「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

①使いこなし部門

silver2特別 「童話と老話」  石川県 神馬せつを


私が長期療養生活を過ごしていた病院には小児科の専門病棟が併設されていて、そこには重い病気で入院中の子どもたちが、治療をしながら勉強を続けている院内学級というものがありました。
一般病棟とは中庭を隔てて建っていましたが、子どもたちが運動する声が時折聞こえてきて、一般の患者さんたちの心を和ませていました。

交通事故の後遺症に加えて、精密検査の際に偶然発見された膵臓ガンとの闘病に疲れ果てた私は自暴自棄になり、精神的にも錯乱状態に陥り泣け叫ぶだけの日が続きました。

そんなある日のこと。病室に置かれたパソコンに、小児病棟の子どもたちからインターネットによる寄せ書きが届きました。
筋ジストロフィーや膠原病、小児ガンや小児結核などの病気で長期療養中の子どもたちが、泣き叫ぶ大人の私を励まし、慰めようとして、応援のメッセージや絵を送ってくれたのでした。

ベッドの上でパソコンの画面を見つめていた私は、一瞬にして血の気が引いてゆくのを感じました。
「いい年をして、なんという愚かな行為をしているのだろうか」と思い、全身に熱い血潮が蘇ってきたことを、今でもはっきりと覚えています。

その瞬間から再起への努力が始まったような気がします。

ようやくリハビリを始めたころから、難病の患者さんを訪問して、心のケアのお手伝いをするようになりました。
もっとも、この場合の「訪問」とは、直接患者さんの病室を訪ねるのではなく、医師や看護師さんに紹介されたり、特別に依頼された患者さんに対する、インターネットを通じての病室訪問なのです。
治癒の見込みがないことで悲嘆に暮れているというガン患者のKさんに、「ご自分の人生を一冊の本にまとめてみては如何でしょうか」と、「自分史づくり」を提案したのが最初でした。

この世に生を受けた証しを残すため…と言えば仰々しいかもしれませんが、これまで一生懸命に歩いてきた一人の人間としての生き様を、ぜひとも家族や知人に遺してもらいたいという、私の率直な願いからでした。

ガンという同じ病気と闘う仲間意識からでしょうか、気持ちよく応じてくれたKさんからは、その後切れ間なくメールが届くようになりました。
ガンと死闘するKさんを思うと、とても他人事とは思えず、一日一日、一刻一刻が真剣勝負となりましたが、半年がかりで手づくりの自分史が完成しました。
そのKさんの自分史完成記念会は、医師や看護師さんばかりでなく、他の患者さんや見舞い客を含む、病院を挙げての有意義な催しになりました。

まもなくKさんの「いのち」の消滅という厳粛な事実の前では、人間の力は本当に無力なものに思えましたが、だからこそ、一人ひとりに与えられた「いのち」は本当に大切にしなければならないと、みんなが痛感することとなりました。

それからは、インターネットを通じて、院内学級の子どもたちには、病気と闘う一人ひとりを主人公にした「童話」をプレゼントするようになり、大人の患者さんには、自分史を基本にした「老話」づくりのお手伝いをするようになりました。

人間らしく生きるということは本当に大変なことですが、インターネットの発達と普及が、闘病生活にも大きな活力と光明を与えてくれるようになってきていると思います。

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