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england 「インターネット上の子どもの安全ガイド」
エクパット編
ecpatlogo

本ガイドは国際エクパット (ECPAT International http://www.ecpat.net/
発行による Protecting Children Online:An ecpat Guideの日本語版である。
原版編集・調査  Carol Livingston
協  力  Riita Koskela(原文執筆),
John Carr,Muireann O Briain,Mark Hecht,Denise Ritchie, Agnes Fournier de St. Maur(以上、技術的助言・寄稿)
イラスト  Katarina Dragoslavic
Copyright  ECPAT International, 2000
日本語版監修  ECPAT/ストップ子ども買春の会 翻訳 宇佐美昌伸
 〒169-0073 東京都新宿区百人町2-23-25 矯風会第二会館
 Tel:03-5338-3226 Fax:03-5338-3227
 ホームページ:http://www.ecpatstop.org/
協  力  財団法人インターネット協会
制  作  株式会社東京創文社
初版発行  2002年2月
本ガイドの翻訳及び出版に対しては英国外務省から援助を受けた。



目  次

はじめに

Part 1:インターネット
新しい技術とは何か、そしてそれはどのようなものであるか?
ISPとは何か? なぜISPが重要なのか?
どのようにコミュニケーションするか?

Part 2:危険はどこにあるか?
子ども搾取者がよく利用するソフトはその他にどのようなものがあるか?
なぜ子ども搾取者は新しい技術を好むのか?

Part 3:法的問題
子どもポルノとは何か?
なぜ子どもポルノが重大な問題であるのか?
国際的にどのような措置が講じられているのか?
主要な法的問題は何か?
表現の自由についてはどう考えるか?

Part 4:子どもたちを守るために
インターネット上で子どもたちを守るためには何ができるか?
フィルタリング/レイティング・ソフトのパッケージとはどのようなものであるか?
現在何がなされているか?
あなたには何ができるか?

Part 5:資 料
参考文献
便利なウェブサイト
インターネット・アクセス遮断/フィルタリング/追跡ソフト
団体
ホットライン

付録
エクパットの子どもポルノに関する方針

用語集
 

はじめに

 新しい技術は驚くべき速さで私たちのコミュニケーション能力を変え、そして、新たなコミュニケーション手段を生み出している。 5年前には、観光客がジャングルに囲まれたラオスの古都ルアンプラバンから電子メールを送ることができるようになるとか、オーストラリア人の50%以上や韓国人の50%近くがインターネットにアクセスするようになるhttp://www.nua.org)を参照。〔訳注:翻訳時点での最新の数字に改めた。〕)とか、モスクワに住む祖母がコンピュータに小型カメラを付けてサンパウロにいる孫の顔を見て話すことができ、しかも費用は小型カメラ2台の購入代金とインターネット接続料金だけで済むようになるといったことは想像に難かった。

 ほんの数年前には何十万ドルも掛かり大企業だけが持つことのできたコンピュータ及びコミュニケーションの力を、2000年には誰もが1000米ドル未満で持つことができるようになった。今では、電子メール・アカウントとスキャナがあれば誰でも友人や家族に写真を送ることができる。2つの写真を1つにしたり、画像を「モーフィング」したりして、元の写真とは全く違った新しい現実を作り出すことも可能である。インスタント・チャットを利用すれば世界中に新しい友人を作ったり、旧交を温めたりすることができる。ビデオ会議パッケージも広く利用可能になっており、世界中から参加者を得て、リアルタイムの会議やライブ「ショー」を開催することができる。

 新しい技術は革新的で、驚くべきものであるが、同時に、技術は単なる道具に過ぎない。コミュニケーションに関わるこのような超近代的な発明には道徳的な基礎がない――これらは良いものでも悪いものでもないのである。新しい技術はコミュニケーションを向上させ、多くの人々の生活をより良いものにしているが、残念ながらその一方で、子どもを搾取する者によっても利用されている。このような技術革命のために、搾取者の活動がいくつかの面で楽になっており、彼らの触手ははるかにグローバルに伸びているのである。

 日本では、1999年11月に「子ども買春・子どもポルノ禁止法」が施行されたが、2000年中に同法違反で検挙された事犯のうち、インターネットを利用した事犯の件数は121件となっている。

 このガイドでは、新しい技術のいくつかがどのようなものであるか、そして、ポルノ製造者、ペドファイル(小児性愛者)、子ども売買人などの子ども搾取者がこれらの技術をどのように使うことができ、また使っているのかを説明する。

 インターネットは子どもに対する新しい類型の犯罪を生み出している訳ではない。しかし、各国で既に法律で犯罪とされているような行為を助長するためにインターネットを利用している子ども虐待者がいる。インターネットは以前から存在した犯罪を新しい方法で行なうことを可能にしている。また、インターネットは大きな困難なしに子どもたちと接触できる場であり、現実世界と比べて法執行機関に見付かる可能性もはるかに低い。

 このガイドでは、搾取目的での新しい技術の利用と闘うために、現在取られているいくつかの手段――古くからのものと新しいものの両方――や新しい技術と子どもの搾取を巡る法的問題のいくつかについても検討する。

 〔訳注:本日本語訳においては、日本の状況や事例も適宜補った。〕



Part 1:インターネット

新しい技術とは何か、そしてそれはどのようなものであるか?

インターネット

 インターネットはコンピュータの世界規模のネットワークである。その背後にある理論は単純なものである――送信側と受信側のコンピュータ同士が直接つながっていなくても、このシステムに接続すれば目的の場所にデータを送ることができる、ということ。インターネットを利用すれば、任意の数の人々の間で電子メール・メッセージやコンピュータ・ファイルを送ることができる。また、インターネットは、情報を収め、他のサイトにもリンクすることができる「ウェブサイト」の膨大な連なりであるワールド・ワイド・ウェブの本拠地でもある。

 インターネットを介して送られる情報は予め決められたルートを通るのではない。インターネットは「渋滞」を回避しようとする。送信先に情報を届けるために最も効率がよく、最も速いルートを見付けるのであり、他の国のコンピュータを経由してデータを伝送することさえある。イギリス国内のロンドンからバーミンガムにファイルを送る場合でも、それが最も速いルートであるのならば、アメリカのサンフランシスコやアトランタ、そしてナイジェリアのラゴスのコンピュータを経由することもある。

 今日インターネット・ユーザーは世界で約5億人おり、彼らは互いにコミュニケーションをとることができる。


ISPとは何か? なぜISPが重要なのか?

 インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)はインターネットの背骨であり、ISPがインターネットを構成するコンピュータを動かしている。このようなコンピュータは普通、「サーバー」と呼ばれ、ほとんどの個人ユーザーがインターネットに接続する入口となっている。

 ISPはインターネットへのダイヤル・アップ・アクセスを提供し、これを通じてユーザーはニュースグループ、電子メール、チャットといったものへのアクセスを得る。また、ユーザーは様々な方法でファイルをインターネットにアップロードしたり、ダウンロードしたりすることができ、ISPがこのようなファイル交換の仕組みを提供している。ISPは、自分のウェブサイトを持ちたいという人にデータ蔵置スペースとインターネット上のアドレスを提供する。誰かがそのサイトにアクセスしたいと思えば、コンピュータがそのアドレスを目指して情報を探すのである。

 また、ISPはウェブサイト所有者のために大抵は「ミラーリング」サービスを提供している。ミラー・サイトはメインのウェブサイトの物理的地点から遠く離れたところに置かれることが多い。アメリカにあるメイン・サーバーに一般的なダウンロード・サイトを置いたとしても、ヨーロッパやアジアにあるサーバーにミラー・サイトを置いてこれらの大陸でのアクセスを速くすることができる。このようなミラーリング・サービスを提供するISPは、メイン・サイトにあるのと同じ情報に対するより速いアクセスを提供しているだけである。

 ISPはサービスを利用してインターネットにログオンする個々のコンピュータにIP(インターネット・プロトコル)アドレスを割り当てる。IPアドレスとは、インターネットに接続している特定のコンピュータを識別するための数字であり、他のコンピュータにその所在地を教えるものである。

 ある1つのコンピュータに固定したIPアドレスが割り当てられることもあるが、大抵、ISPは「動的(ダイナミック)」IPアドレス・システムを利用している。動的IPアドレスはある1つのコンピュータに固定して割り当てられるものではない。任意の数のユーザーが同じ日に同一の動的IPアドレスを利用する場合もある。

 それぞれのISPは、ユーザーがインターネットにログオンしようとする時に割り当てるためのIPアドレスを一定のセット持っている。動的システムはユーザーがログオンする度にランダムにIPアドレスを割り当てる。あるユーザーが午後5時1分にログオンして、あるIPアドレスを割り当てられ、それからログオフして、5時2分に再びログオンした場合、この2度目には違うIPアドレスが割り当てられると考えていい。

 動的IPアドレスはインターネットの資源を分配し、情報の流れを制御する上で有用な手段である。しかし、動的IPアドレスを辿って個々のユーザーを突き止めるには、ISPの利用ログをチェックしてそのIPアドレスが特定の時間にどのユーザー・アカウントに割り当てられたかを見るしかない。また、ログからはそのIPアドレスを取得するに当たってどの電話番号が使われたのかも分かる。

