(財)インターネット協会では、2001年12月17日~20日に横浜で開催された「第2回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」の一環として、12月17日にワークショップを主催し、それらの対策の現状を紹介しました。また、インターネット接続可能な携帯電話上の出会い系サイトにおいて子どもが被害に遭わないように両親や学校の先生のリテラシーを向上させるための方策について、意見交換を行いました。
ワークショップには、世界各地から、ホットライン関係者、政府関係者、児童保護団体など80名以上が出席しました。途中からは、第1回世界会議の主催国であるスウェーデンのシルビア王妃と、日本の皇室を代表して世界会議に出席された高円宮妃殿下がご臨席になり、意見交換に聞き入っておられました。また、ワークショップの様子や関係者へのインタビューが、翌朝のNHKテレビニュース「おはよう日本」で放送されました。
- ◆日時:2001年12月17日(月)14:30-16:30
◆場所:パシフィコ横浜 511+512室 (ワークショップ番号W1/8)
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい一丁目1番1号 アクセスマップ
フリーダイヤル:0120-045-221 総合案内 TEL:045-221-2155
◆全体主催(共催):日本政府、unicef(国連児童基金)、ECPAT
*外務省のレポート *unicefのレポート
◆ワークショップ主催:(財)インターネット協会
◆協力:ECPAT/ストップ子ども買春の会、チャイルドネット・インターナショナル
◆プログラム:(逐次通訳付き)
司会 宮本 潤子氏 ECPAT/ストップ子ども買春の会 共同代表
Nigel Williams氏 チャイルドネット・インターナショナル 代表1 「インターネット・ホットライン連絡協議会とフィルタリングソフトの開発」
講師:国分 明男 (財)インターネット協会 副理事長
参考:インターネットホットライン連絡協議会
参考:インターネットを利用する方のためのルール&マナー集
参考:レイティング・フィルタリング情報のページ2 「安全対策と法律に基づく取締り」
講師:木岡 保雅氏 警察庁 生活安全局少年課少年保護対策室長 警視正3 「インターネット上の子どもの保護のためのリテラシー向上」
講師:宇佐美 昌伸氏 ECPAT/ストップ子ども買春の会
参考:エクパット・ガイドの英語版 Protecting Children Online: An ECPAT Guide4 「ヨーロッパにおける関連活動と日本の状況に対するコメント」
講師:Nigel Williams氏 チャイルドネット・インターナショナル 代表
1.「インターネット・ホットライン連絡協議会とフィルタリングソフトの開発」
(財)インターネット協会 副理事長:国分 明男氏
「インターネットを利用した有害情報流通、とりわけ出会い系サイトの問題が顕在化している。
(財)インターネット協会では、昨年12月にインターネット・ホットライン連絡協議会を立ち上げたが、インターネット携帯電話による出会い系サイトの問題は今後の課題だ。また、1996年からフィルタリングシステムの開発と運用・提供を行ってきているが、インターネット携帯電話向けのフィルタリングについては、携帯電話でプロキシ設定が出来るようになれば、当協会のフィルタリングシステムを利用できる。
子どもの携帯電話所持率は高く、京都府調査では高校生の82%が所持している。そのうち35%が出会い系サイトを利用したことがある。また、携帯電話所持者の30%が、見知らぬ人からのメールに対して返信したことがあるということだ。
米英では、子どもがネット上の見知らぬ人から誘い出されて性的虐待を受けたり、殺されたりする事件が起きており、大変危険なことだ。
出会い系サイトは、出会い用のBBSや、チャット、メル友探しといったコンテンツから成る。出会い系サイトは少女買春の温床になっていると言える。
今後の課題としては、インターネット・ホットライン連絡協議会では参加団体を増やすことで、出会い系サイトへの対策を強化する必要がある。また、次世代インターネット携帯電話におけるフィルタリング機能の開発を行っていきたい。最後に、インターネットにおける子どもの保護のためには、両親のリテラシー向上が必要だということを指摘したい。」
国分副理事長の発表に対し、司会のWilliams氏から次のようなコメントを頂きました。
「日本は諸外国よりも早く、携帯電話利用における児童性的虐待の問題に直面している。日本の取組み方法は、我々の参考になる。携帯電話の問題については国際的な協力が必要だ。携帯電話の有害利用に関する国際会議を開催してもよいのではないか。」
2.「安全対策と法律に基づく取締り」
警察庁 生活安全局少年課少年保護対策室長 警視正:木岡 保雅氏
「児童買春・児童ポルノ禁止法施行後の児童買春検挙状況については、1999年、2000年、2001年上半期(1月~6月)のデータがあるが、うちテレクラ利用または出会い系利用の割合が高く、特に出会い系利用の検挙件数については増加傾向にある。また、出会い系利用のうち90%は携帯電話経由となっている(2001年上半期)。
従来のテレクラでは男性がお金を払う場合が多かったが、出会い系サイトでは無料の場合が多く(検挙件数の三分の一)、子どもが使いやすい環境にある。
一方、児童ポルノ検挙状況については、インターネット利用の割合が高くなっている。
出会い系サイトは色々な犯罪の温床であり、性交のみならず、殺人に発展する事例もある。
調査では高校生の83%が携帯電話を所持しており、高校生の9割以上がインターネットを利用したことがある。出会い系サイトを利用したことがある高校生女子は20%強で、そのうち出会い系サイトで知り合った人と実際に合ったことのある人は4割強となっている。
問題は、これらの子どもが両親にそのことを話すことが少ないということだ。親に対する調査では、45%が何の対策もせず、自由に使わせているという結果が出ている。
子どもが携帯電話やインターネットを自由に利用できるという環境が問題であり、それは親たちが何の対処もしていない所に大きな原因がある。親への働きかけが重要だ。」
