「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

②トラブル克服部門

silver優秀 「考える力」  宮城県 てらのお


私が大学を卒業した辺りの話。

近場で塾のアルバイトをしていた私は、夜型の生活にどっぷりと浸かっていた。そのお供はインターネットで、出勤前および帰宅後は、とりあえずノートパソコンを開く→巡回先を巡回する→大手匿名掲示板サイトに落ち着く、というルーティーンを日々繰り返していた。
その日もいつも通り某掲示板にたどり着いた私は、漫画やアニメのネタバレ欲しさにスレッドをスクロールしていた。

その時、「これマジかよwww」的な文句と共に張り付けられていたアドレスが目に留まった。
正常な判断力があれば、こんないかにも怪しいURLなんて素通りするほかない。それなのに、気付くとタッチパッドの上の指は、するすると例のリンクに触れてしまっていた。
そして出てきたのが「ご登録が完了しました」の文字。まんまと架空請求のサイトに誘導されてしまっていたのだ。
いついつに何万円という督促文の下、抜き出されている自分の県名やIPアドレス。しかも、何度画面を閉じようともその「ご登録が完了しました」は繰り返し現れ、再起動しようがシャットダウンしようが、パソコンが立ち上がるたびにそれが一面に大写しになる。
そして、私が最も恐ろしかったのが、このインターネットのプロバイダ契約はすべて父名義であるということだった。
怒られるということよりも、督促文にあった「職場へ連絡する」という文字に血の気が引いた。
私のせいで大変なことになってしまう……冷汗が何度も背中を流れ落ちた。

私は半泣きになりながら家族に一部始終を報告し、そして、大学の先生へとメールすることにした。
「ああ、これは心配いらないよ」
プリントアウトした画面を見て、先生はそう穏やかにほほ笑んだ。
「何もないと思うけれど、もしまた何かあれば連絡寄こしなさい、弁護士にも話してみるから」
正直、大学で多少は法律を勉強したくせにこんな相談なんて……という気持ちもあったのだが、完全に途方に暮れていた私にとって、あの時の先生はまさに救世主そのものだった。

それから数日後。教えてもらった対処法が功を奏し、あの請求画面がパソコン上に現れることは二度となく、請求書が届くこともなかった。
あれから私は、例の生活パターンを改めることにした……というか、そんな生活に戻る気もなくなっていた。

インターネットの世界を安全に楽しむには、やはり「危うきには近寄らず」を徹底するしかない。私の件だって、あの怪しいURLを不用意に踏んだりしなければ良かっただけだ。

だがそもそも、なぜあんな馬鹿なことをしてしまったのか。その根本を辿れば、ネット中毒による思考力の低下――というか、要は「考えないことが習慣化」してしまっていたのではないかと思うのだ。
インターネットは刺激的で、莫大な情報にあふれている。その情報の波に漂っているのは心地よいものだし、退屈とは無縁だ。
しかし、それではただボートに揺られているも同じ。そのうち漕ぎ方を忘れ、陸に上がることすら出来なくなってしまう。
あの当時の私はまさにそれで、来た波=刺激に対して、ただ反応しているに過ぎなかった。

現在も私は塾で働いている。完全なるデジタルネイティブな今の子供たちにとって、ネット環境はまさに空気のように、あって当たり前のもの。依存の危険性はますます高まっている。
私は手痛い経験により目が覚めた。今ではよい薬だったと思えるが、とはいえ彼らには私と同じ思いを味わわせたくはない。

勉強、部活動、人間関係……陸上には辛くて面倒なことが多い。だが、習い事であれ趣味であれ、そのうちのどれか一つでいい、真剣に向き合えるものはないだろうか。

その中で時に悩み、苦しみながら「考える力」を身につけていく。その力をオールにすることができれば、インターネットは彼らを溺れさせる暗い海ではなく、可能性に満ちた明るい海となるはずだ。
それぞれのオールをしっかり握りしめ、大海原を航行していってほしいと思う。

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