【解説:NMRCが考えるインタラクティブ配信にかかる使用料案】

権利と利用行為

JASRAC案は、インタラクティブ配信にかかわる法的評価について、次のとおりだとし 「これらの支分権はそれぞれの1回毎の著作物利用行為に対して権利が生じることになる。」 としています。即ち、

権利 利用行為
複製権サ−バ−と端末への著作物の蓄積
有線送信権
(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む)
サ−バ−から端末へのデ−タ配信
(サ−バ−に著作物を、記録変換、入力、加えることを含む)

※なお、ここで「サ−バ−」とは 「インタラクティブ配信システム」をいいます。


まず、この認識、即ち、全てのインタラクティブ配信をひとくくりにして同じカテゴリ−とすることが、今回の包括的 「基本使用料と利用単位使用料」の設定に結び付いているものと推測されます。

しかし、前述のとおり、ストリ−ム配信とダウンロ−ド配信とでは、送信するデ−タ形式および使用アプリケ−ションが異なるばかりか、ユ−ザ−端末での複製の可否という点で、それぞれ異なっています。 そのため著作権法上の評価を異とするばかりか、権利者にもたらす影響も異なるものと考えられます。  従って、インタラクティブ配信にかかる「権利と利用行為」 を法的に評価しようとすれば、次のとおり現実の配信方式に沿って、個別的に評価すべきと考えます。

利用形態

次にJASRAC案は「インタラクティブ配信では、著作物を送信可能化したサ−バ−から端末までの経路が複雑で、厳密に著作権法を適用すると送信可能化したサ−バ−からリクエストを行った端末に著作物が配信されるまでの間に、複数回の利用行為が行われる場合があると考えられます。 例えば、デ−タのトラフィックを緩和するために用いられている数100MBのキャッシュ機能を持つプロキシ−サ−バ−の導入によって著作物を一時的に記憶しておくことになります。」と述べられておられますが、インタ−ネット上のデ−タ送信については、送信途中に技術的に行われる 「複製行為」「利用行為」として評価すべきか、疑問です(そして、 「誰が複製しているのか」という問題にも繋がり得るでしょう)。  また、これを評価することに経済的意味はあるのでしょうか。
 少なくとも現在、インタ−ネット使用の「自動公衆送信」 において、このような複製行為を意識して 「複合的利用行為」とするライセンス慣行があるのかは疑問です。

著作物利用に対する評価について

JASRAC案は 「本規定は、インタラクティブ配信の中で利用される著作物の効果、即ち品揃えとして著作物の数量を基準にする部分(基本使用料)と実際の利用行為を捕らえて情報料に対して評価する部分(利用単位使用料)の合算で利用形態全体を評価する方式」と言われ、 「基本使用料が支分権の何権にあたり利用単位使用料が何権にあたるということではありません。」と言われますが、この 「品揃え論」こそ、私共にとって最も不可解な論拠なのです。  「品揃え論」は、一体支分権の何権に基づく主張なのかこそが私共にとっては重要なのです。これは 「これらの支分権はそれぞれの1回毎の著作物利用行為に対して権利が生じることになる。」との前述の表現および 「著作物の送信可能化から最終的な受信先までの一連の支分権の働きの利用形態」との評価とどう結び付くのでしょうか? こうした 「品揃え」に対して毎月課金するということになりますと、事業者としては、 「売れない」著作物をどんどん削除していくことになります。こうした発想は、権利者のビジネスチャンスを狭めることにつながるもので、本当に権利者の利益になるのか、疑問です。

 なお、通常の著作権ビジネスの実務慣行においては 「支分権が働く」ということと、 「著作物の送信可能化から最終的な受信先までの一連の支分権の働きの利用形態」のどの行為を基準として使用料の発生根拠とするかは、別個の問題として観念されています。 特に非独占的ライセンスの場合、 「一連の利用形態」のうち、経済的価値が実現にあった段階(例えば、複製物の作成ではなく、販売を基準とするように)に着目して、これを使用料支払いの基準とすることが、むしろ通常であると言えます。従って、サ−バ−への複製は、つまるところ、配信のための準備行為(ライブ型ストリ−ム配信のように、サ−バ−への複製を伴わない場合もありますが)として、これによる実際の配信を基準としてロイヤルティを支払うとする契約も十分可能なのであり、この点こそ、ご理解賜りたい点なのです。
  1. 「著作物を配信するコンピュ−タ等の自動公衆送信装置」「インタラクティブ配信システム」として、定義を変更した

    JASRAC案は、「インタラクティブ配信」を、 「リクエストに応じて著作物を配信するシステム」としていますが、こうした 「システム」自体を 「インタラクティブ配信」と言うのは、著作権法の 「自動公衆送信」の規定との齟齬を生じるおそれがあるものと考えました。なお、当方案においては 「インタラクティブ配信システム」という用語を用いていますが、 「インタ−ネット上に分散するコンピュ−タおよびその内部で起動するソフトウェア」即ち 「サ−バ−」等の著作権法上の自動公衆送信装置を意味しています。  当方案では、使用料の支払い義務のある利用者を明確にするため 「どこにアップロ−ドするか」という対象の特定が必要になるためでもあります。

  2. 「家庭内利用を目的として」「家庭内その他の私的使用を目的として」とした著作権法上の用語にそって、 「利用」「家庭内その他の私的使用」としました。  「家庭内利用」というとき、家庭内で複製行為が行われることを含めた表現なのか、不明なこともあります  当方案では、前述のように端末への複製の可否を重要な要素と考えていることもあります。

  3. 「著作物を複合的に利用」「著作物を配信する場合」にした理由
    前述のようにJASRAC案でいう「複合的利用」の意味するところが若干不明なためこの用語を避けました。

インタラクティブ配信のためのサ−バ−への複製料について

 当方案では、前述の理由もあり、これを削除しています。また、他メディアとの比較という観点からすると、公衆への実際の伝達とかかわりなく、何の経済価値も実現されていない状態での使用料支払いは、不合理であるとも考えます。例えば 「放送」の場合、 「放送のための一時的固定」については、著作権の効力が及ばないものとされています。また、他の使用料規定によれば「放送に著作物を使用する場合及びその放送のために録音する場合の使用料」として、 「1カ月10円×当該月の前月末日現在の加入契約数」とのみ定められている場合も見受けられます。

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