seminar1202-1
電子ネットワーク協議会 平成12年2月度月例セミナー
「インターネット上における音楽利用にかかる著作権処理について」
講師:社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)
送信部ネットワーク課 係長 内山 裕之
1.JASRACの管理業務
JASRACは現在日本で唯一の音楽著作権管理団体として、作曲者、作詞者、および作詞者・作曲者から譲渡を受けてプロモートを行う音楽出版社との間で信託契約を結び、日本国内で使用されるさまざまな音楽の著作権管理業務を行っている。出版、録音(映画を含む)、放送、演奏、上映、レンタルCD、インターネット等で音楽が利用される際に許諾の窓口となり、利用の対価としていただく使用料を権利者に分配することが主な業務である。現時点で国内約40万曲、国外約220万曲の著作権を管理している。国内大手のレコード会社から発売されるCDの曲については、ほとんどすべてが管理楽曲となっている。
音楽の配信形態にはさまざまなものがあるが、最近盛んになりつつあるのがインターネットによる音楽配信である。これにはダウンロード/ストリーム形式による配信、試聴、個人のホームページ上での悪意は無いが無許諾での使用、それから悪意を持った違法利用等がある。
2.著作権の種類と制限規定
著作権は大きく、複製権(音楽をCD等に複製して販売・配布する権利)、演奏権、公衆送信権(テレビ・ラジオ等で放送する権利を含む)、貸与権などの支分権に分けられる。音楽を利用するためにはそれぞれの権利者の許諾を取らなければならない。例えば演奏会を録音したCDを配布する場合には、演奏と録音の両方の著作権処理を行う必要がある。
しかし、あまりにも権利が広がり過ぎると却って利用の差し障りとなってしまうことから、著作権法上には制限規定が設けられている。制限規定には、1、私的使用のための制限(個人で楽しむ分には構わない)、2,引用(歌詞の引用は規定の範囲内であれば認められる)、3,教育目的の複製、4,非営利目的での上演、演奏(非営利であれば自由に演奏できる)がある。
3.ネットワーク上での音楽配信と著作権処理
現在の法律でネットワークによる音楽配信を考えた場合、まず音源をサーバにアップロードした時点で複製が行われる。また同時に、アクセスに対し即座にデータが配信できるような状態となるので送信可能化という権利も発生する。そしてアクセスの結果、音源が流れていく部分については公衆送信の権利が働き、それがダウンロードサービスである場合にはエンドユーザー側のパソコンに複製させることになる。このようにネット上での音楽配信は、複合的な権利の取扱いとなっている。これに対してJASRACでは、末端での利用を考慮して、サーバへの複製・蓄積から末端のPCや端末までの一連の流れを「インタラクティブ配信」として、ひとつの許諾を行っている。
著作権は音楽を作者の財産であると規定して保護するものだが、これに対しレコード制作者や放送事業者、演奏家といった音楽を二次利用する立場にある人々の権利を保護するのが著作隣接権である。著作隣接権についてインターネットが既存のメディアとどう変わってくるのかを考えてみると、例えばラジオの場合、これまでの枠組みでは著作隣接権については報酬請求権という制度により、使用に際して使用料を支払うことになっていた。これがインターネットラジオになると、著作隣接権者にも送信可能化についての許諾権があるため、レコードからの音源を使うときにはJASRACだけでなく制作者の許諾も取らなければならなくなる。
著作権、著作隣接権、それから著作者の人格的なものを侵害する恐れがある場合には著作者本人の「著作人格権」、この3つをクリアすれば、インターネットで音楽を配信することが可能となる。
4.JASRACの暫定許諾の概要
インターネット上でJASRACの管理楽曲を使用した場合に支払っていただく暫定使用料は、配信の形態が「ダウンロード形式」か「ストリーム形式」かで違ってくる。
ダウンロード形式は、音楽自体を1曲いくら、あるいは会費を払っていただき、データをダウンロード形式で販売するというもので、この場合は1曲1リクエストあたりに対する情報料の7.7%、あるいは7.7円のどちらか多い額の方を支払うことになっている。一方ストリーム形式は、リアルオーディオ等を使ってネットワークから音楽を流すというもので、音楽をメインに配信するものである場合は、月間の総情報料収入の3.5%が適用される。
