seminar1104-1

電子ネットワーク協議会 平成11年4月度月例セミナー 

「マピオンの現状と今後のビジネス展開」

講師:凸版印刷株式会社 マルチメディア事業部
コンテンツビジネス本部 事業推進部 課長 平田 章 氏

1.ネット上での地図サービス「マピオン」

 「マピオン」は地図をインターネット上で無料公開するサービスで、株式会社サイバーマップ・ジャパンが運営している。この会社は凸版印刷の子会社で、NTT、電通、シャープ、ヤフーの5社に出資頂いている。
 日本全国の地図を用意し、利用者はそれを無料で見ることができる。地図上に様々なアイコン(注記)を立て、ホームページをセットし、表示することによって、企業や店舗の広告システムとして販売している。食べ物屋、レジャー施設といったジャンル別にアイコンを表示し、クリックすると詳細情報が表示されるしくみである。
 アクセス数は1日平均で約90万ページビュー。地図の枚数は約3万7000枚で、47都道府県都市部を詳細・中域・広域の3つのレベルで表示する。地図上のアイコンは約43万件あり、登録されている店舗・企業情報は約1万6000件にのぼる。利用者の比率は男性72%女性28%で、他のサイトと比べると女性の利用比率が高い。年齢では25~40歳ぐらいの若い会社員が多く、外出する際に地図帳代わりに利用するというケースが多いようだ。

2.マピオンの成立事情

 マピオンというサービスは凸版印刷の中で企画されたものだ。ただし最初からマピオンのようなサービスを想定していたわけではなく、当社の著作物としてデジタル化した地図のデータベースを持とうとしたところから始まっている。印刷会社は独自のコンテンツを持たないが、情報誌等の印刷物を制作する際にデジタルの地図を作ることが多く、これを自分たちの著作物にできないかと考えた。国土地理院に問い合わせたところ、申請さえすれば自由に作ってよいとのことなので、地図データベース構築のプロジェクトをスタートさせた。
 1996年2月、凸版印刷とNTTの2社による共同実験プロジェクトとして、マピオンの前身にあたる「インターネット・マーケット・モール」を立ち上げた。1997年1月には新会社サイバーマップ・ジャパンを設立し、サービス名をマピオンと改めて、事業シミュレーションという位置づけでサービスを開始した。1998年4月から5社による運営体制に移行し、YAHOO!のトップページから入れる「YAHOO!-Mapion」を開始したところアクセス数が急増、10月には機能やサービスを拡充する大幅なリニューアルを行った。

3.マピオンの地図の特徴

 マピオンの地図は縮尺によって、エリアマップ・レベル(10万分の1)、広域タウンマップ・レベル(2.5万分の1)、詳細タウンマップ・レベル(1万分の1)の3種類に分かれる。  地図の作成には大変な労力がいる。最初は10万分の1で日本全国を網羅したが、地図上にアイコンを置いて詳細情報を表示することによって広告サービスを行うのがマピオンのコンセプトなので、都市部では詳細な地図が必要となる。そこで都市部の県庁所在地とその周辺、人が多く住むところを1万分の1、2.5万分の1でまとめた。
 ベースとなる地図は、当社が印刷会社ということもあり、紙の印刷に耐える精度のものとなっている。またインターネット上で軽く動くようにデータを加工している。

4.5社による運営体制

 当初凸版印刷とNTTの2社で設立したサイバーマップ・ジャパンは、昨年の4月より電通、ヤフー、シャープを加えた5社体制に移行した。各社の役割分担は、凸版印刷はベースとなる地図の作成と法人向けの営業を担当する。NTTは通信系技術支援というかたちで、ビジネスの方向を定めるためのアドバイスをしてもらう。電通は法人向けの営業を凸版印刷と分担して行う。ヤフーはシステム運営を担当し、加えてバナー広告のノウハウを提供してもらう。シャープはモバイル対応のアプリケーション開発を行うことになる。

