「インターネット上の子どもの安全ガイド」エクパット編 改訂版

ecpatlogo 本ガイドは国際エクパット(ECPAT International http://www.ecpat.net/)発行による、Protecting Children Online:An ecpat Guideの日本語版(初版2002年2月発行)を改訂、編集した第3版です。
(英語原版については初版が2000年7月、第2版が2002年5月に発行されました)。
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原版編集・調査Carol Livingston
協  力Riita Koskela(原文執筆),John Carr,Muireann O Briain,Mark Hecht,Denise Ritchie,Agnes Fournier de St. Maur(以上、技術的助言・寄稿)
イラストKatarina Dragoslavic guide
原版第2版編集Sarah Kay
CopyrightECPAT International, 2000,2002
日本語版監修 ECPAT/ストップ子ども買春の会
〒169-0073 東京都新宿区百人町2-23-25
Tel:03-5338-3226 Fax:03-5338-3227
ホームページ:http://www.ecpatstop.org/
翻訳・編集宇佐美昌伸
編集協力 財団法人インターネット協会
制  作株式会社東京創文社
発  行第3版 2004年6月 (初版発行 2002年2月)

本改訂版ガイドは、国際ソロプチミストアメリカ日本東リジョンのご支援により編集・出版されたものです。
(日本語初版の翻訳および印刷に対しては英国外務省から支援を受けました)
本ガイドへのリンク及び転載・引用・利用については、公序良俗に反する目的・内容でない限り、以下の条件にて、自由にリンク・転載・引用・利用、していただいて結構です。
【リンクの場合】リンクを張られた後でも結構ですので、リンク元URLを電子メール<ecpat@iajapan.org>にてお知らせ下さい。
【転載・引用・利用の場合】掲載個所・利用方法(どのような場か、どのような対象者か、など)をお書きの上、電子メール<ecpat@iajapan.org>にてお知らせください。掲載・利用に当たっては、出典を“エクパット編「インターネット上の子どもの安全ガイド=改訂版=」ECPAT/ストップ子ども買春の会監修 Copyright (C) ECPAT International, 2004”と明記願います。

もくじ
はじめに

用語集

第1部 安全にインターネットを使うために
第1章 インターネットとは?
 インターネットってなに?
 プロバイダってなに?
 どのようなコミュニケーション方法があるのでしょうか?

第2章 危険はどこにあるのでしょうか?
 性的搾取者がよく利用するソフトは他にどのようなものがあるのでしょうか?
 なぜ性的搾取者は新しい技術を好むのでしょうか?

第3章 子どもポルノとは何でしょうか?
 なぜ子どもポルノが重大な問題なのでしょうか?
 国際的にどのような措置が講じられているのでしょうか?

第4章 自分の身を守るにはどうすればいいのでしょうか?
 ネットスマート・ルールを覚えましょう
 フィルタリングを利用しましょう
 ホットラインを活用しましょう

第2部 子どもを守るために
第1章 フィルタリング/レイティング・ソフトの仕組みとは?

第2章 ホットラインとプロバイダの行動規範

第3章 あなたには何ができるのでしょうか?

第3部 法律に関わる問題
 プロバイダの責任とは?
 子どもポルノとは何でしょうか?
 主要な法的問題は何でしょうか?
 所持を犯罪とすることがなぜ重要なのでしょうか?
 子どもとはだれのことでしょうか?
 ポルノのいかなる側面が犯罪とされているのでしょうか?
 表現の自由についてはどう考えるのでしょうか?

付録 エクパットの子どもポルノに関する方針

資料 / リンク / 参考文献
 

はじめに

 インターネットをはじめとする新しい技術は驚くべき速さでコミュニケーションの方法を変えています。数年前は高価だったコンピュータも今では安く買えるようになり、以前は大企業にしか使えなかったコミュニケーション手段が簡単に利用できるようになりました。電子メールが使えて、スキャナ(画像読み取り装置)があれば、だれでも友だちや家族に写真を送ることができます。デジタルカメラを持っていればパソコンに画像を取り込んでメールできますし、カメラ付き携帯電話ならもっと簡単です。2つの写真を1つにしたり、画像を改変(モーフィング)したりして、まったく違う現実を作り出すことも可能です。チャット(インターネット上のおしゃべり)などを利用すれば世界中に新しい友だちを作ったり、旧交を温めたりすることができます。簡単に手に入るテレビ会議ソフトを使えば、世界中から参加者を集めて生中継の会議やライブ「ショー」を開催できます。
 新しい技術は革新的で驚くべきものではありますが、技術は単なる道具に過ぎません。新しい技術はコミュニケーションを便利にし、多くの人々の生活をより良いものにしていますが、残念ながら、子どもを食い物にする者にも利用されています。インターネットは子どもに対する新しいタイプの犯罪を生み出しているわけではありませんが、昔からあった犯罪を楽にあるいは新しい方法で行うことを可能にしています。インターネットは簡単に子どもと接触できる場であり、現実の世界と比べて警察に見つかる可能性もはるかに低いのです。
 日本では、1999年に「子ども買春・子どもポルノ禁止法」ができましたが、2003年にこの法律の下で検挙された事件のうち、インターネットを利用した事件の数は893件となっています(出会い系サイトを利用した子ども買春791件、インターネットを利用した子どもポルノ102件)。これらを含め「出会い系サイト」に関係した事件では2003年1年間で1,278人もの子どもが被害にあっています。
 本ガイドでは、インターネットなどの新しい技術がどんなもので、どこに危険があるのか、そして安全にインターネットを使うにはどうすればいいのかを説明します。第1部では、インターネットの基礎知識から子ども自身が身を守る方法まで、分かりやすく解説しています。第2部では、親や教師など大人に何ができるかを中心に説明し、インターネット上の安全についてより詳しく知りたい人に役立つ情報が盛り込まれています。第3部は、法律的な問題についての説明で、少々難しくなりますが、より深く考えてみたいという人はぜひお読みください。

用語集

「子どもの商業的性的搾取」とは、大人が子どもを性的に虐待し、その見返りとして子どもや別の人にお金などを提供することを言います。具体的には子ども買春、子どもポルノ、このような性的な目的で行われる子どもの人身売買を指します。子ども買春をするために他の国や地域に出かけることを「子ども買春観光」と言います。また、直接子どもを買ったり食い物にしたりする者やその間に入る業者などのことを「性的搾取者」と呼びます。子ども買春をしたり、子どもポルノを集めたりする者の中には、人数は多くありませんが、子どもだけに性的関心を向ける「ペドファイル」(小児性愛者)がいます。
アカウント(メール・アカウント)
電子メールを利用する権利。

アップロード/ダウンロード
情報をインターネット上に乗せたり(アップロード)、自分のコンピュータに取り込んだり(ダウンロード)すること。

アドレス
電子メールやウェブサイトを持つときに必要なインターネット上の住所。

ウェブサイト
単に「サイト」あるいは「ホームページ」とも呼ばれる。文字や画像などの情報を収めたページ(ウェブページ)がひとまとまりになったもの。インターネットを通じて見ることができる。

コンテンツ
情報の内容。「ウェブサイトのコンテンツ」のように使われる。

サーバ
インターネットの中心となるコンピュータでプロバイダなどが管理している。インターネットを利用する場合は、まずこのサーバに自分のコンピュータを接続する。

スキャナ
写真や文書などを読み取り、コンピュータにデータとして取り込む装置。

モーフィング
画像をゆがめたり、変えたりして加工すること。

ログ
インターネットの利用記録。

ログオン/ログイン/ログオフ/ログアウト
インターネットに接続したり、サービスの利用を開始したりすること(ログオンまたはログイン)。接続を解除したり終了したりすること(ログオフまたはログアウト)。

ワールド・ワイド・ウェブ
直訳すれば「世界規模のくもの巣」で、ウェブサイトが数限りなくつながりあったもの。

IPアドレス
インターネットに接続したときにコンピュータに割り当てられる住所。

次の用語については、本文で詳しく解説しています。
インスタントメッセージ 掲示板/BBS チャット テレビ会議 電子メール ニュースグループ フィルタリング プロバイダ ホットライン レイティング

第1部 安全にインターネットを使うために

第1章●インターネットとは?

インターネットってなに?

 インターネットは世界規模に広がったコンピュータのネットワークです。送り手と受け手のコンピュータ同士が直接つながっていなくても、インターネットに接続すれば目的の場所に情報を送ることができます。


プロバイダってなに?

 インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)は、インターネットに接続するサービスを提供する会社や団体です。個人でインターネットを利用する場合には、プロバイダに加入して、コンピュータをインターネットに接続します。自分のウェブサイトを開きたい場合には、プロバイダからインターネット上の住所(アドレス)を提供してもらいます。電子メール・アドレスもプロバイダから与えられます。


どのようなコミュニケーション方法があるのでしょうか?