 ISPは動的に割り当てられるIPアドレスのログと利用情報を保持しており、それらがインターネットを使って子どもを搾取する者を見付ける上で不可欠な糸となる。ほとんどのISPの利用料金はクレジット・カードか自宅に送られる請求書によって決済されるのであるが、前払いの仕組みによってユーザー・アカウントが付与される場合もある。また、利用者が郵便為替で支払いをしたり、私書箱を住所としたりすることもある。そのため、特定のIPアドレスを特定の時間に利用した時の電話番号を突き止めることのできるログは、子どもに対してインターネットを使って行なわれた犯罪を訴追するに当たって非常に重要なのである。

 多くの国では、いわゆる「無料」ISPが登場している。このようなISPを使う場合には、電話代以外にインターネット接続料金は掛からない。ある個人が一旦無料ISPに入会してしまえば、そのユーザーの本当の身元を特定することは大抵の場合不可能である。これによってタダでインターネット上に偽りの存在を得ることができる。このようにして別名を使ってインターネットを利用する犯罪者を法執行機関が逮捕するためには、ISPから完全な協力を得る必要がある。

 しかし、ISPは令状なしに利用者の個人情報を提供した場合に、市民的自由を侵害することになることを恐れる可能性がある。また、そのようなデータをISPが保持し又は提供することを求める立法を行なった場合、プライバシーやコミュニケーションに関わるその他の法制と抵触する可能性もある。


どのようにコミュニケーションするか?

電子メール

 ほとんどの人が知っていることであるが、電子メールとは普通、インターネット・ユーザーの間で送られる電子的な手紙を意味する。電子メールはシンプル・テキスト形式のメッセージの場合もあれば、他のファイルを添付する場合もある。また、画像、音声及び/又はビデオ情報を含めることもできる。

 電子メール・アカウントは大抵の場合、ISPからインターネットへのアクセス権を購入した時に無料で与えられる。ISPがアカウント保持者の認証をクレジット・カード情報の詳細を要求するといった方法で行なう場合には、その電子メール・アドレスから送信される電子メールの責任の所在をISPが把握している。

 受信者は電子メール・メッセージのヘッダーを見れば、そのメッセージの送信者、送信経路その他のことを知ることができる。テキスト形式の電子メール・システムの多くでは、電子メール・ソフトがメッセージの送信元のIPアドレスと送信された時間を自動的に電子メールのヘッダーに書き込む。ヘッダーには送信者から受信者にメッセージが送られる際に経由したインターネット上のコンピュータのリストが含まれていることが多い。

 無料の電子メール・アカウントはどこにいても、ワールド・ワイド・ウェブを通じて「ヤフー」、「Hotmail」といったサイトから取得することができる。このようなアカウントの場合、電子メールを読む場合も、送る場合もウェブサイトを経由しなければならない。多くの無料電子メール・システムの場合、無料ISPサービスと同様、ユーザーが身元を偽ることは簡単である。ユーザーが無料電子メール・アカウントの契約をする場合、申込フォームに記入した氏名や住所などの情報が正しいかどうかを確認するセキュリティ・チェックがなされないのが普通である。


ニュースグループ

 ニュースグループはインターネット上の「黒板」又は掲示板であり、同じ題材に関心のある個人が集まり、情報や質問を投稿する場である。ニュースグループのメンバーはそれぞれの投稿のタイトルを見て、読みたいメッセージを探すことができる。

 ニュースグループは何万とあり、毎日新しいものがインターネットに登場している。ISPはサーバーのユーザーが購読することのできるニュースグループを制限するようにすることができる。これまでにインターネット上で発見された子どもポルノのほとんどは「Alt.Sex」(オルターナティブ・セックス)というニュースグループを通じてやり取りされていた(Background Paper for Child Pornography on the Internet Experts Meeting; John Carr, Lyon,France. May 28-29, 1998.)

 「Alt. Sex」グループは数百のサブグループに分かれている。大抵の場合、それぞれのサブグループの名称がそのグループの中心的なトピックを表している(例えば、ペドフィリア、獣かんなど)。アイルランドでCOPINEが行なった調査では、ニュースグループの0.07%に子どもエロチカや子どもポルノが含まれていたことが明らかになった(Paedophile Networks on the Internet: The Evidential Implications of Paedophile Picture Posting on the Internet; Rachel O'Connell and Prf. Max Taylor; The Copine Project, Dept of Applied Psychology, University College Cork, Cork City, Ireland.)。この数字は、ニュースグループの数に照らせば相対的に小さいものであり、これらのグループで現実に出回っている子どもポルノの量を教えてくれるものではない。


ICQ

 ICQ(“I seek you”(あなたを探してます)というフレーズと音が似ていることから付いた名前)は、ユーザーがチャットをしたいと思っている特定の相手がインターネットに接続してるかどうかを知らせるシステムである。そうして、もう一方のICQユーザーがチャットを開始することができるのである。チャットルームと同様に、ICQチャットには「見えない」モードがあり、参加者がその会話を隠れて行なうことができる。ICQのディレクトリーを利用すれば、知り合いでなくても共通の関心を持っている人を見付けることができる。


インターネット・リレー・チャット(IRC)

 IRCは2人以上の人がテキスト形式のメッセージを用いてインターネット上で「話す」ことを可能にするものである。チャットルームという場を提供するもので、子どもたちやティーンエイジャーの間で特に人気がある。チャットルームの参加者は偽名(ハンドルネーム)を使うことが多い。

 IRCのチャットはチャンネルで分けられている。普通、チャンネルの名称はその中で行なわれる会話がどのようなものであるのかを示している。また、ほとんどのチャンネルでは、ユーザーがプライベートな会話をすることができる。つまり、チャットルームを出ることで互いに合意し、他の人から会話の中身を知られることなく話せるのである。

 チャットルームの中には不適切な言葉や内容が話されていないか監視が付いているものもあるが、そうでないものもある。子ども虐待者が子どものふりをしてチャットルームに入り、本物の子どもたちから情報を引き出すとともに、信用を得ようする場合がある。往々にして彼らは、子どもたちを虐待するために現実世界で子どもたちと会おうという意図を持っている。また、虐待者は相手の子どもに対して自分や友人のポルノ写真を撮って、インターネットを通じて送るように説き伏せようとする。

 アメリカでは1998年末時点で、実際に「未成年者の性的勧誘」を行なったか試みたかし、その際にインターネットが主要な役割を果たした犯罪者200人以上が服役していた。最初の接触はチャットルームでなされた場合が多かった。


ビデオ会議とテレフォニー

 おそらく、リアルタイム・ビデオ会議ソフトの方がインターネット・テレフォニー・ソフトよりも広く入手可能であると思われる。マイクロソフトの無料ソフト「Net Meeting」は同社の最近のオペレーティング・システムを搭載したコンピュータに大抵の場合インストールされている。ほとんどの国で100米ドル未満で購入できる小型デジタル・カメラを使えば、画像と音声付きのリアルタイム会議を行なうことができる。

 ICQは「Net Meeting」など約20のビデオ会議ソフトでも機能する。また、マイクロソフトは「Net Meeting」ユーザーのディレクトリーを提供しており、ユーザーはこれを利用して相手を見付けることができる。

 新しいインターネット技術の多くと同様、ビデオ会議技術を利用した性的活動がかなり多くインターネット上で行なわれていると報告されているhttp://www.salon.com

 このような活動の大多数は大人の間のものであるが、1996年にはリアルタイムのビデオ伝送を利用して子どもが性的に虐待された最初の事件と思われるものが発生した。


オーキッド・クラブ
 国際的な子どもポルノ・リング(同盟)である「オーキッド・クラブ」は、1996年、アメリカ・カリフォルニア州サンノゼ警察の手によって解体された。「オーキッド・クラブ」の存在が分かったのは、同警察がメンバーの1人を子どもの性的虐待の容疑で逮捕した時であった。「オーキッド・クラブ」には遠くはフィンランド、オーストラリア、イギリス、そしてカナダといった国の人間が加わっており、虐待されている子どもの画像がビデオ会議ソフトを利用してリアルタイムで伝送されていた事件として初めて訴追されたものであると広く考えられている。このクラブに所属する男性少なくとも11人がインターネットを通じて幼い女の子が虐待されているのを見ると同時に、彼女を虐待していた男性に様々なポーズや虐待行為をリクエストする形で参加していた。



掲示板

 掲示板は、離れたコンピュータ同士で情報を交換する仕組みとしては最初期のものの1つであり、あるコンピュータが掲示板の「ホスト」ととなる別のコンピュータに直接電話をして接続するものである。

 通、掲示板は個人のサーバーであり、そこからファイルをダウンロードしたり、他のユーザー向けにメッセージを投稿したりする。直接接続するため、IPアドレスは使われないか、必要ない。

 厳密に言えば、掲示板はインターネットの一部ではなく、ニュースグループに大きく取って代わられており、後者の方も「掲示板」と呼ばれることがある。旧式の掲示板は現在でも存在しているが、発見されることを避けたいグループが利用していることが多い。




Part 2:危険はどこにあるか?

子ども搾取者がよく利用するソフトはその他にどのようなものがあるか?

