「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

①使いこなし部門

silver2特別 インターネットで知り合った人と会うということ  埼玉県 けいこ

「初めまして、ケンさんですか?」

初めて降りた新木場駅の駅前で見知らぬ男性に声をかける。自分の親と同じくらいの歳に見えた車いすの男性は、私にニカッと気持ちのいい笑顔を見せた。
大学生の頃、アナログ人間だった私も周りの人がみんなやっていたからという理由で友達に教わりながら流行りのSNSに手を出した。情報処理の授業で習ったホームページの作り方は難しすぎてよく分からないまま終わってしまったが、そこでは簡単に自分のブログを作り、公開することができた。暇つぶしに他人のブログを眺めていたある日、1枚の写真に目を奪われた。

「なんて綺麗・・・・・・」

大自然の中射す一筋の光。瞬間、静まり返って時が止まったようで、天国があるならこんな処だろうと思った。撮影地は「北海道紋別郡遠軽町」。私の故郷だった。あまりの衝撃にメッセージを送るボタンをクリックする。見知らぬ人にメッセージなんて送ったことは無かったけど、この感動をどうしても伝えたかった。送信した直後に襲われる、後悔。いきなり見ず知らずの人からこんなメッセージが来るなんて不審がられるんじゃないか。迷惑じゃないか。そんな私の不安をよそに、優しい返信が届いて、私たちの交流が始まった。ケンさんの投稿を遡っていって分かったのは、旅が好きで日本各地で風景写真を撮って巡っているということ、住まいは関東だけど特に北海道が好きだということ、写真以外にも音楽や車のレースが好きなアクティブな人だということ・・・・・・。知れば知るほどインターネット越しの「ケン」さんに興味が沸いて、今となってはよく覚えていないけど、私からだったと思う。会ってお話したいと言ったのは。

「すごくドキドキしているんです。インターネットで知り合った人に直接会うなんて、初めてだから。」

ニュースでたまに見る「ネットで知り合った」ことを発端に起きた事件の影響だろうか、いけないことをしているような後ろめたさがあった。私の正直な気持ちをケンさんは静かに聞いてくれて、それから色々な話をした。私は下半身が不自由だという障害が小さい頃からのものだと知って、その体で1人で日本中をまわってあんな写真を撮っていたのかとまた驚いた。

ケンさんと出会って8年。写真を撮りに行く旅に私も連れてってくれと頼んで、北海道・九州・四国・沖縄、47都道府県制覇目指してカメラを持って2人で旅をした。車いすを押しながら、2人でならどこへでも行けると思った。ケンさんは私の写真もよく撮ってくれた。それを見た母が羨ましがって、親子写真も撮ってもらった。私は結婚して、バリアフリーの式場を探して結婚式にも来てもらった。友人席だったけど、私にとってはもう1人のお父さんで、結婚式の日は最高のカメラマンだった。

「インターネットで知り合った人と積極的に会ってみて。」
なんてとても言えない。それは悲しい事件も知っているから。でも「インターネット」自体が悪いわけじゃない。匿名性の高いネットの世界で、悪意を持って近づく人もいるだろう。私たちはセキュリティを張りめぐらせて、警戒を緩めることなく真意を探りながらつり橋を渡る。会うとなったらどんなに気が合う「良い人」でも、最低限の自分ルールは必要だろう。例えば住所や最寄り駅は教えないとか、人の多いところで会って、密室には行かないとか。

インターネットがどんどん発達していくこの世の中で人は、1番上手なつり橋の渡り方を探っていく。自分を大事に誰も傷つけることなく辿り着けたその先に、最高の出会いもあるのだと私は知っている。

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