電子メール 電子メールとは、インターネット利用者の間で送られる電子的な手紙のことです。メールは文字だけ(シンプル・テキスト形式)の場合もあれば、文書・画像など他のファイルを添付する場合もあります。メールの利用権(アカウント)は、プロバイダに加入したときに追加料金なしで与えられることがほとんどです。プロバイダはアカウント所有者の確認のためにクレジット・カード情報を要求することが多いのですが、この場合、プロバイダはそのメール・アドレス(住所)から送信されるメールについてだれに責任があるのかを把握しています。
 「ヤフー」、「Hotmail」といったサイトでは、無料のメール・アカウントを取得することができます。このような無料メール・システムの場合、利用者が身元を偽ることは簡単です。無料メール・アカウントの申し込みをするときに記入された氏名や住所などが正しいかどうかを確認する「セキュリティ・チェック」がなされないのが普通だからです。

ニュースグループ ニュースグループはインターネット上の「黒板」または掲示板であり、同じ題材に関心のある人たちが集まり、情報や質問を投稿する場です。ニュースグループの会員はそれぞれの投稿の題名を見て、読みたいメッセージを探すことができます。
 ニュースグループは何万とあり、毎日新しいものがインターネットに登場しています。これまでにインターネット上で発見された子どもポルノのほとんどは「Alt. Sex」(性を話題とするグループ)というニュースグループを通じてやり取りされていました。「Alt. Sex」グループは数百の下位グループ(サブグループ)に分かれています。たいていの場合、下位グループの名称を見れば、何が題材となっているのかが分かります(例えば、ペドフィリア(小児性愛)、獣かんなど)。プロバイダは利用者が購読することのできるニュースグループを制限することができます。

チャットルーム チャットルーム(直訳すれば「おしゃべりをする部屋」)では、2人以上の人が文字(テキスト)形式のメッセージを用いてインターネット上で「話す」ことができます。チャットルームは子どもや10代の若者の間でとくに人気があり、参加者は偽名(ハンドルネーム)を使うことが多いようです。チャットルームは「チャンネル」で分けられていて、チャンネルの名称はその中で行われる会話のテーマを表しています。また、ほとんどのチャンネルでは、利用者同士が個人的な会話をすることもでき、その場合、他の参加者は会話の中身を見ることができません。
 チャットルームの中には不適切な言葉や内容が話されていないか監視されているものもありますが、そうでないものもあります。虐待者が子どものふりをしてチャットルームに入り、本物の子どもから情報を引き出すとともに、信用を得ようとする場合があります。彼らは、子どもを虐待するために、実際に子どもに会いたいと思っています。また、相手の子どもに対して自分や友だちのポルノ写真を撮って送るように説き伏せようとします。

インスタント・メッセージ AOL(アメリカ・オンライン)のICQ("I seek you" 〔あなたを探してます〕というフレーズと音が似ていることから付いた名前)、マイクロソフトのMSNメッセンジャー、AIMチャット(AOL)といったものはすべてインスタント・メッセージという仕組みで、利用者がチャット(おしゃべり)をしたいと思っている相手がインターネットに接続しているかどうかを知らせるものです。そして、もう一方の利用者がチャットを開始することができるのです。チャットルームと同じように、インスタント・メッセージには「見えない」モードがあり、参加者が会話を隠れて行うことができます。インスタント・メッセージのディレクトリー(電話帳のようなもの)を利用すれば、知り合いでなくても共通の関心を持っている人を見つけることができます。

テレビ会議 生中継(リアルタイム)のテレビ会議ソフトは広く普及しています。マイクロソフトの無料ソフトNetMeeting(ネットミーティング)は最近のバージョンのウィンドウズを搭載したコンピュータのほとんどに組み込まれています。安く手に入る小型デジタルカメラを使えば、画像と音声付きの会議を生中継で行うことができます。マイクロソフトはNetMeeting利用者のディレクトリー(電話帳)を提供しており、これを利用して相手を見つけることができます。インターネット上ではテレビ会議技術を利用した性的活動がかなり多く行われていると報告されています。

掲示板 掲示板は、離れたコンピュータ同士で情報を交換する方法としては最初に登場したものの1つです。もともとは、あるコンピュータが掲示板の「ホスト」(宿主)となる別のコンピュータに直接電話をして接続する仕組みのことを言います。掲示板はニュースグループに大きく取って代わられており、ニュースグループも「掲示板」と呼ばれることがあります。旧式の掲示板はまだ存在していますが、多くの場合は、発見されることを避けたいグループが利用しています。
 現在日本で「掲示板」あるいは「BBS」と言えば、こういったものではなく、インターネット上に設けられた、だれでも自由にメッセージを書き込んだり、読んだりできる場所を指すのが普通です(有料あるいは無料で会員登録をすることで利用できるものもあります)。携帯電話から利用できるものも多く、いわゆる「出会い系サイト」の多くもこの仕組みを使っています。

オーキッド・クラブ
国際的な子どもポルノ・リング(同盟)である「オーキッド・クラブ」は、1996年、アメリカ・カリフォルニア州サンノゼ警察の手によって解体されました。このクラブには遠くはフィンランド、オーストラリア、イギリス、そしてカナダといった国の人間が加わっていました。この事件は、虐待されている子どもの画像がテレビ会議ソフトを利用して生中継で伝えられていたものとしては初めて起訴された事件です。このクラブに所属する男性、少なくとも11人がインターネットを通じて幼い女の子が虐待されているのを見ると同時に、彼女を虐待していた男性にさまざまなポーズや虐待行為を注文していました。

第2章●危険はどこにあるのでしょうか?

性的搾取者がよく利用するソフトは他にどのようなものがあるのでしょうか?

暗号ソフト 暗号ソフトはファイルやメッセージにカギをかけるものです。暗号化されたファイルを読むことができるのは、同じ暗号ソフトを使っているかファイルを開くために必要なパスワードを知っているかしている人だけです。ファイルを開くために普通用いられるのが「カギ」で、でたらめに選択された数字に基づいている場合もあります。さまざまな暗号ソフトが普通に手に入ります。

画像編集ソフト デジタル技術はポルノを自宅で製造することを簡単にしています。デジタルカメラやスキャナ(画像読み取り装置)があれば、だれでもインターネット上に写真を載せたり、メールで送ったりすることができます。画像編集ソフト(Photoshop〔フォトショップ〕、Illustrator〔イラストレータ〕、Microsoft PhotoEditor〔マイクロソフト・フォトエディタ〕など)で写真を加工することもできます。何枚かの写真を1つにしたり画像をゆがめたりして、1度も存在したことのない現実を生み出すことも可能です。このようにゆがめたり、変えたりすることを「モーフィング」と言います。


なぜ性的搾取者は新しい技術を好むのでしょうか?

 インターネットを使えば、遠く離れた人との間でも簡単に、速く、安くコミュニケーションができます。「コンピュータが普及する以前は、子どもポルノ提供者は郵便や地下の流通ネットワークを利用していました。ポルノを取引したり、交換したりするためには、消費者と提供者はお互いを知っている必要がありました。しかし、インターネットによって、子どもポルノはだれもが簡単に見たり取得したりできるようになりました。子どもポルノは一瞬にして目の前に現われるのです」。
 子どもポルノを探す者は、インターネットで瞬間的に満足を得られます。新しい写真が郵便で届くのを待つ必要はなく、その場で取り込むこと(ダウンロード)ができます。子どもと会おうとする者はチャットルームで網を張り、子どもの信用を得るために自分も子どものふりをします。また、インターネットは虐待者が地球規模で魔の手を伸ばすことも容易にしています。ある事件では、モスクワに置かれたサーバから子どもポルノ画像5万点が発見されましたが、指示はアメリカから出されていました。
 子ども搾取者はインターネットを使って自らの信念を確かめています。彼らは同じ価値観を持つ人間をネット上で見つけることで、自分が何も悪いことをしていないという信念を強め、合理化し、正当化します。また、彼らは仲間を見つけて情報を交換したり、「ネットワーク」に引き込んだりしようとしています。
 インターネット上では子ども買春観光の宣伝も地球規模で行われています。性的虐待が簡単にできそうな国についての情報が広められているのです。エクパットと、中米でストリート・チルドレンのための活動をしている非営利団体の「誓約の家」(カーサ・アリアンツァ)が2001年に調査を行ったところ、コスタリカを「買春観光目的地」として直接宣伝するものだけで40ものページが見つかりました。これらのページでは、観光客の話として、最適なホテル、買春相手を見つける場所、買春料金の「相場」があからさまに示されていました。
 www.latinchat.comというウェブサイトに対する調査ではもっと不快な結果が出ました。このサイトではありとあらゆる子どもポルノを自由に入手できることが分かったのです。また、メキシコ人の13歳の男の子のふりをしてチャットルームに参加したところ、性的な情報を直接的に求めたり、実際に会おうという誘いをかけたりする電子メールがわずか4時間で102通も届きました。
 子どもを食い物にする者はインターネットの匿名性を好みます。彼らはチャットルームでの偽名、偽のメール・アドレス、追跡に必要な情報をメールから削除するソフトなどを使うことで、足跡を隠し、摘発を免れようとします。また、インターネットの国際的な性質を利用し、子どもポルノや子どもの保護に関する法律が甘い国に置かれたサーバにサイトを開設し、情報を収めています。
 子どもを性的に虐待する者を摘発することに成功した最初の国際捜査として知られているのが、「ワンダーランド・クラブ」事件です。1998年9月1日、インターポール(国際刑事警察機構)が調整役を務めた一斉捜査によって、12カ国で100人以上が逮捕されました。100万点以上の子どもポルノ画像が発見され、一番幼い子は2歳でした。この事件以降、世界中の司法当局はインターネットを利用した子どもの性的虐待を発見し、起訴するために協力を進めています。