暗号ソフト

 暗号ソフトはファイルやメッセージに鍵を掛けるものである。暗号化されたファイルを読むことができるのは、同じ暗号ソフトを使っているかファイルを開くために必要なパスワードを知っているかしているユーザーだけである。ファイルを開くために普通用いられるのが、いわゆる「鍵」――それは、ランダムに選択された数字に基づいている場合もある――である。普通に入手可能な暗号パッケージとしては、様々なものが数多くある。暗号ソフトはガレージの電動扉からATM(現金自動預払機)に至るまで多くのコンピュータ・プログラムに組み込まれている。

 いくつかの国においては、暗号ソフトの「鍵の預託」を義務化する試みがなされている。鍵の預託に関する計画は様々であるが、それらの下では、暗号ソフトの製造者又はユーザーが政府又は指定された「第三者」にソフトの鍵を預け、司法職員がいかなるファイルでも読むことを可能にする。

 鍵の預託を支持する人々は、法執行機関が職務を適切に遂行する上で暗号鍵へのアクセスが不可欠であると考えているが、これに反対する人々の多くは、預託制度が濫用されることを危惧している。このような計画に対する批判においては、人的エラーや制度の濫用の可能性があることや、計画に技術的な問題点が内在していることが指摘されている(The Risk of Key Escrow, & Trusted Third Party Encryption, A Report by an Ad Hoc Group of Cryptographers and Computer Scientists, Hal Abelson and Whitfield Diffie, et al.を参照(http://www.cdt.org/crypto/risk98/)。最近、中国政府は、暗号ソフトの鍵を同政府に預けることを求めた。


グラフィックス/モーフィング・ソフト

 デジタル技術はポルノを「家内産業」にすることを助けている。安価なスキャナがあれば、誰でも写真をウェブ上に載せたり、他の人に電子メールで送ったりすることができる。

 デジタル・グラフィックス・ソフト(「Photoshop」、「Illustrator」、「Microsoft PhotoEditor」など)を使って写真を変えることもできる。写真をスキャナでコンピュータに取り込んでしまえば、このような画像編集プログラムを使って何枚かの写真を1つにしたり、写真を歪めたりして、1度も存在したことのない現実を信憑性ある画像として生み出すことが可能である。このように歪めたり、変えたりすることは「モーフィング」と呼ばれる。

 子どもの搾取や子どもポルノに関する法律の多くは、実在の子どもと実際に起こった出来事の描写のみを対象としているため、公判で被告は、モーフィングされた写真はたとえどんなに不快なものであっても、実在の子どもや実際に起こった状況を写したものではなく違法ではないと主張するかもしれない。しかし、イギリスなど、いくつかの国においては、人工的な又はモーフィングされた子どもポルノ写真も違法とされており、それらは現実の描写と全く同様に扱われている。

 日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」は実在する子どもの姿態の描写を対象としている。ただし、このような「合成写真」(いわゆる「コラージュ写真」)についても、実在する子どもについてその身体の大部分が描写されている場合には、そこに描写された子どもの姿態は実在する子どもの姿態に該当し、違法とされることがある。


なぜ子ども搾取者は新しい技術を好むのか?

 子ども搾取者が新しい技術を好む理由は、他の人々と同じである――コミュニケーションを、特に、遠く離れた人との間で取ることが新しい技術によってより簡単に、より速く、より安くできるようになったからである。

 「コンピュータ普及以前は、子どもポルノ頒布者は郵便や地下の流通ネットワークを利用していた。素材を取引したり、交換したりするためには、消費者と頒布者は実際にお互いを知っている必要があった。しかし、インターネットによって、子どもポルノは誰もが簡単にアクセスできるようになった――子どもポルノは瞬時に目の前に現われるのである。」(Innocence Exploited: Child Pornography in the Electronic Age, Canadian Police College, R.C.M.P., May 1998.)

 子ども搾取者はインターネットを使って自らの信念を確かめている。ネット上で同じ価値観を持つ他人を見付けることで、彼らは自分が何も悪いことをしていないという信念を強め、合理化し、正当化する。また、彼らは他の人々に対して活動に加わるよう促しており、情報を交換したり、「ネットワーク」に引き込んだりするためにチャットルームで仲間を見付けようとする。

 子どもポルノを探す者は、インターネットを利用して瞬時に満足を得ることができる。新しい写真が郵便で届くのを待つ必要はなく、その場でダウンロードすることが可能である。子どもたちと会いたいと望む者はオンラインのチャットルームで網を張り、しばしば子どもたちの信用を得るために自らも子どもであるふりをする。

 また、インターネットは子ども虐待者がグローバルに触手を伸ばすことを容易にしている。ある事件では、モスクワに置かれたサーバーから子どもポルノ画像5万点が発見されたが、それはアメリカから電子メールで指示を受けていた。サーバー所有者は画像をパスワードで保護し、ダウンロードする者に月100米ドルを課していた。

 子どもを搾取する者は他のあらゆる犯罪者と同様、インターネットの匿名性を好む。彼らはチャットルームでのハンドルネーム、偽の電子メール・アドレス、そして追跡に必要な情報を電子メールから削除するソフトといったものを使うことで、足跡を隠し、訴追を免れようとする。また、インターネットの国際的な性質を利用し、子どもポルノや子どもの保護に関する法律が緩い国や管轄区域に置かれたサーバーにウェブサイトを開設し、ファイルを蔵置している。




海外サーバーを利用した子どもポルノ販売事件
 2000年8月に埼玉県警少年課と富山県警少年課などの合同捜査本部は、インターネットを利用して子どもポルノなどのわいせつなCD-Rを販売したとして、大阪市の無職男性(41)を「子ども買春・子どもポルノ禁止法」違反容疑などで逮捕した。この容疑者は、米国のサーバーにホームページを開設して子どもポルノの販売広告を掲載し、メールを通じて購入を希望した客に10歳くらいの女の子たちが写った子どもポルノCD-Rを販売していた。また、契約の際に身元確認が必要ないプリベイドカードで入会できるISPを利用し、捜査が及ぶのを免れていた。




ワンダーランド・クラブ
 イギリスの警察は「オーキッド・クラブ」に関与していた男の自宅を捜索し、通常通り、彼のコンピュータ機材を押収した。しかし、彼のファイルを分析したところ、「ワンダーランド・クラブ」に関わる証拠が見付かったのである。1998年9月1日、インターポール(国際刑事警察機構)が調整役を務めた捜査によって、「ワンダーランド・クラブ」への関与が疑われる者が12カ国で100人以上逮捕された。100万を超える子どもポルノ画像が発見されたが、一番幼い子は2歳であった。押収された子どもポルノの量は67ギガバイト以上であった(The sexual abuse of children via the Internet: a new challenge for Interpol, Agnes Fournier de Saint Maur; International Conference Combating Child Pornography on the Internet, Vienna. 29 September-1 October, 1999)
 ワンダーランド・クラブ」は暗号を利用し、サーバーを頻繁に移動することで自衛していた。また、彼らは入会資格を厳しくし、入会希望者を綿密に調べていた。入会するためには、少なくとも1万点以上の子どもポルノ画像を所持している必要があり、その中の多くは独自のものであることが求められた――つまり、メンバーが既に所持しているものとは異なった画像でなければならなかった。メンバーは月100ドル未満の会費で、ポルノ・ファイルと同クラブの会合場所であるIRCチャンネルへのアクセスを認められていた。



買春観光

 インターネットは子ども買春観光も助長している。貧困のために性的虐待を行なうことがより容易と思われる国々に関する情報を広めているのである。メキシコや中米でストリート・チルドレンのための活動を行なっている非営利団体である「誓約の家」(Casa Alianza)が行なった調査では、中米において若い相手を求める買春観光客の数が驚くべき伸びを見せていることが明らかになったhttp://www.casa-alianza.orgを参照。最近イタリアなどの国は、子ども買春観光情報を提供するウェブサイトの運営をはじめとして、未成年者との性的接触を目的とする旅行を組織又は宣伝する者を訴追対象とする法律を導入した(Pedofilia, ora c'e una nuova legge, La Repubblica, 30 July 1998(http://www.repubblica.it/online/internet/polizia/approva/approva.html




Part 3:法的問題

子どもポルノとは何か?

 子どもポルノとは何かを理解することは、この問題を取り扱う上で最も難しい側面の1つである。「わいせつな」、「きわどい」といったことに関しては文化ごとに多くの解釈が存在する。文化によっては、「エロチカ」もポルノ的であると捉えられるであろう。

 多くの人々にとっては子どものポルノ的イメージというものを想像することは難しく、そのため「子どもポルノ」によって何が意味されているのかが理解できない。また、意見の違いを引き起こしている問題には、性的関係に同意できる年齢は何歳なのか、子どもポルノを所持しているだけ(単純所持)で犯罪とすべきなのか、実在の子どもが使われている必要があるのか、モーフィングされた画像はポルノに該当するのか、といったものがある。

 インターポールの「子どもに対する犯罪に関する専門家グループ(Specialist Group on Crimes against Children)は、「子どもポルノは子どもに対してなされた搾取又は性的虐待の結果である。子どもポルノは、子どもの性的行動又は性器に焦点を当てて子どもの性的虐待を描写又は促進するいかなる方法(any means)と定義することができ、印刷及び/又は聴覚素材を含む」としている。

 「子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノに関する子どもの権利条約選択議定書」は、子どもポルノを「現実の若しくは擬似の露な性的活動に従事する子どもの、いかなる方法でなされるいかなる描写、又は性的目的を主としてなされる子どもの性的部位のいかなる描写」と定義している。

 子どもポルノは様々な形態で存在し得る。最もよく見られるのが視覚的な子どもポルノであり、それは、現実の若しくは擬似の露な性的活動に従事する子どもの視覚的描写、又は性器のあからさまな開示を意味する。聴覚的子どもポルノとは、利用する者の性的興奮を目的として、現実の又は擬似の子どもの声を用いるいかなる聴覚装置の使用である。また、子どもポルノには性的行為を描写し又は性的興奮をもたらすことを目的として文字だけを用いるものも含まれ得る。


なぜ子どもポルノが重大な問題であるのか?

