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電子ネットワーク協議会 平成11年3月度月例セミナー 

「パソコンをセキュアにする PC上の著作権保護技術〜OpenMG〜について」

講師:ソニー株式会社 インフォメーションテクノロジーカンパニー
事業戦略部 企画3課 係長 中澤 淳

 

1.OpenMG開発の契機
 私の所属する事業戦略部は、ソニー製パソコン「VAIO」の商品企画を主なミッションとしている。「VAIO」の国内投入は1997年7月だが、同冬、デザイン重視のサブノートが大ブレークし“銀パソ”という新セグメントを形成した。その後、“MD編集”のVAIOコンポが、続いて“DV編集”のマイクロタワーが、“アプリケーションを絞りこんだパソコン”という、次なるセグメントを作ってきた。  元々エンタテイメント&クリエイティブ路線にアプリケーションを展開してきたVAIOの戦略上、避けて通れないのがコンテンツの著作権問題である。当社では近々「Memory Stick Walkman」というフラッシュを使った音楽用携帯プレーヤーを商品化する予定だが、そこでもパソコンをセキュアにする技術がどうしても必要になる。そこで開発されたのが「OpenMG」だ。

 ただ、この技術開発以前に、「自由なコピーを是とするのが本来のパソコン、なのに何故?」という批判ともつかぬ疑問の声が多数投じられた。そこで、まずはOpenMG開発に至るまでの背景を整理して説明する。

2.著作権問題の背景
 今日、著作権問題がこうまで論じられようになった第1の要因は、PCにおけるメディアの使い勝手が急速に向上したことだ。DVD、SACD等にみる高品質化の傍ら、ユーザーの複製・加工・改変環境はそれを上回るスピードで整ってきている。第2の要因は、流通形態の変化にある。MP3、TwinVQ等、ネットワークに親和性の高い圧縮コーデックが続々と開発され、インターネットによるボーダーレス化が権利者の頭を煩わす。第3の要因は、権利者と我々事業者との間に発生する摩擦を回避する有効な手段がないことだ。急激な環境の変化に、法や制度がなかなかついてこられないのだ。

3.著作権保護技術の標準化の動き
 ここに至って、権利者側も超流通(ネットワークを使ったコンテンツの販売)を念頭に検討を始めた。日米レコード業界を中心に、著作権保護技術の基準を作るための協議会「SDMI(Secure Digital Music Initiative)」はその代表的なものである。当社は早い時点から著作権保護問題に取り組んできたので、この2月には、SDMIにOpenMGの拡張として「Super Magic Gate」技術を提案することができた。SDMIの言うところでは、この夏に仕様を確定し、今年末商戦には準拠商品が登場するとのことだ。

4.標準化の中でのパソコンの位置づけ
 さて、なぜパソコンが著作権侵害の申し子とされるのか?それは、まず、Windows OSの存在だ。“コピー”は、本来パソコンの重要な機能の一つだ。従って、Windowsの既存ツールで、コピーを止めさせることは容易ではない。また大容量バックアップストレージの登場やコストパフォーマンスの向上、そしてバックアップツールの充実が火に油を注ぐ結果になっている。最近のバックアップツールは、PCでは読み出せなかった音楽データ(CD-DA)をも簡単に取りだせてしまう。また音質をほとんど損なわない圧縮コーデックの登場や、裏情報とされてきたお徳情報の類が白昼堂々マスコミに取り上げられるようになったことも、PCのイメージを落とす要因となっているのだろう。先日、テレビのある番組で「MP3」が取り上げられていた。案の定、ユーザーメリットばかりが強調され、事実以上に権利者が脅威を抱く内容となっていた。このように、PCを取り巻く著作権問題はもはや捨て置けない状況となっている。

5.OpenMGのコンセプト
 一般に、著作権保護技術と使い勝手はトレードオフの関係にあると考えられがちである。OpenMGもPCユーザーにとって不都合なものでしかないのだろうか?