インターネットを利用して子どもを性的に虐待する者を摘発した事例

2001年8月~:ランドスライド作戦
 ランドスライド・プロダクション社はリーディ夫妻が1997年にアメリカ・ダラスで設立した会社でした。同社がはじめのうち提供していたのは、大人を描いた性的にあらわな画像がほとんどでしたが、会社が成長するにつれて、子どもポルノを扱うウェブサイトの利用権を提供することでより多くの収入を得るようになりました。リーディ夫妻は子どもポルノを持っている外国のサイト管理者たちと会費収入を分け合う契約を結び、会費として約5700万ドル(約63億円)を得て、そのうち約60%をロシア、インドネシアなどのサイト管理者に支払っていました。同社は一番もうかった月で140万ドル(約1億5千万円)もの収入を得ました。
 ランドスライド社はこれまで明らかになった中で最大の子どもポルノ業者です。同社のサイトには少なくとも25万人の会員がおり、その多くは海外在住でした。アメリカ当局と国際機関は世界中から250件以上の通報を受け、1999年に捜査を開始しました。同年9月、リーディ夫妻は逮捕されて経営権を奪われました。捜査員は同社が存続していると見せかけて会員に電子メールを送り、違法な画像を買おうとしている者を突き止めました。2001年8月、アメリカ当局はおとり捜査をしかけ、アメリカだけで100人以上が逮捕されました。

2001年11月~:ランドマーク作戦
 「ランドマーク作戦」はインターネットを利用して子どもポルノを取り込み(ダウンロード)、配布する性虐待者を標的とした捜査です。19カ国の警察がインターポール(国際刑事警察機構)の提供する情報に基づき、130件の捜査を行い、容疑者を逮捕しました。「デーモン・インターネット」というプロバイダが捜査に協力し、警察は通信を監視しました。あるニュースグループでは、虐待者が相手となる幼い子どもを「仕込む」方法について助言を求めていました。当局は、30のウェブサイトを通じて11,000人以上が子どもポルノを取り込んだり、配布したりしていることを突き止めましたが、捜査対象は子どもポルノを配布していた400人に絞られました。
 ただ、当局者によると、インターネット上の性虐待者たちは「ワンダーランド事件」や「ランドスライド作戦」から教訓を得て、正体を隠す新しい革新的な方法を開発しています。

第3章●子どもポルノとは何でしょうか?

なぜ子どもポルノが重大な問題なのでしょうか?

 ポルノ写真やビデオはたいていの場合、子どもの虐待が行われたことのまぎれもない証拠となります。子どもを使ったポルノは搾取であり、ポルノ描写の対象とされた子どもに対する、さらにはそれを見るように強いられたり、誘われたりした子どもに対する権力の濫用です。子どもポルノはしばしば子どもの人身売買と関係しています。子どもポルノを作るために子どもが国から国へと売買されているからです。
 インターネット上ではものすごい量の子どもポルノ画像が手に入ります。インターネットを利用することで、画像を限りなく複製したり、簡単に送ったりすることが可能になったからです。
 子どもポルノは虐待者が自らの子どもに対する欲求を正当化する助けとなります。ポルノに使われる子どもたちは、あたかもその行為を楽しんでいるかのように、ほほえんで行為に従っているふりをするように命令されることがよくあります。
 被害にあった子どもには、長期にわたる影響がもたらされます。ポルノを作った者が摘発されようがされまいが、ポルノ写真はいったん公共の場に持ち込まれたらずっと出回り続ける可能性があり、写された子どもに永久に取りつくかもしれないのです。
 また、子どもポルノは子どもの抑制を低めるために使われたり(「ほら、他の子もやっているでしょ?」)、ポルノ的なポーズを取った子どもの姿を見せることで、危険な状況に誘い込むための道具として使われることもあります(「この写真と同じことをしてごらん」)。
 子どもポルノの単純所持(自分で使うためだけに持つこと)と子どもの虐待との間には強い関連性があります。子どもポルノを所持している者の多くが子どもの性的虐待も行っているということが指摘されています。


国際的にどのような措置が講じられているのでしょうか?

 国際、国内および地方のNGO(非政府組織)や警察などの法執行機関がインターネットに関係した虐待から子どもを保護するために行う取り組みの基礎となっているのが、「子どもの権利条約」です。この条約の批准(国として正式に同意する手続き)をした政府は、子どもの権利--虐待されない権利を含む--が尊重される法制度を築く義務を負います。これまでに191カ国(ソマリアとアメリカ以外のすべての国連加盟国)がこの条約に加わっています。

 いかなる形態の子どもポルノも子どもの権利の侵害です
 このことは「子どもの権利条約」に明確に示されています。この条約の第34条は次のように記しています。
 締約国はあらゆる形態の性的搾取および性的虐待から子どもを保護することを約束する。この目的のために、締約国は特に以下のことを防止するためのあらゆる適切な国内、二国間および多国間措置を講ずるものとする。
 (a) いかなる不法な性的活動に従事するよう子どもを勧誘しまたは強制すること。
 (b) 売春その他の不法な性的行為において子どもを搾取的に使用すること。
 (c) ポルノ的な実演および素材において子どもを搾取的に使用すること。

 過去10年間、世界各国の政府は協調して行動を取る必要があることを認識させられてきました。その結果、1996年8月にスウェーデンのストックホルムで「第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催されました。この会議では参加した122カ国の政府が全会一致で「行動アジェンダ」を採択しました。このアジェンダは政府に対してNGO、国際機関および市民社会の関係者と協力して、子ども買春、子どもポルノおよび性的目的での子どもの人身売買というますます大きくなっている課題に取り組むことを求めています。
 2001年12月には、横浜で「第2回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催されました。159カ国政府、NGOおよび国際機関が参加し、これらの課題に協力して取り組むことを再確認しました。
 また、国連総会では2000年に、子どもの人身売買、子ども買春および子どもポルノに対する取り組みを強化する目的で「子どもの権利条約」の選択議定書が採択されました。さらに、欧州評議会は子どもポルノを含むインターネット犯罪に対してより効果的に闘うために、「サイバー犯罪条約」を採択しています。これらの条約によって、取り組みがさらに前進することが期待されます。日本でも2004年4月に両方の文書の批准が国会で承認されました。
 子どもポルノをめぐる法律的な問題については第3部で詳しく解説しています。

第4章●自分の身を守るにはどうすればいいのでしょうか?