 ポルノ写真やビデオは大抵の場合、子どもの虐待が行なわれたことの動かし難い証拠となる。子どもを使用するポルノは搾取であり、ポルノ描写の対象とされた者、さらにはそれを見るように強いられた又は誘われた子どもに対する権力の濫用である。子どもポルノは往々にして子どもの売買と関係している。子どもポルノ製造に使用するために子どもたちが国から国へと売買されているからである。

 インターネット上では膨大な量の子どもポルノ画像が入手可能になっている。それは、インターネットによって、画像を制限なく複製したり、難なく伝送したりすることが可能になったからである。インターネットは子どもポルノのコレクションを大きな家内産業に変えたのである。

 子どもの虐待を写した写真は識別や収集を容易にするために番号を打ったシリーズとして提供されることもある。収集家はそのシリーズの写真を集めようとする。最近の写真の中には、被写体の子どもの実名が記載されているものもある。また、写真は物語の一部分として使われ、そのストーリーに沿って配置される場合もある

 子どもポルノは虐待者が自らの子どもに対する欲求を正当化する助けとなる。子どもたちは往々にして、あたかもその行為を楽しんでいるかのように、微笑んで行為に従っている素振りをするようにさせられる。

 使用された子どもの側には、長期に渡る影響がもたらされる。ポルノを製造した者が訴追されようがされまいが、ポルノ写真は一旦公共領域に持ち込まれたら出回り続ける可能性があり、被写体とされた子どもに永久に取りつくかもしれないのである。

 また、子どもポルノは子どもの抑制を低めたり、ポルノ的なポーズを取った子どもたちの姿を見せることで、危険な状況に誘い込んだりするための道具として使われることもある。

 子どもポルノの単純所持と子どもの虐待との間の関連性は強い。子どもポルノを所持している者の多くが子どもの性的虐待も行なっているということが示されている。


国際的にどのような措置が講じられているのか?

 「子どもの権利条約」は、国際、国内及び地方のNGO(非政府機関)や法執行機関がインターネットに関係した虐待から子どもたちを保護するために行なう取り組みの基礎となっている。この条約を批准した政府は、子どもの権利――虐待されない権利を含む――が尊重される法制度を創出する義務を負っている。「子どもの権利条約」は1990年9月2日に発効し、これまでに〔2001年11月現在〕191カ国(ソマリアとアメリカ以外の全国連加盟国)が締約国となっている。


いかなる形態の子どもポルノも子どもの権利の侵害である

 このことは世界のほとんどの政府が支持することに同意した「国連子どもの権利条約」に明確に記されている。
 「子どもの権利条約」の第34条は次のように記している。

締約国はあらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から子どもを保護することを約束する。この目的のために、締約国は特に以下のことを防止するためのあらゆる適切な国内、二国間及び多国間措置を講ずるものとする。
  1. いかなる不法な性的活動に従事するよう子どもを勧誘し又は強制すること
  2. 売春その他の不法な性的行為において子どもを搾取的に使用すること
  3. ポルノ的な実演及び素材において子どもを搾取的に使用すること

 過去10年間、世界各国の政府は協調して行動を取る必要があることを認識させられてきた。その結果、1996年8月にストックホルムで第1回の「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催された。

 この会議では参加し122ヶ国政府が全会一致で「行動アジェンダ」を採択した。

 このアジェンダは政府に対してNGO、政府間機関及び市民社会の関係者と協力して、子ども買春、子どもポルノ及び性的目的での子どもの売買というますます大きくなっている課題に取り組むことを求めている。


子どもの権利条約選択議定書

 2000年5月25日、国連総会において、子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノの問題に関する「子どもの権利条約」の選択議定書が採択された。

 この議定書は「子どもの権利条約」に盛り込まれた措置のいくつかを拡張するものである。議定書は、1999年にウィーンで開催された「インターネット上の子どもポルノとの闘いに関する国際会議」で表明された懸念をはじめとする特定の課題を考慮に入れている。

 議定書の規定に基づき、批准国は子どもの性的搾取目的で行なわれる子どもポルノの製造、頒布、流布、輸入、輸出、提供、販売又は所持が犯罪となることを確保しなければならない。以上の行為のいずれかの未遂又はこれらの行為のいずれかへの共犯若しくは関与も批准国の刑事法において処罰対象としなければならない。

 犯罪が国内的なものであると国際的なものであるとに関わらず、また、個人によるものであると組織的なものであるとに関わらず、議定書の対象とされている。

 この議定書は10カ国が批准した時に発効する。


主要な法的問題は何か?

法律の違い

 インターネット上での子どもの性的搾取を訴追する上で最も難しい側面の一つが各国間での法律の違いである。子どもの定義は何か、何が子どもポルノに当たるのか、どのような形態が対象となるのか、行為が明白に行なわれることが訴追の要件となるのか――それとも、意図だけで十分なのか――といった点について国ごとに異なるのである。また、単純所持が犯罪かどうか、実在の子どもが使用されている必要があるのかなどについても違いがある。法律の調和がなされなければ、犯罪者は子どもの虐待や子どもポルノに関して限定的な法律しかない管轄区域に逃げ込もうとし続けるであろう。

 例えば、日本は子どもポルノを定義し、頒布、販売及び陳列を処罰する法律を1999年5月にようやく制定した〔施行は同年11月1日〕。この新しい法律が制定されるまでは相当量の子どもポルノが日本から出回っており、今でもそうである。また、ドイツの警察がホットラインに寄せられた苦情を分析したところ、ホットライン・ホームページに寄せられた苦情の81%についてはドイツ又は外国の法律に抵触していないために対応することができなかったことが明らかになった。ドイツのホットラインに通報のあったインターネット関連事件の50%は外国における捜査が必要なものであった(Combating Child Pornography on the Internet,Holder Kind, International Conference Combating Child Pornography on the Internet, Vienna. 29 September-1 October, 1999.)

 子どもの虐待や子どもポルノが訴追されることを世界中で確保するために各国間で法律を調和させる必要があるが、最も重要なことは、インターネット上で子どもを巻き込んで行なわれる犯罪活動に対処するために既存の法律を活用することである。技術進歩が速いために、インターネットに特化した法律はすぐに時代遅れになってしまうかもしれないからである。


管轄

 インターネットは国際的なものであるが、インターネット上の活動を規制する当局は国単位である。彼らは州レベルまでしか権限を与えられていない場合もある。

 国際的な活動に対する管轄の決まり方は様々である。犯罪がどこで行なわれたかによる場合もあれば、被害がどこで発生したかによる場合もある。インターネットを介した子どもポルノの伝送はしばしば管轄の問題を生じさせる。その素材がどこから送られてきたかや被害がどこで発生したかを特定することが不可能な場合があるからである。

 子どもの虐待又は搾取事件の場合、管轄区域や法律によっては犯罪者がその管轄区域内にいることが求められるし、犯罪者がその領域内にいることと犯罪がそこで行なわれたことの両方が求められることもある。さらに、被害に遭った子どもがその領域内にいることだけを要件としていることもある。

 しかし、多くの国の法律は、その国の国境の外で子どもに対して犯罪を行なった自国民〔国外犯〕を訴追することを可能にしている。インターネットの不法で有害な利用に関わる管轄上の問題に対応するために特別な法律を編み出した国もある。ニュージーランドは子どもポルノの所持について厳しい責任を課しており、それによって意図や発信元を立証するという難しい問題を回避している。

 欧州評議会は「国際サイバー犯罪条約」の採択に向けて作業を進めている。草案は2000年中にまとめられる見込みである。新条約の批准は全ての国に開放されることになっている。この条約は管轄を巡る問題のいくつかに答えを出すものとなるであろうし(例えば「責任を負うのはどの国か」「どの国の法律が適用されるのか」など)、各国間の司法共助をより迅速で簡潔なものとするであろう。〔訳注:この条約は2001年11月8日に採択され、日本は同23日に署名した。〕

 なお、日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」では、子ども買春や子ども買春の周旋、子どもポルノの頒布、販売、公然陳列、製造、運搬などについて、国外犯を国内犯と同様に処罰する規定がある。



