seminar1204-1
電子ネットワーク協議会 平成12年4月度月例セミナー
「ビル・家庭における設備系ネットワークと東京電力の取り組み」
講師:東京電力株式会社 電子通信部 通信技術グループ
主任 杉森 正章
1. 情報系ネットワークと設備系ネットワーク
企業におけるIT活用、家庭へのパソコンやゲーム機の普及、ビル等における業務用設備の自動化、工場等における産業用機器の自動化といったように、社会の様々な分野で情報化・ネットワーク化が進行している。
企業や家庭における情報化は、コンピュータの普及からはじまり、さらにインターネット等の普及でネットワーク対応が広がってきた。事務処理の機械化、コミュニケーションツールとしての活用、Eコマース、ゲームといったかたちでネットワークを活用した情報流通が進展している。
情報系ネットワークのみならず、家庭においては家電機器等の制御、ビルにおいては業務用設備の自動化といった設備系のネットワークも発展しつつあり、ここでは設備系ネットワークの技術動向と当社の取り組みを紹介する。
2. 設備系ネットワーク標準化の動向
設備系ネットワークでは現在、BAS(ビル・オートメーション・システム)の標準化が進められている。BASとはビル内の空調・電気・衛生等の設備の統合的な運転・管理を行うシステムであるが、従来はメーカーやビルごとに独自仕様の機器が導入されていた。これらの機器を相互に接続するためには標準化が必要であり、そのための規格として現在「BACnet」という技術が開発されている。また、アメリカのエシェロン社が開発した「LONWORKS」という技術は、近年この分野でのデファクトスタンダードになりつつある。
3. BACnet
BACnetはアメリカの空調・冷凍・冷蔵に関する学会「ASHRAE」で標準化・規格開発が行われ、同じくアメリカの標準機関「ANSI」の認定により規格化が進行中の技術である。また、国内においては電気設備学会で、国際的には「ISO」で標準化が進められている。BASにBACnetを適用することにより、これまでメーカー独自の仕様で接続されてきた中央監視装置、サブコン、各機器(電気設備、空調設備、エレベーター等)が容易に接続できるようになる。
BACnetのプロトコルでは、物理層とデータリンク層にEthernetを用いることによって汎用化が図られている。またトランスポート層にはUDP、ネットワーク層にはIPを用いることによって、インターネットとLAN接続することが可能となっている。アプリケーション層には、レスポンスやデータ要求等の機能を持つ「BACnetサービス」、機器等の定義を行う「BACnetオブジェクト」を設け、その上にBASアプリケーションプログラムが載って実際の業務を行なうといったレイヤ構成になっている。
4. LONWORKS
近年BASのデファクトとなりつつあるLONWORKSは、アメリカのエシェロン社で開発された「LonTalkプロトコル」を基本にした分散制御ネットワーク技術で、各種センサーや制御機器間の通信を容易に実現することができる。Neuronチップを実装したLONノードで、機器情報をLONの通信プロトコルに変換することにより、通信を行なうしくみである。
LonTalkは、物理層(ツイストペア線、電力線、無線、同軸ケーブル等を使用)からアプリケーション層までOSIの7階層をサポートしている。
LONWORKSを用いたアプリケーション開発は、Neuronチップが組み込まれたLonノードの機器に、Neuron Cでプログラミングを行う。開発環境としてエシェロン社から「LONBuilder」(ネットワーク単位で開発が可能)、「NodeBuilder」(ノード単位で開発が可能)等が提供されている。
5. OpenPLANET
設備系ネットワークとして、四国電力が中心となって開発を進めてきた「OpenPLANET」がある。OpenPLANETは、屋内でAC 100ボルトの電灯線、屋外ではPHSやインターネット等の既存のネットワークインフラを使って、産業機器や家電用機器の監視・制御を行うことができるシステムである。
OpenPLANETの特徴は、機器の状態をソフトウェア的に置き換えた「バーチャルマシン」を使って、遠隔から機器の状態監視や制御を行う点にある。家庭やビルに据え付けられている電力量計にサーバを設置し、その上に機器の監視・制御を行うソフト(バーチャルマシン)を載せ、PHS等の広域ネットワークを使ってセンターと通信を行なうことによって、遠隔地からの機器の監視・制御を実現している。また、エージェントを使って遠隔地からソフトをダウンロードしたり、電力量計のサーバの設定値を変更するといった機能も検討されている。さらにはサーバにFM放送受信機やPHS等の通信装置を備えつけて、災害発生時には災害情報を流したり、機器の制御を行なうといった機能も考えられている。
6. ECHONET
OpenPLANETの他に、主として家庭向け設備系ネットワークとして標準化が進められているものに「ECHONET」(Energy Conservation and HOmecare NETwork)がある。70社以上の会員企業によって構成されるコンソーシアムにおいて規格の開発が行われており、今年の2月に規格のβ版が発表された。今後、各メーカーから準拠製品が発売されていくだろう。OpenPLANETにおいても伝送媒体のひとつとして利用することが検討されている。
ECHONETの特徴は、媒体に電灯線や無線を使用することで、既存の住宅でも新たな配線工事が不要で低コストで実現できる点、プラグアンドプレイにより設置とアプリケーションの開発が容易に行なえる点、マルチベンダーのオープンなシステムである点、等が挙げられる。また、ECHONETでは家電機器に監視・制御といった機能を内蔵するため、機器に組み込みやすくするよう、例えばECHONETアドレスを2バイトにするなどコンパクトな設計で標準が作られている。情報系機器との接続は、情報系と設備系とで扱うデータ量が大きく異なる点を考慮して、ゲートウェイ(ECHONETゲートウェイ)で接続することとしている。
ECHONETのレイヤ構成は、まず物理媒体に電灯線、小電力無線、ツイストペア線、赤外線、LONを使った小電力無線がある。その上にプロトコル差異吸収処理部が設けられ、下位のプロトコルとのインターフェースが規定されている。そしてその上に通信ミドルウェアとして、ECHONETアドレスや、機器の属性の定義を行なう機器オブジェクト等が規定されて、さらに基本APIを介して各メーカーによるアプリケーションソフトウェアが載る、といった構成になる。
7. 設備系ネットワークへの東京電力の取り組み
東京電力では、情報通信を活用した新しいエネルギーサービスを提供することを目的に、「E-service Project」(EsP)という実証実験を行い、設備のエネルギー診断技術の開発やサービスメニューの検討等を行っている。
EsPでは、お客様のエネルギー利用実態のデータ収集を行ない、それをもとにしたエネルギー利用分析、省エネルギー診断等のエネルギー管理情報を提供する。今後は設備の遠隔監視や、故障が起きた場合の即時通報といったサービスも考えている。
EsPのネットワークには、電力の自動検針用として敷設している光ケーブルと端末を活用する。端末の先にさらにゲートウェイを設置して建物内のデータを収集し、当社のセンターで蓄積・分析し、お客様へ分析結果のフィードバックを行う。
将来的にはビルだけでなく、工場、病院、ホテル、スーパー等の分野にも適用できる技術と考えている。また、情報収集や分析サービスを行なうためのオペレーションや、インフラ管理等を行うセンターの開発も進めて行く。
“エネルギー”と“情報通信技術”をキーワードに、標準的・オープンな情報技術を活用して、お客様の役に立つサービスを提供できるようにしていきたい。