ネットスマート・ルールを覚えましょう

 安全にインターネットを利用し、危険から身を守るためには、インターネット上で自分をどう扱えばいいのかを覚えておく必要があります。多くの国では、エクパット・グループや他の団体がインターネット上の安全について意識を高める取り組みを始めています。そのような取り組みの中で勧められている子ども向けのインターネット利用ルールの1つに「ネットスマート・ルール」があります。ぜひ、このルールを覚えてください。

あなたの親や保護者が具体的に許可しない限り、インターネット上で出会っただれに対しても自宅の住所、電話番号または学校名をけっして教えないこと。
あなたの親や保護者にまず確認を取らない限り、だれに対してもあなたの写真、クレジット・カードや銀行口座の詳細その他のどんな情報もけっして送らないこと
たとえ親友であろうと、だれに対してもパスワードを決して教えないこと。
あなたの親や保護者からまず許可を得ない限り、けっしてだれとも実際に会う約束をしないこと。そして、初めて会うときには親や保護者について来てもらい、かならず公共の場所で会うこと。
あなたを不快にしたり不安にしたりすることを発言したり書いたりする人がいるチャットルームや会議にはけっして出入りしないこと。そして、そのようなことがあったらかならず親や保護者に報告すること。
いやらしい、きわどいまたは不愉快な電子メールやニュースグループの投稿にけっして返信しないこと
インターネット上で汚いののしり言葉や不快な画像を見かけたら、かならず親や保護者に伝えること。
常にあなた自身でいること。そして、他人のふりをしたりあなたの人物像を偽ったりしないこと。
だれかが信じられないほどのいい申し出をしたとしたら、それはおそらく信じてはいけないものであるということを常に忘れないこと。
 また、日本でも「インターネット協会」が「インターネットを利用する子どものためのルールとマナー集」を発行しています。(http://www.iajapan.org/rule/rule4child/

フィルタリングを利用しましょう

 フィルタリングとは、インターネット上の情報を選別して、見ることのできるウェブサイトを制限する技術のことです。フィルタリング・ソフトを使えば、親や保護者が有害と考えるサイトを子どもが訪れないようにできます。ただし、フィルタリングは表現の自由を妨げたり、大人に対して見たいものを見せないようにしたりするためのものではありません。
 フィルタリングには主に3つの方法があります--ブラックリスト化、ホワイトリスト化、中立的ラベリングです。ブラックリスト化はリストに載っているサイトへの接続を遮断するもので、逆にホワイトリスト化はリストに載っているサイトへの接続だけを許可し、その他の接続はすべて遮断します。中立的ラベリングの場合、サイトにはラベル(情報内容の区分を示す標識)が張られるか格付けがされるかしますが、それをどう使うかは利用者に委ねられます。
 コンピューターにフィルタリング・ソフトを入れるか、プロバイダなどが提供するサービスを利用するかすれば、より安心してインターネットを楽しむことができます。また、年齢などに応じて方法や設定を変えていくことで、安全を確保しながら、インターネット経験を深めていくことができます。
 日本語で使えるフィルタリング・ソフトは巻末の資料に載っています。また、「インターネット協会」は、市販ソフトやプロバイダ・携帯電話会社によるサービスについての最新情報を提供しています。(http://www.nmda.or.jp/enc/rating/nihongo.html


ホットラインを活用しましょう

 ホットラインは、子どもを搾取するウェブサイトやニュースグループの投稿、あるいは子ども虐待者についての一般市民からの通報をインターネットや電話、ファックス、郵便を通じて受け付けるものです。ホットラインは子どもポルノや子ども虐待者との闘いにおいて大きな成功を収める可能性を持っています。イギリスでは、「インターネット監視財団」がホットラインを立ち上げた1996年12月から99年末までの間に、寄せられた情報を元にしてプロバイダに対して2万件以上の削除が勧告されました。
 日本では、さまざまな問題について苦情を受け付けているホットラインが集まって「インターネットホットライン連絡協議会」(http://www.iajapan.org/hotline/)が設立されており、トラブルに応じた相談窓口を探すことができます。
 フィルタリングとホットラインについては第2部でより詳しく説明しています。


第2部 子どもを守るために

第1章●フィルタリング/レイティング・ソフトの仕組みとは?

 親は子どものインターネット体験に関わりを持つ必要があります。インターネット上で自らをどう扱えばいいのかを子どもに教えることが重要です。子どもの独立を保ちつつ、親が子どもを導くのを助ける手段として、前の章で説明したフィルタリング(見ることのできるウェブサイトの制限)やウェブサイトのレイティング(格付け)の仕組みがあります。

フィルタリング・ソフト フィルタリング・ソフトの中には、「スパイダー」と呼ばれる自動プログラムを利用しているものがあり、このプログラムはインターネットを泳ぎ回って、それぞれのサイトにどのような情報が載っているのかを調べます。これに対して、実際に人がサイトを見て回って内容を確認するプログラムもあります。いずれのプログラムともサイトを異なるカテゴリー(区分)に分類するのが一般的で、カテゴリーごとに接続・閲覧を制限できます。しかし、依然としてソフトの多くでは、文字が伴っていたり、フィルタリングのための格付け人が実際にサイトを訪れて確認をしたりしていない限り、性的にあらわな画像を選別することはできません。
 前の章で説明したフィルタリングの方法の一つであるブラックリスト化は、例えば「サイバーパトロール」というソフトで使われています。「サイバーパトロール」は約1万のサイトを12のカテゴリーに分類しており、親はどのカテゴリーへの接続を遮断するのかを選択することができます。これに対して、ホワイトリスト化の場合には、利用者が具体的に指定したサイトを除いて、接続はすべて遮断されます。この方法は非常に制限的なものですが、それだけ安全であり、とても幼い子どもがインターネットを利用する場合にはいい選択です。
 日本語対応のフィルタリング・ソフトも市販されています。また、「インターネット協会」はPICS(後を参照)に準拠したフィルタリング・システムを開発して無償配布しています。これらについては巻末の資料に情報を掲載しています。

レイティング・ソフト レイティング(格付け)システムはウェブサイトのコンテンツ(情報内容)の記述を活用するものです。レイティング・システムは利用者に選択を委ね、格付けの設定水準について主観的な判断ができるようにしなければなりません。ただし、チャットルームやテレビ会議の場合は、常に変化があり、格付けの対象とできるような固定した内容がないため、レイティングの仕組みを適用することができません。

PICS ほとんどのレイティング・システムは、「ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム」が開発した「インターネット情報選択のプラットフォーム」(PICS)という仕様に基づいています。PICSは文字または画像文書に電子的なラベル(標識)を埋め込みます。それによってレイティング・ソフトは、コンピュータが文書を表示したり、他のコンピュータに転送したりする前に文書の中身を調べることができます。PICSのタグ(標識)は、素材の製作者、インターネットへの接続を提供する企業、または独立の調査機関が付けることができます。
「娯楽ソフト諮問委員会」(RSAC)はインターネット上のサイトを格付けする仕組みであるRSACiを運用しています。RSACiは、コンピュータ・ゲームの暴力、ヌード、低俗さなどを格付けするのに用いられている仕組みと似ています。親は子どもに合ったコンテンツ(情報内容)の種類と格付けの設定水準を選ぶことができます。
RSACiシステムに基づき、新しい世界的なレイティング・システムが構築されているところです。これはICRA(インターネット・コンテンツ・レイティング協会)という団体が構築しているものです。この新しいシステムはマイクロソフトのインターネット・エクスプローラで使用することができますが、さらに多くのソフトが開発されているところです。
「セーフサーフ」はRSACiよりも多くのカテゴリー(区分)を用いており、独自の格付け基準を持っています。「セーフサーフ」のサイトではウェブサイト運営者が格付けのための質問票に記入をします。各カテゴリーごとに9つの水準(レベル)が厳密に年齢に基づいて設定されています。
日本の「インターネット協会」はRSACiを基礎とした格付け基準である「Safety Online(セーフティ・オンライン)」を策定しています。RSACiの基準に従った「ヌード」「セックス」「暴力」「言葉」の4つのカテゴリーに加えて、これらのカテゴリーでは網羅できない有害コンテンツへの対応として、「その他」を設けたことが特徴です。

セルフ・レイティング(自己格付け) セルフ・レイティングの場合、コンテンツ(情報内容)提供者が自分のサイトに関する情報を提出して、格付けコード(符号)を受け取ります。格付けはコンテンツ提供者自身が行いますが、この仕組みを運用する組織は格付けの正確性を確認する権利を持っています。自発的なセルフ・レイティングは「良循環」を生み出すものであり、奨励されるべきです。つまり、レイティング・ソフトを利用するインターネット利用者が増えれば、サイトの格付けを始めるコンテンツ提供者が増え、そうなればレイテング・ソフトを利用する誘因となる……というわけです。
 日本では、「インターネット協会」がセルフ・レイティング・ツール(道具)をインターネット上で公開しています。コンテンツ提供者は自分のサイトに当てはまる項目をチェックしていくことで、容易にセルフ・レイティングを行うことができます。(http://www.nmda.or.jp/enc/rating/details/selfrating.html

プロバイダによるフィルタリング プロバイダがフィルタリング・ソフトを導入する場合もあります。プロバイダ段階でのフィルタリングは、とくにアメリカで人気が高まっています。同様のサービスはイギリスやドイツにもあります。
 日本でも、フィルタリング・サービスを提供するプロバイダが増えてきています。新潟県では、県警察本部、教育庁、県福祉保健部、学校長会、市町村教育委員会、プロバイダ、青少年育成団体、有識者らによって「新潟県スクールネット防犯連絡協議会」が運営されています。同協議会が違法・有害情報の監視を行い、同協議会のフィルタリング・サーバに有害情報を登録し、このデータに基づき参加プロバイダが学校や家庭にフィルタリング・サービスを提供しています。
 フィルタリング・サービスを提供しているプロバイダや携帯電話会社については「インターネット協会」のサイトに最新情報が掲載されています。(http://www.nmda.or.jp/enc/rating/nihongo.html