日本初の国外犯適用事犯
 2000年11月に神奈川県警少年課と南署は、東京都の書籍販売会社「コネクション」を経営する男性(51)ら同社社員3人を「子ども買春・子どもポルノ禁止法」違反の容疑で逮捕した。これは、同法の国外犯規定を適用した日本初のケースである。同県警はインターポールを通じ、タイ政府に捜査協力を依頼し、被害者の女の子を特定した。同容疑者らは1999年12月に、タイのチェンマイ県のホテルで、当時高校生だった同国の16歳と17歳の女の子をヌードにしてビデオで撮影し、また、同様に女の子たちを撮影した子どもポルノを同年11月から12月にかけて、インターネットや宅配を利用した通信販売などで福島県の男性ら3人に1巻1万円で販売した。販売したビデオや写真集は、同法に抵触するのを免れるため「18歳」と広告し、外国人の女の子たちには日本人の名前をつけて販売していた。逮捕前同容疑者は、毎日新聞の取材に対して、「児童愛好は治らない病気。だから児童ポルノは必要で、自分たちはカウンセラーのような存在。親の承諾は得ているし、女の子が嫌がる場合は撮影はストップしている」と話したという。
(出典:http://www.mainichi.co.jp/digital/netfile/archive/200011/07-1.html)


形態

 ほとんどの国ではポルノに関する一般法が子どもポルノにも適用されるが、視覚媒体のみがポルノと定義されている国もある。音声や、文字又は音声が収められたCDはポルノとみなされないのである。また、ほとんどの法律が書かれた時点では、インターネットを介してリアルタイムに画像を伝送する形態は生まれていなかった。

 それぞれの国の法律が異なった形態を対象としているという問題に答えるために、現在提案されている国際条約〔サイバー犯罪条約〕は犯罪の最も重要な要素を定義付けている(独自の(sui generis)犯罪化)。

 この規定の目的は、子どもの身体的及び道徳的福祉を保護することである。子どもポルノは「性的に露な行為に従事する未成年者〔原則として、18歳未満の者〕の、コンピュータ・システムを手段としてなされたいかなる描写」を意味する。この条約は、条約に沿って各国の法律を調和させる義務を課し、少なくとも最低限のレベルの保護については合意を確保するものとなる。

 日本の場合、子どもポルノとは「写真、ビデオテープその他の物」、即ち何らかの「有体物」を記録媒体とする物になる。電磁的な画像データそのものは「無体物」であるため、データ自体は子どもポルノに該当しない。但し、子どもポルノに係る画像データが記録されたフロッピーディスクやハードディスク、CD-ROMやMO、DVDなどの有体物は「その他の物」に該当する。また、筆記文書は子どもポルノに当たらない。絵については、実在する子どもの姿態を描写したものと認められる場合は子どもポルノに該当する。


所持を犯罪とすることがなぜ重要なのか?

 子どもポルノの単純所持を刑事犯罪とすることが重要な理由はいくつかある。警察が子どもが性的に虐待されたかどうかが分からない場合があるが、その子どものポルノ画像が見付かれば虐待が実際に行なわれたことを確認できる。

 家、オフィス又はコンピュータの捜索で発見された子どもポルノがきっかけとなって警察が行方不明の子どもを見付けられることが多い。また、子どもポルノが見付かれば、摘発を免れていた子ども虐待者を有罪とする証拠を得ることができる。

 子どもポルノを持っているだけで犯罪としてはならないと主張する人たちもいる。しかし、子どものポルノ画像1つ1つがその子どもに対する犯罪となっているというのが事実である。画像の所持者は盗品の受領者のようなものである。虐待の記録に対する「市場」を彼が提供しなければ、その虐待は起こらなかったであろう。また、子ども虐待者と関わる取り組みをしている専門家は、子どものポルノ画像を所持している者は自身が虐待者であるか、子どもを虐待したいと考えている者であると述べている。よって、所持は司法・警察当局以外に許されてはならない。

 日本の現行法では、頒布、販売、業としての貸与又は公然陳列を目的とした子どもポルノの所持については処罰されるが、子どもポルノの単純所持については禁じられていない。


子どもとは誰のことか?

 「子どもの権利条約」が18歳未満の全ての者を「子ども」と定義しているにも関わらず、子どもの定義は国によって、連邦国家では州によってさえ大きく異なっている。子どもの定義は年齢によることもあれば、性的成熟の程度によることもある。ほとんどの定義では子どもの法的年齢を13歳未満から18歳未満に設定している。管轄区域によっては、子どもポルノ事件の訴追において子どもの年齢を特定することは求められない。これらの管轄区域では、子どもであるという印象が与えられれば十分なのである。

 欧州評議会の「子どもポルノに関するサブグループ」は、子どもポルノ法では、実在の未成年者、未成年者に見える者又はそのように描写されている者、そして、未成年者の人工的又はモーフィングされたイメージを対象とすることを提案している。

 日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」では、子どもは「18歳未満の者」と定義されている。


ポルノのいかなる側面が犯罪とされているのか?

 犯罪化されている子どもポルノの側面としては、所持、保存(ストック)、販売、頒布、輸出、輸入、頒布の意図、子どもの虐待を描写する又は促す意図、供給、又は以上の行為の幇助などがある。管轄区域によっては支払いがなされたかどうかが重要となるが、そうではない所もある。インターネットに特化して子どもポルノに対応する法律を導入した国もある。

 日本では、子どもポルノの頒布、販売、業としての貸与及び公然陳列、また、これらを目的とする子どもポルノの製造、所持、運搬、日本への輸入・輸出及び外国への輸入・輸出が違法とされている。なお、インターネットに特化した子どもポルノ禁止法は制定されておらず、「子ども買春・子どもポルノ禁止法」がインターネットを利用した子どもポルノ犯罪に適用される。

表現の自由についてはどう考えるか?

 表現の自由についての権利があるのだから子どもポルノを所持したり、それを他の人と交換したり議論したりする権利があるのだと主張する人たちが存在する。インターネット上での意見の広がりを最大限に保障するためには情報の自由が必要であるが、子どもの性的虐待、子どもポルノ及びペドフィリアは現実世界で起こるものであれオンラインで起こるものであれ、いかなるコミュニティでも許容されてはならない。技術が進歩したからというだけで社会的価値は変化しない。

 表現の自由は絶対的な権利ではない。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」は制限を課されたり、損なったりされることがあり得ない権利をいくつか示しているが、表現の自由についての権利はそこに含まれていない。実際、同規約第19条は表現の自由についての権利を次のように規定している。

  1. すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
  2. すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
  3. 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって……一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
    (a) 他の者の権利または信用の尊重
    (b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護

 この規定は国際法上、表現の自由は絶対的なものではなく、性的虐待やプライバシーの侵害から保護されるという子どもの権利との間でバランスを取らなければならないということを示している。



アメリカ憲法修正第1条とモーフィングに関する懸念
 1999年12月17日、アメリカ・サンフランシスコの控訴裁判所は、アメリカの「1996年子どもポルノ保護法」の中の、コンピュータで製作された子どもの写真と見えるだけの性的画像に適用される条項について、憲法修正第1条で定める言論の自由についての権利を侵害するものであるとして無効を宣告した。この判決は他の連邦控訴裁判所の判決と矛盾するものであり、連邦最高裁判所で審理されることが見込まれる。
 この判決は、「モーフィングされたコンピュータ画像が特定可能な子どもの一部である」場合には、「同条項は執行可能である」とも述べているが、捜査担当者は、事件が陪審に掛けられた時にこの判決が「合理的な疑い」を提示するために利用されるのではないかと恐れている。1999年には、FBI(連邦捜査局)はおよそ1125件のインターネット関連の子どもポルノ犯罪を立件しており、これは1998年の2倍以上の数字であった。




シャープ事件:表現の自由の問題?
 引退した都市計画者であるジョン・シャープは裸の男の子たちの写真と子どもに関わるショート・ストーリーを所持していたとして逮捕された。彼は自ら弁護を行なって、子どもポルノ所持の容疑に対して表現の自由とプライバシーの権利の侵害であるとして争い、これまでのところ2つの公判で勝利を収めている。
 検察側は判決を不服としてカナダ最高裁判所に上告しているが、このシャープ事件は子どもポルノが違法となるためには実在の子どもが描写されていなければならないのかどうかという争点を巡る議論を浮き彫りにするものである。また、カナダ憲章上の権利(憲法上の権利)が子どもの保護の必要性に優越するものであるかどうかも焦点となっている。下級審の判決に反対する人の中には、最高裁判所が子どもポルノの所持を禁ずる法律の無効を宣告したら、カナダは世界中の子ども搾取者が子どもポルノを蔵置する基地となってしまうと感じている人たちもいる。

 国際エクパット、「国境を超えて」(エクパット関連団体)、エクパット・カナダその他のNGOはこの事件において訴訟参加人の資格を与えられた。これによって、彼らが最高裁判所判事の前で弁論を行なうことが認められた。この事件の根底にある問いは、子どもを虐待することなく製造されたかもしれず、出版、頒布又は販売もされていない可能性がある子どもポルノの単純所持が、それを違法とするに足るだけの害を子どもたちに及ぼす可能性があるのかどうかということであった。

 訴訟参加人は子どもの権利が大人の権利より優先されると捉えていた。彼らはカナダにも拘束力が及んでいる「子どもの権利条約」の第3条を引き合いに出した。同条は子どもの最善の利益が子どもに関わる全ての活動において第一義的に考慮されるとしている。彼らは性的搾取及び虐待から保護されるという子どもの権利は、大人が子どもポルノの所持を通して享受する表現の自由についての権利に優越すると主張した。判決は2000年に下される見込みである。




Part 4:子どもたちを守るために

インターネット上で子どもたちを守るためには何ができるか?