ただしこれは今年3月末までの暫定の料金であり、今後については音楽配信に関わる諸団体で構成されるネットワーク音楽著作権連絡協議会(NMRC)とJASRACとの間で現在協議を行っている最中である(注:2000年9月まで暫定合意が延長され、着信メロディや試聴についての取り扱いが加えられた)。
5.JASRACへの許諾の手順
CD等の有形メディアの場合、作る以前に複製する個数がわかるので、事前にJASRACに許諾の申込みをしていただき、JASRACはその個数に応じて許諾をするというしくみだった。ところがネットワークの、例えばダウンロード配信の場合は、事前に配信が何回行われるかを報告することは不可能である。そこではじめに、JASRACが管理するすべての楽曲を使用できるという許諾契約を結び、その後は毎月の利用報告をしていただいて、JASRACではその利用報告に基づいて請求するというしくみになる。
この方法により、著作権処理については今のところJASRACの部分だけで済む場合が多い。しかしCDや放送から録音した音源を使用する場合には著作隣接権が発生し、これについては一括して管理する団体がないため、各権利者に個別に許諾を取らなければならない。
現在JASRACでは、約100のサイトのサービスを許諾している。ほとんどがMIDIや着信メロディである。実際にはインディーズの楽曲も、JASRACの管理楽曲が含まれている場合が非常に多いため、許諾サイトにはインディーズを中心としたMP3等の音源を配信するものもある。今後さらにネット上での音楽配信が普及していくと考えられるが、その環境は大きく変化していくだろう。
6.著作権者の立場から保護を訴えるDAWN2001
これまで著作権者の立場からは、インターネットを含むデジタル配信について要望を述べるということをしてこなかった。技術面での話し合いは産業界で行われているが、著作権に関してはメディアを販売するだけではなく、放送や楽譜の出版等も関わってくるため、ネット配信だけに限定されない決まりが必要になってくる。そこでJASRACでは「DAWN2001」というプロジェクトを展開している。
DAWN2001は、将来的にデジタル技術を採用し、電子透かしによる権利者情報の埋め込み、コピープロテクトによる複製の管理、完全な利用報告の3つがきちんとなされることを条件に、JASRACから直接、権利情報を提供し、認証を行うというしくみである。これにより著作者は安心して創作活動に専念できる。一方産業界は、著作権を尊重した技術開発と適切なサービス提供のための指針が示されているので、間違いを起こす恐れがなくなる。またエンドユーザーにとっては、音楽とその著作権の処理が簡単・円滑に行われるので、違法利用等が防止され、より一層の音楽文化の発展が促されるものと考えている。
違法利用の防止は、JASRACに限らずネットでの事業の発展にとって重要な課題である。著作権者、レコード制作者、著作隣接権者だけでなく、産業界と一緒になって、違法利用の監視をおこなっていかなければならないと思っている。
また、アメリカのレコード協会RIAAと5大メジャーレーベルが中心となって、セキュアなデジタル方式による音楽流通を実現する規格であるSDMIの技術仕様を定めるための協議が行われている。現状はまだ第一段階といったところだが、将来はSDMIの仕様はDAWN2001の条件を満たすものになるだろうと思われる。
7.諸外国の著作権管理団体のプロジェクト
日本以外の国の著作権管理団体でも、さまざまな著作権保護のためのプロジェクトが動き始めている。代表的なものとして、PRS(英)が中心になって展開するIMPRIMATUR Project、ASCAP(米)、BUMA(蘭)、PRSの3団体が著作権の一元管理を目標に推進するIMJV、BMI(米)のHorizon Project、GEMA(独)のCMMV等がある。また各国の団体が共同で、著作権のデータベースの共通化を図るPROTONETというプロジェクトもある。
ネット上での音楽配信に関しては、JASRACのホームページでもさまざまな情報を掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。