第2章●ホットラインとプロバイダの行動規範

 インターネットの本質から言って、多くの国・地域の関係者の間で広く協力がなされることが求められます。ホットラインやプロバイダの行動規範は、子どもを食い物にするウェブサイトの通報を促したり、排除したりする上で助けとなります。ホットラインは地元の警察や税関、インターポール(国際刑事警察機構)のような国際機関と協力して運営されていることが多くあります。

ホットライン ホットラインは第1部の第4章で説明したように、一般市民からの通報を受け付けるものです。また、不快なサイトに関して苦情を申し立てる方法について市民に助言をします。さらに、ホットラインは不快なコンテンツ(情報内容)の削除を発信者に要請したり、プロバイダに対してそのようなコンテンツの削除を勧告したりすることができます。法執行を勧告することもありますし、外国から発信されたコンテンツの場合にはその国のホットラインや関係当局に情報提供することもあります。往々にして、当局を経由するよりもホットラインを経由する方が情報は速く伝わります。ホットラインはレイティング・システムの開発の奨励、促進および支援も行います。
 「欧州インターネット・ホットライン・プロバイダ連合」(INHOPE)はホットラインの新規開設を奨励、支援しており、ホットライン同士が効果的に協力できる方策を検討しています。ホットラインのヨーロッパ・ネットワークを築くことが最終的な目標です。
 日本では、国内の各ホットラインの実務担当者相互の情報共有や連携を目的として、2000年12月に「インターネットホットライン連絡協議会」が設立されました。ここにアクセスすればトラブルに応じた相談窓口を見つけることができます。(http://www.iajapan.org/hotline/

プロバイダの行動規範 いくつかの国では、プロバイダ団体がインターネット上の違法なコンテンツ(情報内容)に関する自らの役割と責任を明確にするために、行動規範の起草を行っています。欧州評議会の「視聴覚および情報サービスにおける未成年者および人間の尊厳の保護に関する勧告」はプロバイダ向け行動規範を起草するに当たって考慮されるべき事項をいくつか提示しています。

利用者はインターネット利用の基本的ルールとコンテンツ提供者の法的責任について知らされる必要がある。
未成年者は有害なコンテンツから保護されなければならない
有害なコンテンツが提供される可能性がある場合には、警告ページ、視覚的もしくは音声信号、ラベリング(標識付け)もしくは分類、または利用者の年齢確認の仕組みなどの保護措置が講じられるべきである。
プロバイダはフィルタリング・ソフトのような親による管理手段を支援すべきである。
苦情を取り扱う仕組みが備えられるべきである。
プロバイダは人間の尊厳を侵す違法なコンテンツと闘うための措置に対して効果的に支援をすべきである。
運営者と司法・警察機関との間の協力に関する基本ルールがプロバイダ向けに明記されるべきである。
行動規範の違反に対処するための手続きが盛り込まれるべきである。
 行動規範でどの側面が強調されるかは国によって異なります。イタリアの行動規範は3つのポイント--責任、身元確認、匿名性--に焦点を当てています。責任はインターネット上でコンテンツを提供する者に帰せられます。また、責任の所在を特定するために、コンテンツ提供者の身元を確認し、追跡できるようにすることを求めています。同時に、個人のプライバシーと匿名性保護の重要性を強調しており、匿名性の維持と捜査当局への協力との間のバランスを考慮しています。
 イギリスの行動規範では、UK ISPA(イギリスプロバイダ協会)のメンバーは、「インターネット監視財団」から特定の素材をウェブサイトまたはニュースグループから速やかに削除するよう要請を受けたときには、合理的な時間内にその要請に従って削除をし、素材の発信者がそのプロバイダの顧客であった場合には、同時に通知をしなければならないとされています。
 アメリカではAOL(アメリカ・オンライン)やAT&Tなどの大手通信企業が共同して“Get NetWise Safety Service"(ネット向けの安全サービスを得よう)を提供しています。これはあらゆる年齢向けの安全情報、近隣監視システムおよび法執行情報を提供するものです。
 日本では、1998年に「社団法人テレコムサービス協会」が、プロバイダ向けに「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」を策定しています。同ガイドラインでは、プロバイダは発信者との利用契約に定めることにより、違法・有害情報の流通を知った場合、次の措置を講ずることができるとしています。
情報発信を止めるよう発信者に要求する。
発信を止めない場合、当該情報の削除等の措置を取る。
繰り返し発信が行われる場合、発信者の利用停止・契約の解除を行う。

第3章●あなたには何ができるのでしょうか?

法律の改善 子どもポルノに対しては寛容ゼロです!あなたの国の法律が十分なものであるかどうか、そして、子どもポルノの製造、配布、さらに単純所持まで犯罪としているかどうかを確認しましょう。
 あなたの国の法律における「子どもポルノ」の定義が良いものであるかどうか、そして、擬似子どもポルノ(モーフィング〔改変〕されたポルノ)も対象となっているかどうかを確認しましょう。
 子どもの保護に関する可能な水準として最も高いものを法律に求めましょう。

法律の調和 各国間の法律の調和に関して、可能な水準として最も高いものを確保するために、地域・国際レベルの条約や取り決めについて議論するよう国会議員に促しましょう。

法執行 あなたの国の警察にインターネットの犯罪利用と闘うことを専門とする部門が設置されるよう働きかけましょう。このような部門については、担当者の訓練と高性能のコンピュータ機材が必要です。
 専門知識の共有と「サイバー警官」育成のための訓練を促しましょう。警察の担当部門に対して、外国の技術的ノウハウや子ども虐待者の追跡・発見手法を学べるよう、外国の担当者とのルートを確立し、強化することを促しましょう。

日本の警察庁がインターネット上の子どもの安全確保策を支援
 2002年3月、ECPAT/ストップ子ども買春の会は本ガイドの日本語版を発行しました。その記者発表には警察庁の担当者も出席しました。警察庁は警察官の研修で使うためにこのガイドの増刷を注文しました。日本では、子どもポルノを具体的に禁止する法律が1999年11月に施行されたばかりで、立法の歴史が浅いのですが、このような警察庁の対応は非常に励みとなることです。

プロバイダ 地元のプロバイダが子どもポルノに関する行動規範を定めているかどうかを確認しましょう。地元のプロバイダに対してこの問題に関して警察や他のプロバイダと協力するよう促しましょう。

オーストラリアの新しい法律
 オーストラリアでは「1999年放送サービス修正(オンライン・サービス)法」が成立しました。これは禁止されているコンテンツ(情報内容)に関するプロバイダの責任を明確にするものです。通常の電子メールとチャット・サービスは対象外です。子どもは16歳未満の者または16歳未満に見える者と定義されています。
 この法律は2000年1月1日に施行されましたが、違法なコンテンツだけではなく、不快な素材および成人向け素材も対象としているため、オーストラリア国内で強い批判を招きました。この法律では、プロバイダは対象となるコンテンツの存在を知った後でも削除をしなかった場合に限って、自社のサーバに置かれたコンテンツに対して法的責任を負うことになっています。違法なコンテンツが自社のサーバに置かれていることを知らなかったときには刑事責任は発生しないのです。
 個人はインターネット上のコンテンツに関して、オーストラリア放送庁(ABA)のウェブサイトまたはファックス、手紙、電話で苦情を申し立てることができます。ABAはそのコンテンツが禁止対象に当たると判断した場合には、プロバイダまたはコンテンツ提供者に通知をします。プロバイダは指定された時間内にそのコンテンツを削除するか、接続を遮断しなければなりません。コンテンツが海外から発信されていた場合には、プロバイダは行動規範に基づき、接続を遮断するために「合理的な措置」を講じなければなりません。その場合、外国の関係機関に情報提供をするために、オーストラリア連邦警察にも通知がなされます。

ホットライン 地元のホットラインを支援しましょう。または全国レベルの専門ホットラインの開設を促しましょう。もしかしたら、あなたの地元のプロバイダがやるかもしれません。
 必要があれば、あなた自身でホットラインを開設しましょう。ホットライン間のネットワーク形成を促しましょう。
 どんな場合でも子どもポルノを見つけたら適切な機関に通報しましょう。

ホットライン--子どもポルノ・リング(同盟)の取り締まりを支援
 2001年1月16日、NGO「セーブ・ザ・チルドレン」から情報提供を受けたスウェーデン警察は、50人以上の容疑者が関与していた同国最大の子どもポルノ・リングを壊滅させました。「セーブ・ザ・チルドレン」の運営するホットラインに2000年11月、子どもポルノの存在を知らせる電話があり、警察に通報したのです。押収されたコンピュータからは「あらゆる年齢の、そして一部はとても幼い子どもの」ポルノ写真やビデオ画像が見つかりました。