 親は子どもたちのインターネット体験に関わりを持つ必要がある。インターネット上で自らをどう扱えばいいのかを子どもたちに教えることが重要である。また、インターネット上での子どもたちの独立を保ちつつ、親が子どもたちのインターネット体験を導くのを助けるために、フィルタリング・ソフトのパッケージやウェブサイト・レイティング(格付け)の仕組みがある。


意識向上:ネットスマート・ルール(Net Smart Rules)

 多くの国では、既にエクパット・グループや他の団体がインターネット上の安全について意識を高めるプログラムを若者や大人と一緒に始めている。

 これらのプログラムが推進している子どもたち向けのインターネット利用ルールの1つに「ネットスマート・ルール」がある(NCH Action for Children(http://www.nchafc.org.uk)を参照)


フィルタリング/レイティング・ソフトのパッケージとはどのようなものであるか?

フィルタリング・ソフト

 レイティング及びフィルタリングのソフトは年少のユーザーにとって有害となる可能性のあるコンテンツを識別するためのものである。これらのソフトは親や保護者が有害と考えるサイトを子どもたちが訪れないようにすることを可能にする。それは表現の自由を阻害したり、大人に対して見たいものを見せないようにしたりすることを意図しているのではない

 レイティング及びフィルタリング・ソフトは、それぞれのユーザーが自らの基準や自国の文化を適用することができるようにするために、文化的に中立でなければならない。また、これらのソフトは限られたコンピュータ・スキルしかもたない親でもインストールができるよう、安価で使用方法が簡単である必要がある。

 最初期のフィルタリング・ソフトは全く洗練されておらず、キー・ワードに基づいて動作するものであった。そのため、ポルノ・サイトと医学サイトとを区別することができなかった。最近のソフトははるかに改善されている。中には、「スパイダー」と呼ばれる自動プログラムを利用しているものがあり、このプログラムはインターネットを泳ぎ回って、それぞれのサイトにどのような情報が載っているかを調べる。別のプログラムでは実際に人がサイトを見て回って、コンテンツを確認する。両方のタイプのプログラムともサイトをカテゴリーに分類するのが普通であり、カテゴリーごとにアクセスが制限され得ることになる。しかし、依然としてソフトの多くでは、テキストが伴っていたり、フィルタリングのための格付け人が実際にサイトを訪れてチェックをしたりしていない限り、露な画像を選別することはできない。

 フィルタリング・ソフトには主要なモデルが3つある――ブラックリスト化、ホワイトリスト化、中立的ラベリングである。ブラックリスト化はリストに載っているサイトへのアクセスを遮断するもので、逆にホワイトリスト化はリストに載っているサイトへのアクセスのみを許可し、その他のアクセスは全て遮断する。中立的ラベリングの場合、サイトにはラベルが張られるか、格付けがされるかするが、そのレイティング・システムをどう使うかはユーザーに委ねられる。

 ブラックリスト化の技法は例えば、「サイバーパトロール」というソフトで用いられている。「サイバーパトロール」は約1万のサイトを12のカテゴリーに分類しており、親はその中のどのカテゴリーへのアクセスを遮断するかを選択することができる。

 ホワイトリスト化の場合、ユーザーが具体的に指定したもの以外のサイトへのアクセスは全て遮断される。この技法は非常に制限的なものであるが、それだけ安全であり、特に、とても幼い子どもがインターネットを利用する場合にはいい選択である。

 日本では、「財団法人インターネット協会」がPICS(後掲「PICS」を参照)に準拠したフィルタリング・システムを開発し、インターネット上で無償配布している(http://www.iajapan.org/rating)。


レイティング・ソフト

 レイティング・システムはウェブサイトのコンテンツの記述を活用するものである。理想を言えば、レイティング・システムは客観的で、国民的、文化的価値や意見で色付けされないものであるべきである。そして、ユーザーに選択を委ね、格付けのレベルについて主観的な判断ができるようにしなければならない。しかし、チャットルームやビデオ会議の場合は、常に変化があり、格付けの対象とできるような固定したコンテンツがないため、インターネット・レイティング・システムを適用することができない。


PICS

 ほとんどのレイティング・システムは、「World Wide Webコンソーシアム」が開発した「インターネット情報選択のプラットフォーム」(PICS)に基づいている。「World Wide Webコンソーシアム」は、インターオペラビリティ(相互運用性)を促進するための共通プロトコル(規約)の開発とワールド・ワイド・ウェブの発展を目的として設立された、インターネットのリーダーたちのグループである。PICSはソフトと格付けサービスとが協調して動作するのを助ける技術的な仕様であるが、それ自体は中立的なものである。

 PICSはテキスト又は画像文書に電子ラベルを埋め込み、それによってレイティング・ソフトはコンピュータが文書を表示したり、他のコンピュータに転送したりする前にその文書の中身を調べることができる。PICSのタグ(標識)は、素材の製作者、インターネットへのアクセスを提供する企業、又は独立の調査機関が付けることができる。

 PICSを利用しているレイテイング・システムはいくつかある。


セルフ・レイティング(自己格付け)

 セルフ・レイティングの場合、コンテンツ提供者が自らのサイトに関する情報を提出して、格付けコードを与えられる。格付けはコンテンツ提供者自身が行なうが、このシステムを運用する組織は格付けの正確性を確認する権利を持っている。自発的なセルフ・レイティングは「良循環」を生み出すため、奨励されるべきである。つまり、レイティング・ソフトを利用するインターネット・ユーザーが増えれば、サイトの格付けを始めるコンテンツ提供者が増え、そうなればレイテング・ソフトを利用する誘因となり云々、という訳である。

 日本では、「財団法人インターネット協会」がセルフ・レイティング・ツールをインターネット上で公開している(http://fs.pics.enc.or.jp/ratwiz/)。コンテンツ提供者は自分のホームページに当てはまる項目をチェックしていくことで、容易にセルフ・レイティングを行なうことができる。


ISPによるフィルタリング

 ISPがフィルタリング・ソフトをインストールするということもあり得る。ISPがフィルタリングを管理する場合、それをすり抜けた違法コンテンツに対してISPが責任を問われる可能性がある一方で、ユーザーはコンテンツについて判断するのを他人に頼らなければならなくなる。フィルタリングをユーザー自身が行なう場合には、フィルタリングされるコンテンツに対してユーザー自身がコントロールできるが、コンテンツに対する責任はその提供者が負うことに変わりはない。ISPベースのフィルタリングは、特にアメリカで人気が高まっており、いくつかの宗教団体が自らシステムを構築している。同様のサービスはイギリスやドイツにもある。

 日本では、新潟県において、県警察本部、教育庁、県福祉保健部、学校長会、市町村教育委員会、ISP、青少年育成団体、有識者らによって「新潟県スクールネット防犯連絡協議会」が運営されている。同協議会が違法・有害情報の監視を行ない、同協議会のフィルタリング・サーバーに有害情報を登録し、このデータに基づき参加ISPが学校や家庭にフィルタリング・サービスを提供している。


現在何がなされているか?

 インターネットの本質から言って、多くの管轄区域の職員の間で広範に協力がなされることが求められる。ホットラインやISPの行動規範は、子どもを搾取するウェブサイトの通報を促したり、排除したりする上で助けとなる。ホットラインは地元の法執行機関や、税関組織やインターポールといった国際執行機関と協力して運営されることが多い。


ホットライン

 ホットラインは、子どもを搾取するウェブサイト、ニュースグループの投稿や子ども搾取者についての一般市民からの通報をインターネットや電話、書面、ファックス、郵便を通じて受け付けるものである。ホットラインは子どもポルノや子ども虐待者との闘いにおいて大きな成功を収める可能性を持っている。イギリスでは、「インターネット監視財団」がホットラインを立ち上げた1996年12月から1999年末の間で、ホットラインに寄せられた情報を元に、ISPに対して2万件以上の削除が勧告された。

 ホットラインは、不快なウェブサイトに対する苦情をどのように行なえばいいのかについて市民に助言する。また、ホットラインは発信者に対して不快なコンテンツの削除を要請したり、ISPに対してそのようなコンテンツの削除を勧告したりすることができる。さらに、法執行を勧告することもあるし、外国から発信されたコンテンツの場合には情報を当該国のホットラインや関係法執行機関に提供することもある。往々にして情報は、法執行機関を経由するよりもホットラインを経由する方が速く流れる。

 また、ホットラインはレイティング・システムの開発の奨励、促進及び支援を行なう。インターネット・ユーザーに対してはホットライン・サービスに関して周知活動を行なっている。良いホットラインというものは全て業務に透明性があり、開かれた仕方で報告を行なっている。

 「欧州インターネット・ホットライン・プロバイダー連合」(INHOPE)はホットラインの新規開設を奨励、支援しており、ホットライン同士が効果的に協力できる方策を検討している。最終的な目標はホットラインのヨーロッパ・ネットワークを築くことである。

 ホットラインの国際ネットワークが効果的に機能するためには、コンテンツに関する苦情の取り扱いに関する最低基準が盛り込まれるとともに、相互通知を規定した枠組合意が必要であろう。コンテンツが置かれている国のホットラインがそれを評価し、行動を取るべきである。この仕組みにより、コンテンツが違法であれば行動が取られることが確保される(Key Recommendations:Internet Content Summit, Bertelsmann Foundation, Germany, 1999.)

