「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

②トラブル克服部門

silver優秀 「画面の向こうのキミ♪」  Kyouko


バイトから帰宅し、いつものようにスマートフォンを付けた。そしていつも通りアプリのアイコンをタップし、ゲームを立ち上げる。私のユーザー名、Bが表示されキャラクターが現れた。このゲームにはチャット機能が付いていて、ただいま、と言うとすぐにプレイ中の仲間が返信をくれる。ここが私の居場所、いつの間にかそんな風に思っていた。

きっかけは友人が、招待コードを入れてくれるだけで良いからと、このゲームを勧めてきたことから始まった。チュートリアルを終え、暇つぶしに遊んでいる内に夢中になってしまった。チャット機能を使っていろんな人とゲームについて話したり、リアル世界での相談事をしたりして現実よりも充実した人間関係を築けているような感覚になっていた。

ある日のこと、私が所属するギルドに新人プレイヤーがやってきた。可愛い女の子キャラクターを使い、チャット上の話し方もどことなく可愛らしい。冗談交じりに、Aさんって実は男性ですかと聞くと、れっきとした女子ですよぅ!!と返信が来た。

今思えば、この時点で疑うべきだったのかもしれない。

Aさんと何回かゲーム上で会ううちに、堅苦しい言葉遣いがなくなり、お互いのリアルの相談事、愚痴を共有していった。Aさんは親身になって私の相談に乗ってくれて、一度も顔を合わせてすらいないのになぜだかとても信頼していた。

数か月後、いつものようにゲームにログインすると、なんだかAさんの様子がおかしかった。事情を聞くと、ちょっとしたトラブルに遭いお金が必要なのだそうだ。Bさんなら助けてくれるよね、と言われ、その時は指定された口座に2万円を振り込んだ。それから数回に分けてお金を振り込んだ。もしかしたら詐欺かもしれない、という疑念が頭をよぎったが、しばらくするとAさんからあの時のお金を返したいのでリアルで会えないか、と連絡が来た。

ギルドでもその可愛らしさで人気があるAさんとリアルで会えるということに私は胸が高鳴った。リアルのAさんはどんな人なのだろうかと気持ちが高ぶっていた。携帯電話のアドレスと番号を教え、指定された日にある駅前のコーヒーショップで待ち合わせをした。少し早目についてしまったので、いつものようにゲームを立ち上げる。

「Aさん、もう着いた?」と、チャット上で話しかけてみた。

「もうコーヒーショップにいるよ~」

「え?どこどこ」

「カウンター席♪」

ドキドキしながら店内を見渡すと、確かにスマートフォンをもった人が何人かいる。

だが、それは、どうみても、男性しかいなかった。

ここで、初めて私は間違いに気づいた。そしてこれから起こるであろう様々な危険を予測し背筋が凍りついた。私はそのまま静かに席を立ち、その場を後にした。

それから、機種変更を行い、あのゲームには二度と触れていない。もしあの時、何かあったらと思うととても怖くなった。

だが、今私は違うスマートフォンゲームで遊んでいる。結局のところ私はあの経験をしてもなお誰かとつながっていないと不安で仕方ないのかもしれない。


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