ホットラインを開設するコツ
最初から、そして過程全体を通して国の機関を関与させること。
ホットラインが担当する地域のプロバイダを関与させ、彼らとコミュニケーションを取ること。ホットラインが日常業務を遂行するためには、彼らから受け入れられ、信用と支援を得る必要があります。
ホットラインの責任領域を法律で明確に定義されている分野に集中すること。検閲をしようとしていると非難を浴びる可能性のある分野は避けること。
明確に定義され、しっかりとした理解が得られ、一般市民が利用可能な手続きを定めること。
同じような分野で取り組みをしている既存の組織の経験を集めること。
利用可能なコミュニケーション手段をすべて使って、インターネット利用者にサービスについて知らせること。

家庭で コンピュータの使い方を学びましょう!あなたの子どもがインターネットで何をしているのかを知りましょう。親または保護者としての責任を引き受け、あなたのコンピュータ・キッドが「ネットスマート」となるようにしましょう。
 フィルタリング・ソフトを買うか、またはあなたのコンピュータに組み込まれて(インストールされて)いるか確認しましょう。

情報提供・教育キャンペーン
 スペインの「子どもポルノに対する行動」(ACPI)は2000年2月に「安全に遊ぼう」という名称のキャンペーンを開始しました。このキャンペーンでは、子どもが虐待を受けている兆しや、ペドファイル(小児性愛者)の虐待者が活動する手段について親たちが教育を受けています。
 また、ACPIは2002年にも「子どもオンブズマン」やスペイン語サイト向けプロバイダ大手のTerra-Lycosと協力して新しいキャンペーンを行っています。ACPIは、インターネットを利用する際に守るべき基本的ルールを説明する8ページの漫画冊子を若者向けに作成しました。また、これらのルールを伝えるイラストが入ったマウスパッドがすべての学校向けに配布され、親には情報を盛り込んだパンフレットが配られます。Terra-Lycosは若い利用者向けサイトのある「安全地帯」を設けるとともに、学校のサーバにフィルタリング・ソフトを組み込んで(インストールして)います。
 エクパット台湾も2000年に、ホットライン(「Web547」という名称)で受け付けた通報を処理するために親によるボランティア・チームを組織し、研修を行うとともに、子どものインターネット利用を監視する方法を教えました。
学校で 地元の学校が生徒に対して、インターネット情報から得られる利益と限界について理解するために必要な技能を教えているかどうかを確認しましょう。学校で「ネットスマート・ルール」を配布しましょう。

ニュージーランドの「インターネット安全グループ」と教育省
 ニュージーランド教育省は他の政府部門、学校、エクパットなどのNGOと協力して、学校で配布する「インターネット安全キット」を作成しました。このキットには「インターネット上の安全に関する合意書」が入っており、これは家族が協力してインターネットを安全に利用できるよう子どもと保護者が署名するものです。キットでは?子どもが危険にあうことなくインターネットを楽しむためのコツやヒントが親、教師、子ども向けにまとめられています。このキットにはインターネット版もあります。(http://www.netsafe.org.nz/ie/kit/index.asp?xmldata=kit.xml


第3部 法律に関わる問題

プロバイダの責任とは?

 プロバイダはインターネットに接続するコンピュータ1つ1つに、IP(インターネット・プロトコル)アドレスと呼ばれる住所(識別用の数字)を割り当てます。ある1つのコンピュータに決まったIPアドレスが与えられることもありますが、たいていの場合、プロバイダは「動的(ダイナミック)」IPアドレス・システムを利用しています。動的IPアドレスは利用者がインターネットに接続するたびに無作為に割り当てられます。何人かの利用者が同じ日に同一の動的IPアドレスを利用する場合もあります。
 動的IPアドレスはインターネットの資源を分配し、情報の流れを制御する上で便利な手段です。しかし、動的IPアドレスをたどって個々の利用者を突き止めるためには、プロバイダの利用記録(ログ)を確認してそのIPアドレスが特定の時間にどの利用者に割り当てられたのかを見るしかありません。ですから、プロバイダが持っているIPアドレスの利用記録と利用者情報は、インターネットを使って子どもを搾取する者を見つけ、裁く上で不可欠なのです。
 多くの国では、いわゆる「無料」プロバイダが登場しています。このようなプロバイダを使う場合には、電話代以外に料金はかかりません。だれかがいったん無料プロバイダに入会してしまえば、その利用者の本当の身元を特定することはたいていの場合不可能です。偽名を使ってインターネットを利用する犯罪者を逮捕するためには、プロバイダから完全な協力を得る必要があります。
 しかし、プロバイダは令状なしに利用者の個人情報を提供したら、その利用者の自由を侵害することになるのではないかと恐れるかもしれません。また、そのような情報をプロバイダが保持しまたは提供することを求める法律を作った場合、プライバシーや通信に関わるその他の法制度とぶつかる可能性もあります。そういった中で、プロバイダに対して、管理するサーバ上のコンテンツ(情報内容)を監視する積極的な義務を課し、義務違反に対する罰則を定める法律を作った国もあります。

事例:Buffnet(バフネット)
 1998年、ニューヨーク州検察と州警察は「小児大学」というグループの捜査に着手しました。このグループの会員はニュースグループを使って子どもポルノを取得し、交換していました。一連の起訴がなされ「小児大学」は解体されました。それによって捜査の焦点はニュースグループの利用を可能にしていたプロバイダへと移りました。その1つがニューヨーク州バッファロー郊外の地域プロバイダ大手Buffnetでした。2001年2月、Buffnetは犯罪を助けた罪を認めました。同社は、ニュースグループの1つが子どもポルノ画像配布のために使われていることを当局や顧客から知らされたときに、対応を取らなかったことを認めたのです。Buffnetには5千ドルの罰金が科されましたが、イメージ悪化の効果は測りしれません。
 ニューヨーク州検事総長のエリオット・スピッツアーは「どんなプロバイダでも、この種の凶悪犯罪について知らされたら行動を起こす義務があります。しかし、Buffnetはそっぽを向くことを選んでしまいました」と言います。「この対応はどのような法律あるいは良心に照らしても弁護できるものではありません」。
 これまでのところ、この分野における起訴の対象は、子どもポルノを取り込んだり、取引したりした個人が中心です。ここで取り上げた事件においては、このような犯罪の手段や機会を分かっていながら提供したプロバイダも捜査対象に含めるよう範囲の拡大が図られました。

子どもポルノとは何でしょうか?

 「子どもポルノとは何か」というのは、最も難しい問題の1つです。「わいせつな」、「きわどい」といったことに関しては文化ごとに多くの解釈があります。また、子どもポルノを構成する要素や処罰の対象となる行為などについても意見の違いが見られます。
 インターポール(国際刑事警察機構)の「子どもに対する犯罪に関する専門家グループ」は、「子どもポルノは子どもに対してなされた搾取または性的虐待の結果である。子どもポルノは、子どもの性的行動または性器に焦点を当てて子どもの性的虐待を描写しまたは促進するあらゆる方法と定義することができ、印刷および/または聴覚素材を含む」としています。
 「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノに関する子どもの権利条約選択議定書」は、子どもポルノを「現実のもしくは擬似のあらわな性的活動に従事する子どもの、あらゆる方法でなされるあらゆる描写、または主として性的目的でなされる子どもの性的部位のあらゆる描写」と定義しています。
 また、「欧州サイバー犯罪条約」は子どもポルノを次のように定義しています。
以下のものを視覚的に描写するポルノ素材:
(a)性的にあらわな行為に従事する未成年者
(b)性的にあらわな行為に従事する未成年者のように見える者
(c)性的にあらわな行為に従事する未成年者を表現した写実的な画像
 子どもポルノはさまざまな形態で存在します。最もよく見られるのが視覚的な子どもポルノであり、「現実のもしくは擬似のあらわな性的活動に従事する子どもの視覚的描写、または性器のあからさまな開示」を意味します。聴覚的子どもポルノとは、「利用する者の性的興奮を目的として、現実のまたは擬似の子どもの声を用いるあらゆる聴覚装置の使用」です。子どもポルノは「性的行為を描写しまたは性的興奮をもたらすことを目的として文字だけを用いるもの」の場合もあります。

子どもの権利条約選択議定書 「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノの問題に関する子どもの権利条約選択議定書」は2002年1月18日に正式に発効しました。議定書の規定に基づき、批准国は子どもの性的搾取目的で行われる子どもポルノの製造、頒布、流布、輸入、輸出、提供、販売および所持を犯罪としなければなりません。以上の行為の未遂や、これらの行為への共犯あるいは関与も刑事法において処罰対象とすることが求められます。犯罪が国内的なものであれ国際的なものであれ、また、個人によるものであると組織的なものであるとに関わらず、議定書の対象となります。


主要な法的問題は何でしょうか?

