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電子ネットワーク協議会 平成9年10月度月例セミナー概要

「仮想空間チャットサービス」

講師:凸版印刷株式会社 マルチメディア事業部
プロデューサー 大尾嘉 宏人

1.仮想空間チャットサービス、「グロープワープ」誕生の経緯

 当社は1994年12月に日本で初めての企業の複合モール「サイバーパブリッシングジャパン」を公開しました。Web上でいかに情報発信ができるかということを考え、いくつかの実験をしてきました。例えば、どのようなインデックス画面を設ければ、該当のホームページに飛べるのか、オンラインショッピングにおける決裁システムをどうするか、あるいはインターネット上ではどのような商品が好まれるのか。プレゼントキャンペーンを展開し、商品を当てるようにするとか。お客さまからのアンケートをインターネットで収集するとどのような効果があるのか、どのような情報が集まるのか…。こうしたことに取り組んできましたが、ある1つの問題点にぶつかります。検索ができる、プレゼントキャンペーンに特化して情報を載せる等、これらは基本的に表現の手段にすぎないということです。例えて言うなら、1冊の本です。私どもは、参加していただく企業の方のコンテンツとユーザーの方々をいかに橋渡しをするかということで企業の複合モールを立ち上げたわけですが、ただ単に手段の部分、いわゆる本を編集するという部分だけでいいのだろうか、という問題があるわけです。それで、一体インターネットのユーザーはどんな使い方をするのか、あるいはインターネット上のコンテンツはどんな広がり方をするのかという部分をどうするのかということが課題になりました。
 モールを発展させるにはどうすればよいのかを考えていくと、単純に店を作りつづければよいというわけでありません。店に入るお客さまが必要であり、お客さまが「ここのお店は面白いよ」と別のお客さまに紹介する…そういった動的な部分がないと飛躍的に発展しないのではないでしょうか。お客さまとお客さま、あるいはお客さまと店員とのコミュニケーションを活性化させるようなしくみにするにはどうすればよいか…。
 私たちは「3次元」という表現力と「アバター」と呼ばれる発想に注目しました。3次元は2次元よりも表現力を広げ、商品やサービス等が上手く伝えることができます。アバターはユーザーのかわりにコミュニケーションをしてくれるキャラクターですが、文字ベースのフォーラムやチャットで情報交換するよりも、ユーザー同士の結束がより強くなるのではないかと考えました。また、アバター同士が動き回るということで、エンターティメント性が非常に高くなるのではないかということもありました。
 こうして、3次元とアバターという発想から「グローブワープ」というサービスが考えられました。

2.グロープワープのサービス内容


 グロープワープは、3次元のコンテンツを中心にしています。ユーザーは特殊なブラウザを入手して、3次元空間にアクセスします。ユーザーはアバターと呼ばれるキャラクターになりすまして、他のユーザーとリアルタイムにチャットと呼ばれる文字会話を楽しむことができます。
 サービスは無料でご提供しています。ユーザー登録を私どものホームページ上でユーザー登録していただき、こちらから電子メール宛にシリアル番号を送り、名前とパスワードが入手できます。推奨マシンスペックは486DX以上、推奨モデムは9.6Kbpsです。非常に軽い回線、ローエンドのマシンスペックで快適に動くチャットの技術を持っています。専用ブラウザソフトはパソコン雑誌等の付録に収録しており、1日約100名の方に登録いただいています。現在の登録ユーザー数は約3万人です。
 グローブワープの商品として、1996年5月に「WorldsChat/J2」を立ち上げました。現在では1日約5000アクセスあり、1人当たりの平均滞在時間は42分以上です。つまり、この空間に入ると、42分以上はコミュニケーションをしている、あるいはチャットをしているということになります。

