seminar1009-1
電子ネットワーク協議会 平成10年9月度月例セミナー
「富士通におけるインターネットEDI の取り組み」
講師:富士通株式会社 川崎工場総務部
総務サービスセンター担当課長 斉藤 功
1.はじめに
富士通株式会社川崎工場総務部総務サービスセンターの購買グループは、インターネットのホームページを利用して、取引先とのEDI 取引を本年の1月から展開しています。通称Web-EDIと呼ばれている本システムを中心にして、社内の各職場と事務部門を結ぶ電子伝票システム、そして、総務の購買システムとの連携によって、購買部門として事務の合理化をどのように図ろうとしているかを1 つの事例としてご紹介します。
2.総務購買EDIシステムの概要
Web-EDIを中心にシステムの概要をご説明します。まず、社内の利用部門(職場)と総務部門の間は、通称「マイオフィス」という電子伝票システムでつながっており、購入依頼や見積書が欲しい等という情報のやりとりを行います。総務部門では利用部門から情報を受けると、総務購買システム上で様々な補足情報を加えて、EDI取引システムで取引先に通知します。
取引先とのEDI取引の方法は2種類あります。1つはファイル転送方式のEDIです。EDIは、もともと異なったシステムを持っている間でデータをやりとりする時に、標準のフォーマットを用意してやりとりすれば、そのファイルの変換作業というのが少なくて済むという点から始まったものです。従来から資材部門を中心に日本電子機械工業会のEIAJ方式のフォーマットを使ったEDI取引を行っています。この方法のメリットは、当社が送ったデータが取引先でも利用してシステム処理ができるという点なのですが、このシステムを導入するには、取引先に受信システムや専用のソフトを用意していただかなければならず、負担をかけることになります。
そこで、当時、EDI展開を考えていたときに、当社の社内のECソリューション部門がインターネットによるEDIを検討していたということもあり、この部門とタイアップして開発を進めてきました。取引先はサーバ上に展開されているホームページにアクセスして、見積もりの照会状況、あるいは当社が検収した状況や発注した状況を見ることができます。さらに、見積もり等については、見積回答を所定のフォーマットに入力して、当社に返信します。このように、Web-EDI では一般的なパソコン、ブラウザソフトがあれば利用できるという点から、取引先にそれほど負担をかけずに、このシステムに参加していただけるわけです。
当社総務部門の総務購買システムと取引先が利用するファイル転送方式またはインターネットEDIの間には、TRADEX-Netというシステムがあり、両者を仲介しています。これは当社のECソリューション部門が提供させていただいているECのソリューションサービスの1つで、ゲートウェイ機能とサーバ機能があります。ゲートウェイ機能とはデータ変換の機能で、それぞれの取引先が利用するフォーマットにデータを変換します。総務購買システムからは、データに付加情報を加えているため、CIIの標準ビジネスプロトコルに準じた形でデータをTRADEX-Netに送ると、ゲートウェイがあらかじめ定められた内容でデータを変換して送ります。これにより、購買部門はファイル転送方式やインターネットEDIという2つの方法を意識せずに、作業を進めることができるという利点があります。現状では、ファイル転送方式は試行段階からの1社のみですが、インターネットEDIの利用は約260社、近々に300社までいく予定です。
また、TRADEX-Netのサーバ機能により、インターネットEDI用のホームページのデータが登録されています。このTRADEX-Netの運用管理は総務部門で行っているのではなく、ECソリューション部門に任せています。社内ではありますが、他部門にアウトソーシングをしているというような形になっています。
3.背景
当社がEDI取引を推進するに至った経緯ですが、総務部門のような間接部門をスリム化するために、システムとBPRもあわせて業務の効率化を図りました。まず1996年の5月に「マイオフィス」というシステムを導入し、一般購入以外でも、例えば人事勤労部門の旅費精算等、従来は紙でやっていた伝票類をすべて電子伝票化しました。それまでは各地域、各事業所に総務や人事部がありましたが、マイオフィス導入により、データで処理できる部分は事務処理を一括して行うことが可能になり、それぞれ総務サービスセンター、人事サービスセンターを設け集中処理をしています。
