「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

②トラブル克服部門

silver優秀 “いい人やめた”宣言でホームページ閉鎖  東京都 水馬

間もなく定年という私にパソコンを勧めたのは妻だった。長く製造現場の工員だった私は、仕事はパソコン要らず。まったくのアナログ派だった。だから"今更パソコンか"と思った。しかし、定年後、時間を持て余すのも嫌だった。渋々ながらパソコンと向き合い、「雨だれ方式ね」と、笑われながら、ポツンポツンキイボードを打ち始めた。

だが、2、3か月もすると、「あんまり根詰めない方が」と心配されるほど人のホームページの掲示板に書き込みをしては、ネットサーフィンするまでに夢中になっていた。遠くの見知らぬ人と一瞬のうちにやりとりできるのが、新鮮な驚きだったのだ。

定年後には、人のホームページへの書き込みだけでは飽き足らず、入門書とニラメッコで自身のホームページも立ち上げた。簡単な自己紹介に日常のくさぐさを書き散らした雑文、それに掲示板だけというシンプルなものだったが、"アナログの派の俺にも出来た"と、久々の充足感を味わった。

書き込みがあると、ワクワクしてすぐレス(返信)を書いた。会社でも近所でも友人と呼べる相手がいなかった私にとり、ネットを通じたメル友との交信は、大きな喜びだった。ところが、この掲示板が厄介なことになる入口だった。キッカケは掲示板に書き込みする人が、じかに顔を合わせるオフ会だった。ネットだけの付き合いだった者同士の話が弾み、互いに電話番号教え合うなど親近感が増して楽しかった。

が、問題はその後だった。

オフ会後は距離感が縮んだ反面、遠慮がなくなり、「今飲んでるからすぐ来ないか」と、無理強いするような電話が頻繁にかかる。また、子供のピアノ発表会への誘い。挙句には生命保険の勧誘まで。当初は、お義理でお付き合いしていたが、土足で人の心に踏み込んでくるような無神経さが、耐えられなくなった。そのうち掲示板では言うところの「荒し」が始まった。匿名を隠れ蓑に相手を口汚く罵り合う書き込みが飛び交った。当初こそ何とか堰き止めようとしたが、体調までおかしくなりかけた。このままでは暴発する。私はついに"もういい人はやめた"と宣言、ホームページ閉鎖を決断した。心を許し合った人たちに伝えると、惜しみながらもお付き合いを続けようと、言ってくれた。

メールアドレスを変更後も信頼できる人とのネット交流は、今も続いている。時にはお互いの土地を訪ねては語り合っている。またちょっと疑問に思うことがあれば、検索でネットを大いに活用している。好きな時代小説の感想文をメル友に送信したりしで、結構楽しいネットライフを送っている。その意味ではネットは私にとりには無駄ではなかった。むしろ豊かな実りをもたらしてくれ、妻にも感謝している。私が経験から痛感するのは、匿名性の高いネットの人間関係には「距離感と節度保て」という、当たり前のことである。

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