3.グロープワープで広がるユーザーのコミュニティ

 グロープワープへはアバターギャラリーという自分の姿になってくれるアバターをまず選びます。3次元空間に入ると、会話文を表示するチャットウィンドウと、アバターが動く3次元空間を表示するナビゲーションウィンドウが表示されます。ナビゲーションウィンドウに見えているアバターに対し、例えば「こんにちは」と呼びかけると、呼びかけられたアバターへ「こんにちは」という会話が届きます。こうして、自分が知らない人と出会い、会話をして、その会話が盛り上がってコミュニケーションが生まれていくわけです。
 1つ、面白い現象を紹介します。グロープワープのサービスを紹介するホームページに「リンク天国」というコーナーがあります。グロープワープで知り合ったユーザーがグループや団体を結成し、そのグループが作成したホームページへリンクされています。このホームページは現在181サイトあります。このホームページの中に、「目玉クラブ」というのがあります。アバターの種類に、目玉の形をしたアバターというのがいるのですが、これが気に入っていて、チャットするときはいつも目玉のアバターになりすましている人たちがいます。この人たちが集まって結成されたグループですが、グロープワープの中でも非常に大きな会員組織です。会員リストを作り、自己紹介画面とかメールアドレスをクリックしてメールを送ることができるようなホームページを作っています。1人があるアドレスにメールを投げると、そのメールアドレスにと登録している何百のユーザーにメールを送ることができるという仕組みも作っています。
 私どもは、お客さまが自由に会話ができる3次元空間をインターネット上にオープンしただけですが、お客さまがお客さまを呼んで、このように大きな組織が出来上がってしまいました。インターネットのサービスの中では、非常に特異な現象ではないかと思っています。
 また、オンラインで知り合った同士が、実際にオフラインで集まろうというオフラインミーティングも目玉クラブの場合、主要都市部に支部があり、オフラインの会合を開催しているようです。最初に会合に集まるときは、やはりバンドル名、いつもチャットの中で使っている名前がありますが、その名前をバッジにします。そうすると「あ、あなたは何々だ」ということで、顔を合わせたことがない人同士が分かり合えるそうです。
 やはりチャットですから、情報交換があります。「競馬好き広場」は競馬が好きな人たちが集まって、どの場所にいてもインターネットを使って情報交換したら非常に面白いのではないかということで始めたものです。こちらには関東支部と関西支部があります。
 また、ユーザのコミュニティに「ローカルチャット」というのもあります。グロープワープのチャットで知り合い、会話をしていくうちに「今度、会おう」という話しになっても、お互いが遠いところに住んでいれば、なかなかそうも行かない。そうであれば、最初からチャットする人間のことがある程度わかっていればいいのではないかということから発想されたようです。ユーザーを県別で募集し、名簿を作成し、県別のローカルチャットの仕組みを作っています。ほかにも「ご近所さんを探せ」というホームページもあり、かなりのアクセス数を誇っています。地理的に近くにいる人と会いたいというニーズに対応しているようです。
 さきほど、グロープワープのいくつかのクラブを紹介しましたが、この中で知り合い、ご結婚されたカップルが3組いらっしゃいます。当社でも電報を打たせていただきました。
 グロープワープで見られた面白い現象を、もう一つご紹介します。グロープワープのコンテンツとして、1997年4月に「メタプラザ」を立ち上げましたが、サービスを開始する前に、ニーズを探るためにαテストを実施しました。テスターになってもらう70人に「明日の木曜日に、どこからもリンクされていないホームページにαテストのデータを置きます。このパスワードは…です」という内容のメールを水曜日に送りました。すると、木曜日にはホームページへのアクセスが950件以上あったのです。これは、チャットによる口コミ効果ということでしょう。つまり、70人に伝えた情報が、翌日には950人以上に伝わっていたとことになるわけです。
 グロープワープのホームページ上では、掲示板というサービスがあります。チャットだけでは、その時間に自分の目当ての方がいなければ会話やコミュニケーションが成り立たないので、伝言板的な機能を持たせました。話しのテーマに応じて、アイコンを選んでもらいます。例えば提案がある場合、手を上げるアイコンを使うとか、自由に選んでいただいて掲示板に書き込んでいただくというサービスです。

4.メタプラザのサービス内容

 グロープワープは1996年5月にサービスを開始して、約3万人弱のユーザーが集まってきました。私の持論は「会員のいるところ、消費者やユーザーが集まるところには何らかのビジネスチャンスがあるはず」です。今後もコンテンツを出し続け、促進していき、どんどんユーザーを集めていきたいと思っています。その中で、当社ではどうしたビジネスを展開していくのかというのを考えています。
 こうしたコンテンツの一つとして、1997年4月から「メタプラザ」を立ち上げました。メタプラザには都市空間が展開されており、商店街や公園、競技場、市役所、コンサートホール等で構成しています。メタプラザはWorldsChat/J2と違い、空間の更新ができます。例えば、どこかにお店が立ったとか、新しいアバターが増えたとか、電光掲示板に書いた文字を代えるとか、サーバ側で操作することにより、空間を自由に入れ換えることができます。
 メタプラザには名刺を交換する機能があります。あらかじめサーバ側に自分のプロフィール、趣味や年齢、Eメールアドレス等を記入しておき、相手と自分との間で自由に交換できるわけです。これを利用して相手の名刺を見れば、あいさつを交わすところから始めなくても、「あなたは〜という趣味を持っているのですね」というように、スムーズに会話に入ることもできます。
 また、アバターは自分で作ることができます。作ったアバターを相手のハードディスクに渡してあげれば、相手は見ることができます。自分のキャラクターを交換し会うことによって、アイディンティを主張しているようです。自分のアバターは全員が見れるようにしてほしい、自分たちのコスチュームを置けるアバターギャラリーを作ってほしいという要望が以前ありました。しかし、ユーザーが作ったコスチュームを公開できるようにはしていません。それは、ユーザーが作ったものが著作権上大丈夫なのか、あるいは公開するには問題があるようなアバターと、これは大丈夫というアバターの境目を私どもが判断することはできないからです。

