は即時対応が難しいことと、着信側すなわちメールを受け取った側からの情報だけで行なわねばならないために情報の確度が検証できないといった問題点も提起されました。
さらにISP間を渡り歩く迷惑メール発信者/業者に対応する方法としてISP間での情報共有の可否、さらには例え迷惑メール発信者/業者であっても通信の秘密は守られねばならないことや個人情報保護法に抵触することなどの問題も提起されました。
加えて「迷惑メール」というもの、そのものの定義が現在のところはっきりしていないという大きな問題も氏は提起しています。

以上のように総務省、経済産業省からは概ね現況の報告と今後の方針説明が行なわれましたがニフティ、NTTコミュニケーションズからはキャリア/ISPとして現状で抱えている法的な問題とその対応に関する問題提起がなされた形でディスカッションはスタートしました。

ディスカッションではまずコーディネータの村井氏が『事業者が行政に望むものは何か?』という質問を投げかけ、これに応答する形で甲田、木村両氏から事項が挙げられました。
まず甲田氏からはISPを渡り歩く迷惑メール発信者/業者にとっては個々のISPの契約を切られても他のISPと再契約すれば良いだけなので全く痛くないため、迷惑メール送信者/業者の他ISPの加入を拒否できないのか?という質問が再度投げかけられました。
次に木村氏からは今度の法改正は良くできていると思えるが、電気通信事業者という立場からは利用の公平(差別の禁止)の観点から例え迷惑メールであっても、それを送る義務が発生してしまうため、どのようなメールを送らなくてよいのかというガイドラインを明確に示してほしいという質問が総務省に対して行なわれました。

これらの問題提起への返答として、まず総務省の渋谷氏は木村氏の最初の問題提起に対し、電子メールは送信した時点でその取扱いが受信者に委ねられることから、原則として受信者の同意があれば通信当事者の同意を得たものと解されるとのことです。これは受信者が同意すれば通信事業者が受信者に送信される情報につきフィルタリング等を実施しても通信の秘密の侵害の違法性が阻却されるという意味です。
ISP渡り歩きに関してはまだ何等対策はない状況にありますが、すでに携帯電話事業者間で行われているように「不払い」者に関する情報交換はISP間でも行なってよいとの見解が示されました。しかしながら「迷惑メール」を理由として情報を交換する際には本人確認の問題や、ISPの数が多いこと、利用停止等の措置を講 じる対象たる迷惑メールの定義が事業者間で異なっているなどの課題があり、通信の秘密を含めた上で、これらの問題を整理する必要があるとのことでした。
また、役務提供拒否の基準については、一通の「悪い」メールを見つけ出すために正当なメールを含む全てのメールをチェックしていいものかという問題があり、これら行為の正当性がどこまで認められるのかは今後議論の余地があるとのことでした。
一方、経済産業省としては直接は迷惑メールには関係ありませんが、そこから誘引されたWebサイト等で被害が出た場合(特定商取引法違反等の場合)にはISPに通報してユーザを止めさせることが可能との見解が示されました。

質疑応答:
Q1(会場:ハラダ氏)
大学や企業は通信事業者と同じに扱われ通信の秘密は守らなくてはならないのか?
A1(パネリスト:渋谷氏)
個別にその動態をよく判断する必要はあるが、通信の秘密は憲法に定められているので守るべきである。通信事業者に当たらない場合であっても、有線電気通信法が適用される可能性があるので、いずれにせよ通信の秘密は守っていただきたい。

Q2(コーディネータ:村井氏)
もともと(インターネットは)民主導であるので国際的な連携は現場レベルである一定の成果が出てから行政での調整を行い国際連携を行なうべきではないのか?
A2(パネリスト:渋谷氏)
各種の国際会議では必ず話題にのぼるほど迷惑メールに対する関心度は高い。イギリス、オーストラリア、アメリカ間の連携についてはすでに具体的な相互通報等のスキームが存在しているが、アジアレベルではまだ情報交換を行なおうという程度のもので、今後より具体的な連携を進めていきたい。

質疑応答の後コーディネータの村井氏より、迷惑メールに対する問題は電子メールというツールが生きるか死ぬかの大きな問題であり、民主導で官サポートという形での対策が重要であり、行政が的を外さないことが重要であるという発言がなされました。
加えて迷惑メールに対する状況が社会に広く知られることもポイントで、これには教育が必要であり社会全体の迷惑メールに対する理解を上げることが重要であるとの総括で本ディスカッションは終了しました。


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