【詩人土井晩翠事件】

  • 横浜地判平成4年6月4日(判時1434号116頁、判タ788号207頁)

  • 事案
    著名な詩人である「土井晩翠」の相続人が、「晩翠」「晩翠草堂」「晩翠通」「晩翠草堂前」の表示のある標識等を設置した仙台市に対して、その相続人又は晩翠のパブリシティの権利を侵害するとして、侵害行為の差止及び損害賠償請求をした事件(プライバシーの権利等の人格権侵害も理由とされている)

  • 判旨(パブリシティ権に関係する部分のみ)

    判決は、パブリシティの権利の侵害の有無について次のように判示した。

2 次に晩翠及び原告のパブリシティの権利の侵害の有無について判断する。

 パブリシティの権利とは、歌手、タレント等の芸能人が、その氏名、肖像から生ずる顧客吸引力のもつ経済的利益ないし価値に対して有する排他的財産権であると解される。このような権利が認められる根拠は、芸能人の特殊性、すなわち、大衆に広くその氏名、肖像等を知らしめて人気を博することにより、氏名、肖像自体に顧客吸引力を持たせ、それをコントロールすることによって経済的利益を得るという点にあると考えられる。
 しかるに、詩人は、一般に詩作や外国の文学作品を翻訳するといった創作的活動に従事し、その結果生み出された芸術作品について、社会的評価や名声を得、また印税等として収入を得る反面、氏名や肖像の持つ顧客吸引力そのものをコントロールすることによって経済的利益を得ることを目的に活動するものではなく、また、その氏名や肖像が直ちに顧客吸引力を有するわけではない。このことは、著名な詩人である晩翠についても同様であり、本件全証拠によっても、晩翠が生前自己の氏名や肖像の持つ顧客吸引力により経済的利益を得、または得ようとしていたとは認めることはできないから、晩翠の氏名、肖像等についてパブリシティの権利が発生するとは到底認められない。
 しかも、本件で問題とされているのは、いずれも案内板やバス停標識の設置といった行為であって、このような行為は氏名を用いられた者の知名度を高めこそすれ、その顧客吸引力を損なうことはなく、また不正なキャラクター商品の販売等の場合と異なり、名称使用によって無断使用者の側に不当な利益が生じる反面、本来の権利者に損害が生じるという問題も発生しないものである。
 したがって、いずれの点からしても、パブリシティの権利の侵害に関する原告の主張は理由がない。


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