「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

①使いこなし部門

silver優秀 「母とインターネット」  神奈川県 どんぐりころり


母は75歳。ひとり暮らしを満喫し、毎日、あちこち動き回っている。
「私の元気の源は、インターネット!」そう言う母は今後の世の中の発展を考えると「まだまだ死ねないわ」と明るく笑う。

父が病弱だったため、我が家を支えてきたのは母だった。仕事に家事にと、いつもフル回転。寝込んでいる姿など見たことがなかったが、しばらく体調を崩して伏せったことがあった。仕事を定年退職してすぐのことだ。父はすでに他界、私と兄は独立していたため、燃え尽き症候群のようになってしまったのだろう。
そこで、苦肉の策でパソコンを買って母にメールのやり方を教えた。メールでやりとりできれば連絡を取りやすくなるからと。しかし、母は拒んだ。長年、市場で野菜を売ってきたアナログの母にとって、インターネットは「別世界のもの」だったのだ。

そんな母が変わったのは、兄の孫の姿をもっと見たいという母へ、兄の提案から「インターネット」にはまったことからだ。兄が送ってくる写真をプリントアウトし、アルバムを作るのが母の楽しみになった。コメントを加えたり、著作権フリーのイラストを添付したり。工夫していくうちに、さまざまなホームページでいろいろなことができることを知った母。その他に、旅行ツアーに申し込んだり、買い物をしたりと、あっという間に母の生活にインターネットは欠かせないものになっていった。

その活用ぶりに、今度は逆に、依存症になって引きこもりになりはしないかと心配していると、笑われた。
「ネットを、というより『ネットで』楽しんでいるから大丈夫」
インターネットを使うことで世界を広げられることが貴重なのだと話す。実際、外で活動することが増えた。パソコン講習会に積極的に参加し、インターネットの活用術にますます磨きをかけている。
「ネットでしかできないことや、知り得ない情報を見つけるとすごく得した気分になる」そう、嬉々としている。

先日、母からノートを見せられた。参加した旅行ツアーの記録だと言う。ネットから取り出した行程表の切り抜きやデジカメで撮った写真などがコメントとともに貼られている。「お母さんってこんなにマメだったっけ?」思わず聞くと、頬を緩める。
「友達がツアーの様子を知りたいって言うから、作っちゃった」

母はちょっと自慢気だ。そして、紙袋を持ってきた。そこには各ホームページからとったこれから行われる旅行ツアーやイベントの情報がたくさん入れられていた。「ネットをしない友だちに、情報をプリントアウトして持って行ってあげているの」
母のまわりにはインターネットに疎い人も多く、母が橋渡しをしているようだ。友人の分の旅行の予約や買い物を代行してあげることも少なくないらしい。
「誰かに喜んでもらえるって嬉しいことよ。そうすることで私も新しいことを知ったりできるのだから、感謝しないと」
家族のために長く尽くしてきた母にとって、その役割を終えた今、インターネットは「社会で役に立っている」「成長している」ことを実感できる良い機会になっているのだろう。

先日、実家を訪ねると美味しいクッキーを出してくれた。旅行ツアーの感想をメールで送ったところ、旅行社からお礼として送られてきたものだと言う。聞けば、高齢者としての意見や要望、アイデアを感謝の気持ちとともに伝えたそうだ。「ネットだと気軽で簡単、やれることのハードルが低くなるのがいい」インターネットには「貢献する」チャンスが多く転がっていると目を輝かす。そして、「貢献といえば……」と胸を張る。

最近、遊びに来た孫が「アルバム」を開き、昔のピアノの発表会の写真を見たのをきっかけに、最近さぼり気味だった練習を頑張るようになったらしい。
「このアルバムは私の物語だねって言うのよ」母は嬉しそうだ。今、孫は11歳、アルバムも11冊を数える。
「お嫁に行くまで作ってあげないとね」と言うと、「まだまだ死ねないわ」と笑った。

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