5.マピオンのサービス紹介

 マピオンでは、地図上で詳しく見たい箇所をクリックし、広域から詳細へと順々に追い込んで拡大していく。地図帳をめくるような感覚で見ていくことができる。地図上のアイコンをクリックして表示される店舗・企業情報には、標準で写真2点と文字情報が入る。また関連情報として他のホームページへのリンクを設定することもできる。
 詳細地図への行き着き方にはいくつかあり、住所を入力してダイレクトに表示する「ピンポイント住所検索」や、地図上のランドマーク(駅等)を指定して表示する「ランドマーク検索」、地図中の店舗・企業情報から全文検索して表示する「フリーワード検索」等がある。また駅周辺の地図を見たい時には、路線図から駅名をクリックすると、その駅周辺の地図が表示される。
 その他のサービスとして、「ここでねっ!マピオン」と「今どこマピオン」がある。「ここでねっ!マピオン」は、同窓会や忘年会等の案内をEメールで出す時に、地図上に印や文字をつけて同封できるというもの。使用期間を限定した一過性の非営利サービスである。「今どこマピオン」はPHSの位置情報サービスで、指定したPHSが今どこにいるのかを地図上に表示する。
 これまでマピオンと総称していたサービスを、昨年6月に「ウェブマピオン」と「カスタムマピオン」の2つに切り分けた。ウェブマピオンは通常のマピオンで、1広告2万円で運営している。これに対してカスタムマピオンは、法人のホームページを拡充させるためにマピオンをカスタマイズして提供する法人向けサービスで、所在地案内や支店一覧等に利用いただける。ウェブマピオンとは異なり契約した企業の情報以外は表示されない。またウェブに載せるか否かも選択することができる。

6.「取次代理店制度」による広告営業

 マピオンの運営にあたって、サイバーマップ・ジャパンでは広告営業のための取次代理店制度を設けている。現在全国に約200の代理店があり、マピオン上でのホームページ作成と広告掲載の営業を行っている。広告と情報の掲載期間は基本的に1年間で、「媒体費」というかたちで2万円いただいている。
 「カスタムマピオン」の対法人営業は、凸版印刷と電通でほとんどの企業と取引があるので、この2社で行っている。法人の場合、特にガソリンスタンド等は支店数も多く、媒体費もかなりの額になってしまうので、ボリュームディスカウントを行っている。また自動車販売店等、期間を限定してキャンペーンを行うような場合にも、3カ月または半年という短期間での利用ができるようにしている。

7.マピオンの今後の課題

 今後の課題としては、まずバナー広告をもっと活性化させていきたい。日本全国の地図があるので、例えば地域ごとに異なるバナーを表示する等、地図の特長を活かした広告の見せ方ができるのではないかと思っている。現在電通と様々な企画を検討している最中だ。
 また、取次代理店制度の整備も進めなければならない。代理店制度を始めるにあたって様々な手段で募集を行ったため、代理店ごとの能力の差に開きがある。なかには広告費がなかなか取れないところもあるので、「ウェブマピオン」の機能を改善する等して支援をしていかなければならない。「マピオン」の潜在的なクライアントは、広告すべき商品を持つ日本全国の企業であり、そこにインターネットがどれだけ普及するかがひとつの鍵となる。
 モバイルへの対応も今後の課題となる。パッケージメディアとして販売する場合も、現在のマピオン上のコンテンツだけでは不十分である。また地図を画像として表示する際にかなりの時間がかかってしまうので、PHSや携帯電話と組み合わせてどのように利用していくことができるのかを現在研究している。
 パッケージメディアの欠点は、情報が固定されてしまうことにある。それに対してインターネット上に置かれたマピオンは、常時新しい情報への更新が可能である。しかも当初思いも依らなかったマピオンの特長となっているのが、地図を見た利用者の方が、アイコン(注記)の間違いや変更(経時変化)等に関する情報を送ってくれることだ。皆さんが見て間違いを指摘してくれるおかげで、マピオンの地図は日夜成長している。この点はマピオンの最大の売りになると考えている。


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