- 五 被告らの不法行為の成否
- 1 原告は、本件各広告は特定の商品の宣伝広告であるにもかかわらず、被告らは右広告に原告の承諾を得ることなくその肖像写真を使用し、これによって原告の肖像権等を違法に侵害した旨を主張する。
なるほど、本件各広告が被告松下及び同ヤクルトの特定の商品の宣伝広告でもあり、被告らが右広告に原告の肖像写真を使用することについてその承諾を得ていなかったことは前記認定のとおりである。
しかしながら、前記認定の事実によれば、被告東宝は本件各広告をあくまで本件映画の宣伝広告の一環として企画実施したものであり、本件各広告は、その内容、性質等において被告松下及び同ヤクルトの商品宣伝であると同時に本件映画の宣伝でもあるタイアップ方式による広告であって、被告東宝とCBS(ないしはCCF)との契約条項に牴触するものではないうえ、その方式、方法等において、わが国におけるタイアップ方式による広告の従来からの慣行に従ったものであり、これらの点を考え合わせれば、本件各広告が商品広告でもある一事から直ちに原告の肖像写真を使用するについてその承諾を要するものとはいえないのであり、むしろ前記認定の本件各広告の実施経緯等にかんがみるとき、被告らとしては、本件各広告が被告東宝のCBSとの契約に基づく権限内の行為としてCBS(ないしはCCF)から許容されてこれを実施に移したものであると認められるのである。
2 しかるに原告は、本件各広告のようなタイアップ方式による映画宣伝は、その主張する原告とソラー間の契約及びソラーとCBS間の契約に照らし、原告の承諾を得ることなくしては実施できないものであると主張する。
ところで、原告が主張する右各契約上、本件各広告の実施が原告の承諾にかからしめられているということができるかどうかの点はしばらくおき、原告が主張する右契約内容の存在を前提にするとしても、果たして被告らに、本件各広告の実施に際し、右契約内容までさかのぼって原告の承諾の要否を調査すべき注意義務があったかどうかを検討してみる必要がある。
しかるところ、既に認定説示したような本件各広告の内容、実施経緯及び性質等を総合して考察すれば、被告らは、本件各広告が被告東宝においてCBS(ないしはCCF)から許容されたものとして、かつ本件各広告のようなタイアップ方式による広告がわが国ばかりでなく外国、とりわけ米国においても一般的に許容されている映画の宣伝方法の範囲内に属するものと信じて実施したものであり、また右のように信じたことについては十分に合理的な理由があるといわなければならないのであって、これらの点を合わせ考えるならば、被告らに更にさかのぼって、原告が主張するような原告とソラー間の契約及びソラーとCBS間の契約を調査検討し、ひいては本件各広告がCBSの許諾のみによっては実施し得ないものかどうかを調査検討すべき注意義務があったということはできないものといわなければならない。
3 以上のとおりであるとすれば、被告らが本件各広告を実施したことについては、原告の承諾の要否を判断するまでもなく、既にその過失を問うことはできないというべきである。
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