「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

②トラブル克服部門

gold最優秀 本当の思いやり  埼玉県 こまっちょ

私が大学受験を迎える年のことである。その頃は友達とのコミュニケーションツールはメールであった。勉強という本業がありながらメールのチェックをしたり、ほんの些細なことで友達にメールをしていた。メールの内容といったら粗末なもの。「おはよう。」「今日テストがんばろう。」「古典眠かったな。」どのメールも二、三行で済むものばかり。それでも携帯がないと落ち着かず今考えるとネット依存だったように思う。

メールは私なりに受験ストレスの捌け口だと思っていた。また時には励まし合うことだってでき、それが勉強のエネルギーになっていると肯定的に考えていた。父に言われるまでは。

ある時勉強部屋に父が入ってきて、まあ座りなさいと落ち着いた口調で言う。成績不振のお説教かと身構えていたが父から出た言葉は想像をはるかに越えた。「私はね、あなたの成績が上がらなくても、勉強してなくても別にいいと思ってる。」なんてことを言うんだと高校生ながらに驚いたことは今も忘れない。「ただね、あなたは相手の時間を奪っている。それだけは親として許せない。あなたは相手の人生まで責任がとれるのか。」

思わずこの時はっとした。私は友達と繋がることで励まし合い、相手だってきっと喜んでいるに違いないと思っていた。そこに罪の意識は皆無だった。しかし父の一言で私はとんでもないことをしてしまったと自責の念にかられた。今までごめん、そんなことを言っても時間は戻ってこない。志望校に手が届かなかったら、私のせいだ。メールをせずに単語の一つや二つ覚えることだってできたはずだ。ぐっすり眠ることもできたかもしれない。次から次へと出てくる相手への思い。私はこの日を界に携帯電話との付き合い方を変えた。変えたというより、相手の時間にお邪魔することを考えると、メールを送信する時間帯やメールの内容まで気にするようになった。

そして今予備校の教壇に立ち、やはりあの頃の私を見てるかのような光景を目にする。「LINEの返信がない、既読になっているのに。」そんな学生達の会話を耳にすると悲しい気持ちになる。私は教壇であの時の父の気持ちを伝えている。本当の思いやりに気づいて欲しいから。

「君たちね、既読がつくってことは相手の時間をもらってるんだよね。既読つけた相手、気の毒だと思わないかい。」

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