法律の違い インターネット上での子どもの性的搾取を裁く上で最も難しい側面の1つが各国間での法律の違いです。「子どもの定義は何か」、「何が子どもポルノに当たるのか」、「どのような形態が対象となるのか」といった点について国ごとに異なるのです。単純所持(自分で使うためだけに持つこと)が犯罪かどうか、実際に存在する子どもが使用されている必要があるのかなどについても違いがあります。法律の調和がなされなければ、犯罪者は子どもの虐待や子どもポルノに関して限定的な法律しかないところに逃げ込もうとし続けることでしょう。
 例えば、日本は子どもポルノを定義し、頒布、販売および公然陳列を処罰する法律を1999年5月にようやく制定しました。それ以前にはかなりの量の子どもポルノが日本から出回っていました。また、ドイツの警察がホットラインに寄せられた苦情を分析したところ、その81%についてはドイツまたは外国の法律に違反していないために対応できなかったことが明らかになりました。ドイツのホットラインに通報のあったインターネット関連事件の50%は外国における捜査が必要なものでした。
 このように各国間で法律を調和させる必要がありますが、最も重要なことは、インターネット上で子どもを巻きこんで行われる犯罪活動に対処するために以前からある法律を活用することです。技術進歩が速いために、インターネットに特化した法律はすぐに時代遅れになってしまうかもしれないからです。

管轄 インターネットは国際的なものですが、インターネット上の活動を規制する当局は国単位(あるいは州単位)です。国際的な犯罪に対する管轄の決まり方はさまざまです。犯罪がどこで行われたかによる場合もあれば、被害がどこで発生したかによる場合もあります。インターネットを経由した子どもポルノの伝送はしばしば管轄の問題を生じさせます。そのポルノがどこから送られてきたのか、被害がどこで発生したのかを特定することが不可能な場合があるからです。
 子どもの虐待または搾取事件の場合、国や法律によっては犯罪者がその国にいることが求められますし、犯罪者がその国にいることと犯罪がそこで行われたことの両方が必要な場合もあります。被害にあった子どもがその国にいるだけで十分な場合もあります。しかし、多くの国の法律は、国外で子どもに対して犯罪を行った自国民(国外犯)を処罰することを可能にしています。日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」には、子ども買春や子どもポルノに関する犯罪などについて、国外犯を国内犯と同様に処罰する規定があります。インターネットの不法で有害な利用に関わる管轄上の問題に対応するために特別な法律を作った国もあります。
 欧州評議会が採択した「サイバー犯罪条約」の締結は欧州評議会加盟国および起草作業に参加した非加盟国に開かれています。少なくともヨーロッパ内部においては、この条約によって管轄をめぐる問題のいくつかに答えが出るとともに、ヨーロッパ各国間の司法協力がより迅速で簡潔なものとなることでしょう。

日本初の国外犯適用事犯
 2000年11月に神奈川県警少年課と南署は、東京都の書籍販売会社「コネクション」を経営する男性(51)ら同社社員3人を「子ども買春・子どもポルノ禁止法」違反の容疑で逮捕しました。これは、同法の国外犯規定を適用した日本初の事件です。同県警はインターポール(国際刑事警察機構)を通じてタイ政府に捜査協力を依頼し、被害者の女の子を特定しました。同容疑者らは1999年12月に、タイのチェンマイ県のホテルで、当時高校生だった同国の16歳と17歳の女の子をヌードにしてビデオで撮影し、また、同様に女の子たちを撮影した子どもポルノを同年11月から12月にかけて、インターネットや宅配を利用した通信販売などによって、1巻1万円で3人の客に販売しました。販売したビデオや写真集は、同法に触れるのを免れるため「18歳」と広告し、外国人の女の子たちには日本人の名前をつけて販売していました。

形態 ほとんどの国ではポルノに関する一般法が子どもポルノにも適用されますが、視覚媒体のみがポルノと定義され、音声や文字は対象外とされている国もあります。また、ほとんどの法律が書かれた時点では、インターネットを経由して生中継(リアルタイム)で画像を送る形態は登場していませんでした。子どもの権利条約選択議定書、欧州サイバー犯罪条約といった国際法文書が子どもポルノ犯罪の最も重要な要素を定義したことで、それぞれの国の法律が異なった形態を対象としているという問題に答えが出ることが期待されます。選択議定書とサイバー犯罪条約をほとんどの国が完全に批准し、最低限の保護水準が世界共通に得られることが望まれます。
 日本では、2004年に「子ども買春・子どもポルノ禁止法」が改正され、従来「写真、ビデオテープその他の物」となっていた子どもポルノの定義に画像データ(電磁的記録)が加えられました。筆記文書は子どもポルノに当たりません。絵については、実際に存在する子どもの姿を描いたものと認められる場合は子どもポルノに当たります。

所持を犯罪とすることがなぜ重要なのでしょうか?

 子どもポルノの単純所持(自分で使うためだけに持つこと)を犯罪とすることが重要な理由はいくつかあります。警察には子どもが性的に虐待されたかどうかが分からない場合がありますが、その子どものポルノ画像が見つかれば虐待が実際に行われたことを確認できます。また、子どもポルノの発見がきっかけとなって行方不明の子どもが見つかることも多いのです。さらに、子どもポルノが見つかれば、摘発を免れていた子ども虐待者を有罪とする証拠を得ることができます。
 子どもポルノを持っているだけで犯罪としてはならないと主張する人たちもいます。しかし、子どものポルノ画像1つ1つが子どもに対する犯罪なのです。画像を所持するのは盗品を受けとるようなものです。虐待の記録に対する「市場」をその人が提供しなければ、その虐待は起こらなかったかもしれないのです。また、専門家は、子どもポルノ画像を所持している者は虐待者であるか、子どもを虐待したいと考えている者であると言います。だから、所持は司法・警察当局以外に許されてはなりません。
 日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」(2004年改正)では、提供または公然陳列を目的とした子どもポルノの所持・保管は処罰されますが、単純所持は禁じられていません。2004年に提出された改正案では、単純所持の禁止(罰則なし)も提案されていましたが、実現しませんでした。


子どもとはだれのことでしょうか?

 「子どもの権利条約」が18歳未満のすべての者を「子ども」と定義しているにも関わらず、子どもの定義は国によって、あるいは州によってさえ大きく異なります。定義は年齢によることもあれば、性的成熟の程度によることもあります。ほとんどの定義では子どもの法的年齢を13歳未満から18歳未満に設定しています。日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」では「18歳未満の者」となっています。国によっては、子どもポルノ事件の起訴において子どもの年齢を特定することは求められていません。これらの国では、子どもであるという印象が与えられれば十分なのです。
 欧州評議会の「子どもポルノに関するサブグループ」は、子どもポルノ法では、実際に存在する未成年者、未成年者に見える者またはそのように描写されている者、そして、未成年者の人工的またはモーフィング(改変)された画像を対象とすることを提案しています。イギリスなどでは、人工的なまたはモーフィングされた子どもポルノ写真も違法とされており、現実を写したものとまったく同様に扱われています。
 日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」は実際に存在する子どもの姿を描いたものだけを対象としていますが、「合成写真」(コラージュ写真)でも、実際に存在する子どもの身体の大部分が描かれている場合には違法となる可能性があります。


ポルノのいかなる側面が犯罪とされているのでしょうか?

 犯罪化されている子どもポルノの側面としては、所持、保管、販売、配布、輸出、輸入、配布の意図、子どもの虐待を描写するもしくは促す意図、供給、または以上の行為の幇助(手助けをすること)などがあります。インターネットに特化して子どもポルノに対応する法律を導入した国もあります。
 日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」は、子どもポルノの(1)提供または公然陳列、(2)提供または公然陳列を目的とする子どもポルノの製造、所持、保管、運搬、日本への輸入・輸出および外国への輸入・輸出、(3)製造(子どもにポーズをとらせ描写)が犯罪となっています。


表現の自由についてはどう考えるのでしょうか?