さらに、全国各地区で行っていた購買業務も川崎の総務サービスセンターに集約しました。社内的には集約しましたが、取引先は従来どおり各地区の取引先をそのまま継承し、全国の各社と取引しています。こうなると、従来どおりの紙による伝票のやりとりでは、見積照会の情報を提供するにしても、全国の取引先に均質な情報を同時提供するということが非常に難しくなります。こうした点から、取引上のやりとりのEDI化を考え、97年9月からTRADEX-Netを利用したEDI取引システムの開発に着手しました。
4.EDI取引の目的
EDI取引システムの導入に際しては、取引先に趣旨説明をして、実際に加入していただいた際には操作説明等をしました。趣旨説明では、当社と取引先の相互メリットを追求した形で、このシステムを開発していくという点をお話ししました。そのメリットの1つが、当社の見積情報をすべての取引先に均質に公開できるということです。従来の紙ベースによる見積照会のやり方では、やはり全国の取引先にマニュアル作業で同時に均質の情報を提供するというのは困難です。しかしながら、実際のEDIシステムの画面は「掲示板」のようなものですから、掲示板に登録された情報は地区や業種を問わずに誰でも自由に見ることができるわけです。EDI取引システムに参加していただければ、すべての取引先に均質な情報が提供できます。
取引先側からすれば、これまでは知ることができなかった見積情報がわかるようになります。さらに、従来の見積書や伝票の郵送、ファクス等によるやりとりに比べればスピードアップを図ることができ、デリバリー作業の効率化、ペーパーレスということも実現できます。
5.導入前の総務購買業務
EDI取引システムの導入以前は、利用部門(職場)から電子メールで見積を欲しいという情報を総務部に送信してもらい、それに総務部門で補足情報を追加して、取引先に送れるような形で紙に置きかえていました。そして、効果的な見積を取得するためには関係する全ての取引先に見積照会すると良いのですが、照会をかける工数との兼ね合いもあり、「こういうものを買うのであれば、あそことあそこの取引先に送れば、効果的な見積回答がもらえる」という過去の経験に基づいて、ある範囲の取引先に見積照会を送っておりました。それを受け取った取引先は、見積回答をファクスや郵送で送付してきます。総務の購買担当者は案件ごとに返ってきた見積回答をとりまとめて、さらに金額や内容でソートをかけて査定し、利用部門に見積回答を返すという作業をしていました。
このような、取引先に見積照会の紙を送付するというデリバリー作業、返送された紙を案件ごとに仕分ける等の事務作業の煩雑さを、EDI化によって解消していこうと考えたわけです。
6.導入後の総務購買業務
当社の総務購買部門では、EDI取引のホームページ以外に公開調達ホームページを設けています。これは、総務購買部門がどのような購買活動しているかという点を広く知っていただくために開設しているものです。これは一般に公開されており、このホームページを通じて当社に取引開始の申し込みができます。取引開始に当たっては、基本的な取引条件を定めた契約書、EDIの取引システムの基本的な約束事を定めた覚書等は結ばせていただいております。
(1) セキュリティ
ホームページのURLにはhttpsのURLを採用しており、SSLの暗号化処理がされています。基本的に、セキュリティはIDとパスワードで行っています。最終的に、現金決済まで行き着くようになれば、認証等の問題も出てくるかとは思いますが、現状としては、見積書、発注、受注、月締めのデータのやりとりにとどまっており、EDIを促進するという点からも重いシステムにはしたくないということで、IDとパスワードを利用しています。
(2) EDI取引の機能の概要
EDI取引の機能としては、当社からの見積照会の機能、それに対して取引先が見積回答をしてくる機能、あるいは当社から取引先へ発注をかける機能、取引先では受注を見る機能、さらに、受注したものを出荷した際に送っていただく出荷通知の受付機能、それから購入先へ月ごとの検収高を通知する機能があります。購入先へ検収高を通知する機能とは、1件ごとの伝票ごとに、その伝票が検収されたかどうかを通知するものです。さらに、取引先へ買掛通知を送る機能もあります。これらの機能が、ホームページ上に用意されています。