 日本では、国内の各ホットラインの実務担当者相互の情報共有や連携を目的として、2000年12月に「インターネットホットライン連絡協議会」が設立されている。


ISPの行動規範

 いくつかの国では、ISP団体がインターネット上の違法コンテンツに関する自らの役割と責任を明確にするために、行動規範の起草を行なっている。例えば、EuroIspa(ヨーロッパISP連合)はヨーロッパのISP団体が集まったものであり、ヨーロッパ10カ国からメンバーが出ている。つまり、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、スペイン、イギリスであり、500のISPが代表されている。

 欧州評議会の「視聴覚及び情報サービスにおける未成年者及び人間の尊厳の保護に関する勧告」はISP向け行動規範を起草するに当たって考慮されるべきポイントをいくつか提示している。

 行動規範でISPの責任のどの側面が強調されるかは国によって異なる。イタリアの行動規範はISPの行動の自己規制に関する主要なポイント3つに焦点を当てている。即ち、責任、身元確認及び匿名性である。責任はインターネット上でコンテンツを提供する者に帰せられる。また、イタリアの行動規範は、責任の所在を特定するために、コンテンツ提供者を追跡できるようにすることと彼らの身元を確認することを求めている。しかし、それと同時に、個人のプライバシーと匿名性保護の重要性を強調しており、匿名性の維持と法執行職員の違法コンテンツ追跡活動への協力との間のバランスを考慮している。

 イギリスの行動規範では、UK ISPA(イギリスISP協会)のメンバーは、「インターネット監視財団」(IWF)から特定の素材をウェブサイト又はニュースグループから速やかに削除するよう要請を受けた時には、合理的な時間内にその要請に従って削除をし、素材の発信者がそのISPの顧客であった場合には、同時に通知をしなければならないとされている。

アメリカで、はAOL(アメリカ・オンライン)やAT&Tをはじめとするいくつかの大手通信企業が共同して“Get Net Wise Safty Service”(賢いネット安全サービスを得よう)を提供している。これはあらゆる年齢向けの安全情報、近隣監視システム(Neighbourhood Watch system)及び法執行情報を提供するものである。

 日本では、「社団法人テレコムサービス協会」がISP向けに「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」を1998年に策定している。同ガイドラインでは、ISPは発信者との利用契約に規定することにより、違法・有害情報の流通を知った場合、次の措置を講ずることができるとされている。


搾取と闘う上でソフトはどのように役に立つのか?

 新しい技術やソフトは子ども搾取者に新たな道具をもたらしている一方で、法執行機関に対しても捜査を向上させる手段を提供している。今日ドイツは子どもポルノ製造者、頒布者及び収集者の電子メール・アドレスやニックネームを含む子どもポルノに関するデータを収めた複合的なデータベースを保持している(Combating Child Pornography on the Internet, Holder Kind, International Conference Combating Child Pornography on the Internet, Vienna. 29 September-1 October, 1999.)

さらに、ドイツの警察はインターネットから収集した5万点を超える子どもポルノ画像もデータベース化した。これらの写真のほとんどは10年以上前のものである――新しい子どもポルノは往々にして最初は限られた者に配られるのである。ドイツの警察はこのデータベースから、画像を作るために少なくとも300人から350人の子どもたちが性的暴行を受け、写真に撮られたと推定している。

現在提案されている計画には、ある国で押収された子どもポルノが既に他の国のファイルに収められているかどうかを相互確認するシステムを作るというものや、ポルノ画像と過去の事件書類とをリンクさせるというものがある。


あなたには何ができるか?

 個人やグループで、インターネットを利用した子どもの搾取と闘う方法は数多くある。


法律の改善

 子どもポルノに対しては寛容ゼロである!あなたの国の法律が十分なものであるかどうか、そして、子どもポルノの製造、頒布、さらに単純所持まで犯罪としているかを確認すること。

 あなたの国の法律において「子どもポルノ」の定義が良いものであるかどうか、そして、擬似子どもポルノ(モーフィングされたポルノ)も対象としているかどうかを確認すること。

 子どもの保護に関して可能な水準として最も高いものをあなたの国の法律に求めること。


法律の調和

 各国間の法律の調和に関して可能な水準として最も高いものを確保するために、地域及び国際レベルでの立法〔条約など〕について議論するようあなたの国の立法者に促すこと。提案されている国際「サイバー犯罪条約」の採択と批准に向けてキャンペーンをすること。
〔訳注:前掲「管轄」の項で説明した通り、既に採択され、日本も署名した(未批准)。〕


法執行

 あなたの国にインターネットの犯罪利用と闘うことを専門とする警察部門が設置されるよう働き掛けること。このような部門には訓練と高性能のコンピュータ機材が伴う必要がある。

 専門知識の共有と「サイバー警官」育成のための訓練を促すこと。警察部門に対して、外国の技術的ノウハウや子ども虐待者の追跡、発見手法を学べるよう、外国の担当者とのルートを確立、強化することを促すこと。



イタリアの強制捜査
 2000年3月、イタリア警察のテレコミュニケーション部は13人を逮捕した。40人についてはまだ捜査が継続中である。警察は第286/98号法律第14条で与えられた権限を使い、インターネットでのコミュニケーションを傍受するとともに、コンピュータ、フロッピー・ディスク及びビデオを押収し、相当量の子どもポルノを発見した。
 エクパット・イタリアは子どもポルノに関するあらゆる情報をテレコミュニケーション部に提供した。



ISP

 あなたの地元のISPが子どもポルノに関する行動規範を定めているかどうかを確認すること。あなたの地元のISPに対してこの問題に関して警察や他のISPと協力するよう促すこと。



オーストラリア
 オーストラリアでは最近、「1999年放送サービス修正(オンライン・サービス)法案」が成立した(法律全文についてはhttp://scaleplus.law.gov.au/html/comact/10/6005/top.htmを参照)。これは禁止されているコンテンツに関わるISPの責任を明確化するものである。この法律では通常の電子メールとチャット・サービスは除外されている。子どもポルノを規制する目的から、子どもは16歳未満の者又は16歳未満に見える者と定義されている(Approaches to Establishing New Hotlines - An Australian Perspective, Careth Grainger, International Conference Combating Child Pornography on the Internet, Vienna. 29 September-1 October,1999.)
 この法律は2000年1月1日に施行されたが、違法コンテンツだけではなく、不快な素材及び成人向け素材も対象としているため、オーストラリア国内で強い批判を招いた。この法律では、ISPは対象コンテンツの存在を知った後でも削除をしなかった場合でなければ、自らのサーバーに置かれたコンテンツに対して法的責任を負わないことになっている。違法コンテンツが自らのサーバーに置かれていることを知らなかった時には刑事責任は発生しないのである。
 個人はインターネット上のコンテンツに関する苦情をオーストラリア放送庁(ABA)に対して、同庁のウェブサイトから又はファックス、手紙又は電話で申し立てることができる。ABAはそのコンテンツが禁止対象に当たると判断した場合には(この判断は一般メディアに関する法律に基づいてなされる)、ISP又はコンテンツ提供者に通知をする。ISPは通知によって指定された時間内にそのコンテンツを削除するか、アクセスを遮断するかしなければならない。コンテンツが海外から発信されていた場合には、ISPは行動規範に基づき、アクセスを遮断するために「合理的な措置」を講じなければならない。その場合、外国の関係機関に情報提供をするために、オーストラリア連邦警察にもそのコンテンツに関して通知がなされる。



ホットライン

 あなたの地元のホットライン(後掲「ホットライン」の一覧を参照)を支援すること、又は全国レベルの専門ホットラインの開設を促すこと。もしかしたら、あなたの地元のISPがやるかもしれない。

 必要があれば、あなた自身でホットラインを開設すること。ホットライン間のネットワーキングを促すこと。

 どんな場合でも子どもポルノを見付けたら適切な機関に通報すること。



通報
 「実証済みで正しい捜査手法は今でも前向きな成果をもたらすということを忘れてはならない。マニトバ州では、ウェイン・ハリソン刑事部長が捜査の大部分は市民からの通報がきっかけで始まっていると報告している。このことはカナダ全体に当てはまる。親、使用者、コンピュータ修理工場、配偶者といった様々な人々が問題のある素材に関する情報を提供している。
 また、子どもポルノも通常の性犯罪捜査の過程で見付かっている。よって、伝統的な取り締まり手法は依然として効果的な道具である。警察はコンピュータのあれやこれやに惑わされてはならない。」
Innocence Exploited: Child Pornography in the Electronic Age. Canadian Police College, R.C.M.P. May 1998(『搾取された無垢:電子時代の子どもポルノ』カナダ連邦警察・カナダ警察学校、1998年5月)