 否、私はここで、ユーザーに対して視点を変えることを訴えたい。無論、OpenMGは無秩序なコピーは許さない。が、一方、パソコンは非常に便利なオーディオ機器に変身する。
 次に、権利者にも訴えたい。巨大なパソコンマーケットは、新たなプラットフォームとして音楽産業にとって一役も二役も買うはずだ。将来、PCが超流通音楽配信のポータルになれば、更にダイナミックな付加価値を提供できる。

 その前提でOpenMGは開発されている。

6.OpenMGの仕様とその特徴
 OpenMGは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた技術である。ソフトウェアだけの場合、ハッキングプログラムをネットワーク上に置かれると大変なことになる。しかし、ハードウェアが介在すれば、個々のハードに手を加えなければならないようにできるので実質的な被害は広がらない。以前から、暗号処理専用CPUという概念がある。だがオープンアーキテクチャ主導のPC業界にはなじまない。

 そこで、ソフトウェアが主体だが肝の部分をハードに担わせるのがOpenMGだ。そして、OpenMGではコンテンツ暗号方式を採用するので、パソコン内部にいくらコピーをとられても単なるバックアップにしかならず問題にはならない。更に、OpenMGはMemory Stick Walkman等のCE機器が採用する音楽著作権保護技術「Magic Gate」にも対応する。従って、PC以降の大きな広がりが期待できる。

 これもOpenMGの仕様だが、様々なコントロール技術を持っている。再生回数制限、再生期限制限、コピー数制限等の提供だ。例えば、ユーザーに対して、再生期限つきコンテンツをダウンロードさせるといった、プロモーション目的のサービスも考えられるわけだ。

 OpenMGを通してパソコンをジュークボックスにすることも可能だ。音楽CDをハードディスクに取り込み、当社開発のコーデック「ATRAC3」で圧縮すれば、10ギガバイトのハードディスクに約1000曲もの曲が蓄積できる。

 更に、衛星インターネットのようなメガビット級のインフラと組み合わせれば、エンクリプトされたコンテンツをユーザーのローカルハードディスクにあらかじめフリーで配り、ユーザーには試聴後に好きな曲だけを後買いさせる、といった新しい流通形態も構築可能だ。

7.暗号化・復号化・鍵交換のしくみ
 OpenMGのベースとなる暗号化・復号化の技術、そして鍵交換とMoveの技術を説明する。

 暗号化のしくみは、まず音楽CDからCD-DAをデジタルで取り出し、ATRAC3で圧縮する。同時にコンテンツエンクリプションをおこない、暗号化されたコンテンツをハードディスクに、暗号キーを専用ハードウェア(セキュアモジュール)に別納する。これはハードディスクのデッドコピーによる暗号キーの複製を防ぐためだ。再生時は、OpenMG対応のアプリケーションがハードディスクから暗号化されたコンテンツを読み出す際、同時にセキュアモジュールから暗号キーを取り出して復号化する。

 次に、OpenMGを使ってライブラリー化された音楽コンテンツは、前述の「Memory Stick Walkman」に移して快適に戸外で聴くことができる。PCとMemory Stick Walkman間では、OpenMGはコピーではなくMoveの概念を用いる。暗号化されたコンテンツと暗号キーを、認証を行った上で相互にMoveする。

8.OpenMGの今後の展開
 OpenMGは単なる著作権保護技術だけにとどまらない。その本質は、PCが各家庭のデジタルオーディオ環境へのポータルになると、非常に付加価値の高い世界が提供できることにある。その最初の試みが「Memory Stick Walkman」と“OpenMG対応PC”との連携であるわけだ。一例だが、今後登場するであろうデジタルアンプとつないでみる。するとどうだろう。高周波を扱うパソコンでもハイファイ音楽が楽しめるのだ、もちろんPCはコンパクトなジュークボックスの位置付けだ。いずれにしても、当社の強みはオーディオというカテゴリーで水平展開を行う際に、各パートを担う機器が揃っていることである。

 これからは、当社が提供するコーデック「ATRAC3」、「OpenMG」そして「Magic Gate」を利用して、各家庭にPCプラットフォームから広がる新しい快適なオーディオ環境を次々に提供していきたいと考えている。


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