 表現の自由についての権利があるのだから子どもポルノを所持したり、それを他の人と交換したりする権利があるのだと主張する人たちがいます。インターネット上での意見の広がりを最大限に保障するためには情報の自由が必要ですが、子どもの性的虐待、子どもポルノおよびペドフィリア(小児性愛)は、現実の世界で起こるものであってもインターネット上で起こるものであっても許容されてはなりません。技術が進歩したからというだけで社会的な価値は変化しないのです。
 表現の自由は絶対的な権利ではありません。人権に関する基本的な国際法である「市民的および政治的権利に関する国際規約」は制限を課されたり、損なったりされることがあり得ない権利を挙げていますが、そこに表現の自由は含まれていません。同規約第19条は表現の自由について次のように規定しています。

  1. すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
  2. すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書きもしくは印刷、芸術の形態または自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報および考えを求め、受けおよび伝える自由を含む。
  3. 2の権利の行使には、特別の義務および責任を伴う。したがって、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
     (a)他の者の権利または信用の尊重
     (b)国の安全、公の秩序または公衆の健康もしくは道徳の保護
 この規定は国際法上、表現の自由は絶対的なものではなく、性的虐待やプライバシーの侵害から保護されるという子どもの権利との間でバランスを取らなければならないということを示しています。

アメリカ憲法修正第1条とモーフィングに関する懸念
 2002年4月、アメリカ連邦最高裁判所は、バーチャルな(仮想現実の)および擬似の子どもポルノを禁じる「子どもポルノ防止法」(CPPA)の規定について、言論の自由を保護する憲法修正第1条に照らして無効とする判決を下しました。
 「子どもポルノ防止法」を支持する人々は、バーチャルなおよび擬似の子どもポルノは子どもを性的に虐待する者が犠牲者を誘う手段として利用するだけでなく、このような画像の存在自体が子どもを性的に虐待する者の欲望を刺激し、新たな犠牲者を求めるよう促すと主張しています。
 しかし、連邦最高裁は「実際に存在する」子どもの描写がない以上、そのような画像と子どもの性的虐待との間に「直接的関係」は認められないと判断しました。また、多数意見では子どもポルノ製造者が子どものバーチャルな画像を用いるという実質的な危険は認められないとされました。
 さらに多数意見は、「子どもポルノ防止法」が「重要な文学的、芸術的、政治的または科学的価値」を有する言論を事実上禁止した可能性があるとしました。例として、14歳同士の性的関係を含むラブストーリーである「ロミオとジュリエット」が挙げられました。この物語は15歳以上の俳優が主演して何度も映画化されています。これに対して少数意見は、多数意見がこの法律の持つ力を誇張しているとしました。少数意見は、この法律が1996年に施行されて以降もハリウッドでは10代の性を食い物にする映画が多数製作されており、これらの映画の製作者は一度も起訴されたことがなく、彼らはこの法律があるからといって映画の製作をやめていないと指摘しました。
 アシュクロフト司法長官は判決に失望したとする一方で、司法省は子どもポルノ事件の捜査・起訴努力を強めることになろうと述べました。同司法長官は連邦議会と協力して、最高裁の審査を通過できるような新法を起草すると約束しました。

表現の自由の問題か?
 ジョン・シャープは裸の男の子たちの写真と子どもに関わる短編小説を所持していたとして逮捕されました。彼は表現の自由とプライバシーの権利の侵害であるとして争い、2つの公判で勝利を収めました。2001年1月、検察側は判決を不服としてカナダ最高裁判所に上告しました。国際エクパットとカナダのエクパット関連団体は最高裁に意見を提出することを認められました。
 カナダ刑法第163条第1項では、18歳未満の者との性的活動を擁護しまたは勧めるような「視覚的表現」および「筆記素材」を子どもポルノに含める広範な定義が定められています。
 最高裁の多数意見は、ある種の形態の子どもポルノの所持を犯罪とすることは、それによってだれかの表現の自由が侵害されるという事実に関わらず、子どもポルノが子どもにもたらす害悪によって正当化されると判断しました。
 その上で法律によって禁止されている子どもポルノのうち2つの形態に焦点を当てました。すなわち、(1)被告が製造し、個人的利用目的のみで被告だけが所持している筆記または視覚的表現、(2)被告が製造しまたは被告を描写した視覚的記録で、違法な性的活動を描写しておらず、個人的利用目的のみで被告だけが所持しているもの。
 多数意見はこれらの点について法律は行き過ぎであり、「子どもに対する害悪を防止するという面でもたらされるわずかな利益」に比べて、言論の自由に係る損失が大き過ぎるとしました。このように、判決は政府が子どもポルノの所持を犯罪と定める権利を確認する一方で、どのような種類の子どもポルノが禁止されるのかを政府があらかじめ決める権利については制約を課しました。
 2002年3月26日、シャープは子どもポルノ所持に係る2つの容疑について有罪判決を受けました。しかし、彼が書いた「シャープの子どもに対する変態嗜好小説」などの文章に係る別の2つの容疑については無罪となりました。これらの作品は子どもに対する性犯罪の実行を擁護するものではなく、一定の芸術的価値があると判断されたのです。同年5月2日、シャープに対して、1日16時間の電子的監視を伴う4ヶ月の自宅拘禁、18歳未満の者との接触禁止およびインターネット使用の厳格な監督という刑が下されました。


エクパットの子どもポルノに関する方針

エクパットは、子どもを関与させる性的活動を描写し若しくは模写した、又はあからさまな仕方で子どもの性器を開示した、18歳未満の子どものあらゆる筆記、視覚的又は聴覚的描写に反対する。
エクパットは、全ての国が擬似子どもポルノを含む子どもポルノの製造、頒布、輸入及び単純所持を犯罪とし、製造者、頒布者、輸入者及び/又は所持者に厳しい刑罰を科すべきであると信ずる。その際、犯罪意図又は商取引の証拠があることを要件としてはならない。エクパットは、全ての国において適切な立法がなされることを目指して、ロビー活動と意識喚起をすることにコミットする。
エクパットは、子どもの権利一般及び性的搾取から保護される子どもの権利が大人のプライバシー及び言論の自由に対する配慮に優越すべきであると信ずる。子どもの最善の利益が優先されるべきである。
エクパットは、インターネットに関係する子どもポルノの訴追を容易にする二国間及び多国間取り決めを含む立法及び法執行メカニズムの適切なモデルの検討を支持する。エクパットは、コンピュータ及びインターネットを利用した子どもポルノの伝送に関わる技術的問題に対する解決策を見付けるために、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)やソフト及びサーチ・エンジン製造業者と前向きかつ協力的な関係を構築することを目指している。
エクパットはISPに対して、警察に子どもポルノを通報することを約束し、ユーザーにその意思を知らせるとともに、サイト上で子どもにやさしい情報を提供することを内容として盛り込んだ行動規範を定めることを奨励する。エクパットはISPに対して、子どもに対する性犯罪者によるインターネットの犯罪利用を防止するため、法執行機関にあらゆる可能な協力をすることを奨励する。
エクパットは、子どもたちが子どもポルノの犠牲者や被写体となったり、インターネットを介して有害な素材に晒されたり、誘われたりするリスクを減少させることを可能にするような市民教育や意識喚起プログラムを支持する。
よって、エクパットは、子どもたちや大人たちが子どもポルノを通報したり、インターネット利用に潜む危険について学んだりすることができる国内ホットラインや教育ウェブサイトの開設も奨励する。
エクパットは、地元の警察の具体的な許可があり、彼らとの協力がなされていない限りは、また、教育目的で厳格に管理された状況下にない限りは、その業務において、スタッフやメンバーが子どもポルノを所持することは適切でないと考える。
しかし、エクパットは、法執行機関が立法者や裁判官のような社会変革をもたらす可能性のある者に対して子どもポルノの例を示すことは奨励する。



【資料】

 文献・リンクについては、基本的に日本語で利用できるもののみ掲載しました。リスト全体については、本ガイド英語版を参照して下さい。
 http://www.ecpat.net/eng/Ecpat_inter/projects/preventing_pornography/prevent.asp#4

【リンク】

ECPAT/ストップ子ども買春の会 http://www.ecpatstop.org/
国際エクパット(ECPAT International) http://www.ecpat.net/
財団法人インターネット協会 http://www.iajapan.org/
インターネットホットライン連絡協議会 http://www.iajapan.org/hotline/
日本ユニセフ協会 http://www.unicef.or.jp
外務省 (第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議のページ)http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csec01/index.html
警察庁(「生活安全の確保」のページ)http://www.npa.go.jp/safetylife/index.htm


【インターネット・アクセス遮断/フィルタリング/利用追跡ソフト】

ベス http://filtering.nissho-ele.co.jp/
サイバーパトロール http://www.netmedia.solution.ne.jp/products/cp/index.html
サイバーシッターII http://www.iqs-j.com/
サーフモンキー http://www.surfmonkey.co.jp
財団法人インターネット協会 http://www.nmda.or.jp/enc/rating/index.html
日本語対応市販フィルタリングソフト http://www.nmda.or.jp/enc/rating/nihongo.html
 本ガイド英語版に記載されているソフトのうち、日本語版があることが確認できたものについては日本のサイトのURLを掲載したが、このサイトでは、これらを含め、日本語対応ソフトのリストが提供されている。


【参考文献】

ジョン・カー(外務省訳)『子どもポルノとは何か(第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議テーマ・ぺーパー3)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/pdf/jido_p.pdf
マーク・ヘクト(外務省訳)『重要なパートナーとしての民間セクター(第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議テーマ・ぺーパー4)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/pdf/p_minkan.pdf

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