木岡氏の発表に対し、司会のWilliams氏と宮本氏から次のようなコメントを頂きました。
Williams氏:「日本の警察が、早い段階から問題に対して高い意識を持っていることが大変印象的だ。」
宮本氏:「ストックホルム会議から5年経ったが、日本の関係省庁の中では警察庁がいちばん迅速な対応を取ってきたと思う。」
3.「インターネット上の子どもの保護のためのリテラシー向上」
ECPAT/ストップ子ども買春の会:宇佐美 昌伸氏
宇佐美氏はかつて国会議員の秘書として児童買春・児童ポルノ禁止法に関与したことがあります。宇佐美氏は今回、ECPAT作成のガイドラインである「インターネット上の子どもの安全ガイド」を日本語版に翻訳しており、翻訳者としての立場から発表を行いました。
「この安全ガイドは、親や先生などの保護者がいかにインターネット上の害悪から子どもを守るかということの指針である。ネット上で子どもを守るために、現在何がなされており、読者に何ができるか?ということを説明している。
安全ガイドでは、ECPATによる子ども向けの「ネットスマート・ルール」が掲載されており、保護者が家庭や学校で子どもに教えることを呼びかけている。ネットスマート・ルールの中には、例えば「あなたの親や保護者からまず承認を得ない限り、決して誰とも実際に会う約束をしないこと。そして、初めて会う時にはあなたの親や保護者について来てもらい、必ず公共の場所で会うこと。」というものがある。
また安全ガイドでは、親ができることとしては、コンピュータの使い方を学び、子どもがオンラインで何をしているかを理解することが重要としている。
ECPATのガイドの普及促進のためには、プロバイダのホームページなど分かりやすい所にリンクを張ったり、プロバイダのパンフレットに組み込んでもらったり、色々な媒体を通じて人々に認知してもらうための努力が必要である。
フィルタリングソフトを家庭で使う場合も、子どもたちと話し合いの上で使い、その中で子どもにネットの利用ルールを教えていくことが必要である。」
宇佐美氏の発表に対し、司会のWilliams氏から次のようなコメントを頂きました。
「ECPATのガイドは世界の中でも最も良いガイドであり、日本語にも翻訳されることは素晴らしいことだ。」
4.「ヨーロッパにおける関連活動と日本の状況に対するコメント」
チャイルドネット・インターナショナル 代表:Nigel Williams氏
Williams氏は、子どもがインターネットの世界における変化から恩恵を得られるように、また子どもをネガティブな影響から守るように活動している英国のNPOであるチャイルドネット・インターナショナルの代表です。
「インターネット携帯電話、出会い系サイトについては、日本の事例や対策から学ぶべき点が大変に多い。
チャイルドネット・インターナショナルでは2つの側面から活動を行っている。一つは、インターネットの良い面を促進すること、もう一つはインターネットの悪い面への対策、すなわちチャット等から子どもを守ることである。
悪い面への対策としては、「Safety Strategies」として、4つの対策が考えられる。(1)ホットライン、(2)法執行、(3)業界の行動規範とレイティング&フィルタリング、(4)教育と意識向上、である。
インターネットはグローバルなものなので、グローバルな協力関係が必要になる。
ホットラインは、ネット上の違法なコンテンツに対し、利用者から通報を受け付ける。通報に対する対処のための正式な手続きが確立されていることが重要である。受け付けた通報は業界または法執行機関に連絡する。
ドイツの学者が提唱した、ホットラインの原則として「ART」がある。AはAvailability(誰でもすぐに利用できる)、RはReliability(信頼できる)、TはTransparency(通報の後、どのような手続きがなされるかが明確になっている)である。
ホットラインの成果としては、多くの違法画像が削除されたこと、通報が逮捕や訴追に結び付くケースが増えていることが挙げられる。
ホットラインは互いに協力することが必要である。チャイルドネット・インターナショナルは4年前からこのことを提唱している。ホットライン同士の連携を促進するための国際的な団体としてINHOPE (The Association of Internet Hotline Providers in Europe) があり、EUからの資金援助を受けている。」
INHOPEの会長 Cormac Callanan氏がワークショップに出席されており、急遽コメントを頂きました。
「INHOPEは30カ国の16のホットラインから構成されている。日本のホットラインにも早く参加してほしい。INHOPEの目標は、できる限り早くホットラインのネットワークを構築し、通報があった場合、そのコンテンツがどの国のものであるかを特定し、早期に削除し、早期に訴追することだ。」
「Q&A」
発表全般に対して会場からの質問を受け付け、質疑応答を行いました。
Q:(アフリカのマリ国の方)
アフリカにはホットラインがない。アフリカやアジアの少女たちは人身売買で欧州や米国に送られている。このような流れを止めるための国際的な仕組みづくりが必要だ。
A:(Williams氏)
その通りだ。ホットラインは欧州から生まれたものだが、インターネットはグローバルなものであるため、他の国でもホットライン制度の導入が始まった。我々はアフリカにおけるホットライン設立を支援したい。INHOPEのホームページには、ホットライン運営のベストプラクティスが掲載されている。ただ、インターネット人口がどのくらいあり、どのくらいの通報が見込まれるか、どのくらいニーズがあるかということの調査が必要だ。
Q:(日本の方)
国内のフィルタリングソフトのうち、無料で公開されているものはあるか?海外ではどうか?
A:(国分副理事長)
(財)インターネット協会では、サーバ型のフィルタリングソフトを無料で提供している。インターネット協会サイトからダウンロードすることができる。
A:(Williams氏)
他国にも、無料のものがある。
最後に、宮本氏からワークショップの総括として、以下のようなコメントを頂きました。
「日本国内の各関連機関の結び付きと、日本と諸外国の結び付きとが必要だ。このワークショップが一つの契機となるようにしたい。」