5.メタプラザのコンテンツ

 メタプラザには日本移動通信さんが「IDOプラザ」という大きなコンテンツを持たれています。日本移動通信さんがこうしたコンテンツに参加し、取り組まれた背景ですが、1つにはユーザー同士が待ち合わせるときには、携帯電話の利用率が高いというデータが出ており、携帯電話をプロモーションするために、グロープワープのユーザーをターゲットにする必要があるということがあったわけです。また、3万人弱というユーザーをある程度認知しておいて、ユーザーによる口コミ効果を期待するという部分もありました。
 IDOプラザは、それぞれのコンテンツがクリッカブルになっており、例えばエリアマップをクリックすると実際のエリアマップのホームページへ、携帯電話の新商品をクリックするとその商品のホームページへ等、該当するホームページに飛ぶことができます。
 将来的には、実際に店頭に出かけていったり、電話をしなくても、パソコン上の「IDOプラザ」のカウンターにいる受付の人と話ができて商品の契約や申込契約等ができたり、あるいはアフターケアを頼むことができる等、バーチャルコミュニケーションができるものにしていきたいと思っています。
 また、IDOプラザにはユーザーに遊んでもらうためのエンターティメント性のある空間もあります。暗い部屋に入り、あるボタンを押すと、突然ドアが開いて飛行船が飛ぶ。冒険を続けて、ゴールにたどり着くと、IDOさん独自の3体のアバターを手に入れることができるという仕組みになっています。こういった仕組みを使えば、ゴールをすれば賞品が当たる等、キャンペーンに絡めたプロモーションを展開することも可能です。
 次にご紹介するのは、日立製作所さんの「ネットスペースコミュニティ」というプロバイターサービスです。ミーティングスペースというコンセプトで作っているため、趣味のユーザー同士が集まるだけでなく、ビジネスマン同士が気軽に話をして、その中でビジネスチャンスを生み出していくことができるような空間にしたいということで、実験的に立ち上げています。
 今後も、どのようにして会員に訴求していくか、プロバイターとしてどのように成長していくかという部分を各企業さんと一緒に取り組みさせていただこうと考えております。

6.3次元チャットの今後の展開

 最後に、私どもが10月27日から立ち上げている「化けぷら座」をご紹介します。これはコミュニケーションという面よりも、コンテンツの軽さ、面白さというゲーム性を中心にしています。クリックすると何かが飛び出してくるとか、キーワードを探し集めると秘密の部屋の場所がわかるという仕組みがあります。ちなみに、お化けを扱っているコンテンツですから、日枝神社さんでお祓いをしていただきました。
 こうした形で、3次元コンテンツを次々にお客さまに提供し、お客さま同士の結束力や出会いづくりというコミュニティの部分と、会員獲得という部分を今後も進めていきたいと思います。さらに、今後の展開としては、お客さまが口コミを広げていく、お客さまがお客さまを紹介していくという現象をどのように作り出していくか、作り出すためのコンテンツをインターネットでどのように展開していくかという部分がキーポイントになると思っています。
 また、グロープワープと同じように3次元のチャットのサービスをやっていらっしゃる他社とコンテンツを分かち合ったり、会員を共有していくということも望まれるのではないでしょうか。こういった形でオンラインサービスをデファクトスタンダード化して、HTMLやWebと同様に、インターネットの主要なサービスとして発展できればいいと考えています。
 会員が集まればビジネスチャンスがあります。会員をセグメントし、こうしたニーズがあり、こういったターゲットがでました、このターゲットは誰と誰に一致するから、この人たちに情報発信をする…。こうした形で、お客さまと企業を結びつけ、さらに展開しきたいと思います。また、グローブワープのホームページ上に企業のホームページを上手くリンクさせる仕組みを考えたり、3万人のユーザーに対して電子配信していく等、会員との接点を企業と提携して進めていきたいと考えています。3次元空間に関しても、企業のオリジナル空間を作成する受注を受けたり、CD−ROMにしてプレミア化したり、あるいは特定の会員に対して配るということも考えています。こうした形で、3次元チャットという文化をビジネス化し、広げていきたいと思っています。
 アメリカでは、スターブライトネットワークというスティーブン・スピルバーグがプロデュースした施策があります。病院に3次元チャットをシステムを置き、入院している子供たちが自由にチャットできるように外部とのコミュニケーションを推進しています。子供たちはE.Tやシンデレラのようなお姫さまとチャットしたり、あるいは自分がお姫さまになったりして、楽しんでいるようです。こうした形で福祉の部分も考えていきながら、3次元チャットという文化をよい方向に進めていきたいと考えています。


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