ホットラインを開設するコツ
  • 最初から、そしてプロセス全体を通して国の機関を関与させること。
  • ホットラインの担当地域内のISPを関与させ、コミュニケーションを取ること。ホットラインが日常業務を遂行するためには、彼らから受け入れられ、信用と支援を得る必要がある。
  • ホットラインの責任領域を法律で明確に定義された分野に集中すること。検閲をしようとしていると非難を浴びる可能性のある分野は避けること。
  • 明確に定義され、しっかりとした理解が得られ、一般にアクセス可能な手続きを定めること。
  • 同じような分野で取り組みをしている既存の組織の経験を集めること。
  • 利用可能なコミュニケーション手段を全て使って、インターネット・ユーザーにサービスについて知らせること。



家庭で

 コンピュータの使い方を学ぼう!あなたの子どもがオンラインで何をしているかを知ること。親又は保護者としての責任を引き受け、あなたのコンピュータ・キッドが「ネットスマート」となるようにすること(前掲「意識向上:ネットスマート・ルール(Net Smart Rules)」参照)。

 フィルタリング・ソフトを購入するか、又はあなたのコンピュータにインストールされているか確認すること。



ACPI:「安全に遊ぼう」(Play Safe)キャンペーン
 スペインのエクパット関連団体である「子どもポルノに対する行動」(ACPI)は2000年2月に「安全に遊ぼう」という名称のキャンペーンを開始した。このキャンペーンでは、親たちが子どもの虐待の徴候や、インターネットを含めペドファイルの虐待者が活動する手段を認識できるよう教育を受けている。このキャンペーンにおける中心的な情報提供ルートは親の会と学校である。また、ACPIはインターネット上の子どもポルノを追跡し、関係機関に通報している。ACPIはボランティア職員による小さな団体に過ぎないが、短期間のうちに子どもポルノの危険に対するスペイン国民一般の意識を高めた。 



学校で

 地元の学校が生徒に対して、オンライン情報から得られる利益と限界について理解するために必要なスキルを教えているかどうかを確認すること。

 学校で「ネットスマート」ルールを配布すること。


行動グループ

 あなたの国の「危険に晒された無垢(Innocence in Danger)行動グループ」に参加すること。ユネスコ(国連教育科学文化機関)のイニシアティブによって、子どもポルノやあらゆる種類の子どもの性的虐待と闘う必要があることについて世界の意識を高めるために、あらゆる職業の市民が国内行動グループを形成するよう促されている。あなたの国の行動グループについては「危険に晒された無垢」のウェブサイトを見ること(http://www.unesco.org/webworld/innocence)。



Part 5:資 料

◆参考文献



◆便利なウェブサイト




◆インターネット・アクセス遮断/フィルタリング/利用追跡ソフト




◆団体



◆ホットライン


オーストラリア  http://www.aba.gov.au/internet/complaints/complaints.htm
子どもポルノその他の不快な素材を含むインターネットサイトやニュースグループに関する通報を受け付ける。「ネットアラート」(NetAlert http://www.netalert.net.au/)は子どもたちや家族に対してインターネットの安全な利用に関するアドバイスを提供する電話及びインターネットサービスである。

オーストリア http://hotline.ispa.at
オーストリアのホットラインは子どもポルノとネオ・ナチズムに焦点を絞っている。違法コンテンツの発信元が海外でない場合には、その提供者に対して通知をし、削除を要請する。発信元が海外の場合には、関係当局に通知をする。さらに、ヨーロッパの他のホットラインにも通知をする。

フィンランド http://www.poliisi.fi
このホットライン・サービスは国家捜査局が運営している。電子メールはvihje.internet@krp.poliisi.fi

フィンランド http://www.mll.fi
「マナーハイム子どもの福祉連盟」(Mannerheim League for Child Welfare)の「子どもオンブズマン」(Children's Ombudsman)は子どもポルノ及びペドフィリア活動に関するホットラインと助言サービスを行なっている。

ドイツ http://www.fsm.de
FSMはドイツ国内が発信元のコンテンツのみを取り扱い、UsenetニュースやIRCも対象としていない。苦情を警察に通知することもしておらず、むしろ、問題のあるコンテンツの削除を勧告するという方法で対応している。

ドイツ http://www.eco.de
このホットラインはまだ業務を開始していないが、Usenetニュースグループに焦点を当てる予定である。違法と思われるコンテンツが見付かった場合には、ISPに通知する。コンテンツの発信元が国内であるか海外であるかは問わない。しかし、ECOは警察に通知はしない。〔訳注:翻訳時点では英語での情報提供はされておらず、ドイツ語ページのみである。ホットラインが開設されているかどうかは分からなかった。〕

アイルランド http://www.hotline.ie〔訳注:翻訳時点ではつながらなかった〕
このホットラインはアイルランド国内外からの通報を受け付けるものであり、子どもポルノと子どもの性的搾取のみを取り扱っている。ワールド・ワイド・ウェブとニュースグループは対象としているが、IRCについては限られた範囲でのみ対応している。通報されたコンテンツがアイルランド法に基づき違法であり、アイルランド国内のサーバーに置かれていると判断された時は、警察とISPの両方に通知がなされる。アイルランド国外に置かれている素材については外国の関係ホットラインに通知がなされる。

オランダ http://www.meldpunt.org
Meldpuntは違法コンテンツ提供者に警告をし、24時間以内に削除がなされなかった場合には警察に通知する。また、ISPに通知をして、必要な場合には、警察に協力するよう要請する。

ノルウェー children@risk.sn.no
ノルウェー国内外からの通報を受け付け、子どもポルノと子どもの性的搾取に特化している。ワールド・ワイド・ウェブ、Usenetニュース、IRCなどを対象としており、警察に情報を伝えるが、コンテンツ提供者やISPには接触しない。但し、ISPが一定の範囲の違法素材――例えば、ペドフィリアに焦点を絞った特定のニュースグループなど――へのアクセスを提供している場合には、接触をする。

イギリス http://www.internetwatch.org.uk
IWF(インターネット監視財団)はインターネット上のあらゆるソースに対応している。ISPに対して問題のあるコンテンツの削除を要請するとともに、イギリス国家犯罪情報局に通知を行なう。同局は国内であれ、国外であれ、担当の警察を特定し、情報を転送する。

アメリカ http://www.missingkids.com
このホットラインは子どもの商業的性的搾取のあらゆる側面を取り扱い、通報をデータベース化している。連邦の法執行機関はこのデータベースにアクセスすることができる。また、必要な場合には、地方の法執行機関に情報を提供している。子どもポルノに関する電話ホットラインは1-800-843-5678である。

日本 http://www.iajapan.org/hotline/
「インターネットホットライン連絡協議会」は、インターネットに関するいろいろな問題の相談・通報窓口の実務担当者相互の情報共有や連携を目的として、2000年12月に設立された緩やかな連絡組織である。利用者は同協議会のホームページ上で、違法・有害情報や著作権侵害、プライバシー侵害、悪質商法といったインターネット上の様々なトラブルに対する相談窓口を検索して探すことができる。


付 録

エクパットの子どもポルノに関する方針




用語集

ブラウザ
HTMLファイルを表示するグラフィカル・ユーザー・インターフェースを用いたコンピュータ・プログラムで、ワールド・ワイド・ウェブを探索するために使われる。

チャットルーム
インターネットその他のコンピュータ・ネットワーク上でユーザー同士がコミュニケーションできる場所であり、典型的には特定の1つのトピックに集中する。

ダウンロード
あるコンピュータ・システムから他のコンピュータ又はディスクにデータをコピーすること。

電子メール
あるコンピュータ・ユーザーから別の1人以上の受信者に対してネットワークを介して電子的手段でメッセージを送るシステム。

ギガバイト
10億バイトに相当する情報単位。

インターネット
コンピュータをつなげる国際的な情報ネットワークで、一般市民はモデム接続を介してアクセスできる。

メガバイト
データの大きさ又はネットワークの速度の単位で、100万バイト又は1,048,576バイトに相当する。

ログイン/ログオン、ログオフ/ログアウト
コンピュータ・システムの利用を開始又は終了させる手続きを行なうこと。

モーフィング
コンピュータ・アニメーション技術を使ってある画像を別の画像に滑らかに、徐々に変化させること。又は、そのようにして作られた画像。

ニュースグループ
共通に関心のあるトピックに関して電子メールを交換するインターネット・ユーザーのグループ。

スキャナ
文書を走査し、デジタル・データに変換する機器。

ソフト
プログラムその他のコンピュータが用いる動作情報。

アップロード
より大きいコンピュータ・システムにデータを伝送すること。又は、アップロードする行為若しくはプロセス。

Usenet
何千ものニュースグループで構成されるインターネット・サービス

ウェブページ
ワールド・ワイド・ウェブを介してアクセス可能なハイパーテキスト文書

ウェブサイト
インターネットにつながっており、1つ以上のウェブページを収めている場所。

W.W.W.(ワールド・ワイド・ウェブ)
インターネット上の広範な情報システムで、ハイパーテキスト・リンクによって文書同士をつなげることを可能にする。


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