(3) 総務購買業務のながれ(購入依頼〜発注)
利用部門からの購入品の見積依頼は「マイオフィス」の電子伝票システムに入れます。それを総務の購買部門が補足情報を入れて、実際の見積もりを掲示板であるホームページに公開、または指定をします。基本的に、すべての見積照会情報は公開ですが、例えば印刷物の増刷等のように、特定の取引先でしかできない、あるいはその取引先に依頼すれば安価であるということがあらかじめわかっているものについては、取引先指定でホームページ上に載せることもできます。こうした点を判断して、ホームページ上に見積照会のデータを登録します。
取引先は、ホームページ上の内容を確認して、自社で受付可能な物件に関して、見積回答の機能を使ってデータを入れていきます。見積回答されたデータは、ある一定サイクルで総務購買のシステムに取り込みます。見積照会ごとに見積回答期限をあらかじめ設定しているため、その見積回答期限になると自動的に見積照会の掲示から削除され総務購買システムへの取り込み対象のデータとなります。
購買部門は、システムに登録されている取引先のデータを査定して、購入先を決定します。査定には自動査定と担当査定があります。自動査定は、あらかじめ品質がはっきりしているようなもの、例えば鉛筆等、どこから買っても品質は同じであるという物件に関しては、システム上で予め定められた基準に沿って自動的に査定されて幹部社員の決済後、職場に見積回答が送信され、または、発注データが取引先に送信されます。その他の物件に関しては、担当査定となり、総務担当者が購買システムの端末上で査定した後、幹部社員にデータを回送し、幹部社員の決裁後に職場・取引先に送信されます。
(4) 総務購買業務のながれ(受注〜検品〜検収)
取引先に発注データを送信すると、取引先は受注したものを取り寄せ・製作し物件を出荷すると同時に、出荷通知受付機能を使って出荷情報を発信します。この情報を当社の購買システムが取り込み、総務部門から利用部門に対して「依頼のあった物件は取引先から出荷されたので、入荷され次第、受入検査を実施して、その結果をこちらに通知してください」というメールと、その受入検査の結果を記入するための伝票をシステム的に送ります。利用部門では、受入検査が終了すると、その受入検査の結果を用意された受入伝票に入力して、総務部門に返送してきます。それを総務部門が検収し、取引先に対しては、「この伝票は検収されました」という情報を通知します。さらに、それを月ごとに締めたデータを取引先にホームページから通知するということも行います。
このように、利用部門、総務部門、それから取引先の間を、見積依頼から最後の検収計上まで同じデータを再入力することなく使用できるよう連携を取っています。
7.導入メリットと効果
(1) 公開見積による見積機会の拡大
全国の取引先に公平な取引機会の提供の推進ができます。結果的に見積情報が活用されて、取引先間で活発な競争が行われ、良質なものを安価に仕入れることができるということが期待できます。
(2) ペーパーレス
見積書や発注書、買い掛けの通知書等に使われていた紙が、年間で約100万枚を削減できると試算されています。
(3) 業務の効率化
購買の全プロセスの約3割を占めていた工数が削減され、業務の効率化を図ることができます。
(4) 購買データの有効活用
見積情報の電子化により購買データの分析が容易にできるようになります。従来でも最終的な取引先、取引金額はデータとして残ってはいましたが、従来との違いは、見積もり合わせをした取引先のデータも残すことができるという点です。後々に全体的な取引先の傾向を見るときに利用できます。
(5) 安価なシステム
安価なシステムであるため、システム導入時における取引先の費用負担が軽減されます。インターネットのホームページを利用したこのWeb-EDIでは、取引先は一般的なパソコンと一般的なブラウザソフトを用意するだけで加入できます。特別な専用ソフト等は必要ありません。取引先の拡大という点で、話が進めやすいという点が期待できます。
8.今後の課題
現在は文字情報のやりとりに終始していますが、これからは、特に印刷物等で、パンフレットや工事の図面等を付帯させた情報のやりとりを目指したいと考えています。また、ホームページを利用した様々なサービスが各業種で出てきています。こうしたサービスや業種とタイアップすることによって、より高機能なEDI取引を今後は模索していきたいと考えています。