「モバイルインターネットと子ども」に関する国際ワークショップレポート |
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第一日 2003年 3月 6日(木) |
○イントロダクション○
●モバイルインターネットと子ども● 講演者:Nigel Williams (Childnet International、英国) 時間:9:00~9:50 携帯電話で生じている問題は人間の側の問題であり、技術がいかに進んでも人間はミスを犯すものだ。 Childnet Internationalは慈善目的で設立されたNPOであり、インターネットが子どもにとって安全なものであるように、国際連携をとりながら、子どもと技術だけに集中して活動を行っている。技術の子どもにとって明るい側面と、暗い影の側面との両方をテーマにしている。 今回、国際ワークショップを開催したのは、次の理由からだ。携帯電話会社、児童福祉の専門家、学者、政府、自主規制団体など、様々な分野の様々な国からの関係者間で経験を共有し、互いに学び合うこと。また、携帯電話の社会的利用(とりわけ子どもたちの利用)のあり方について話し合うこと。日本はiモード、eメール、3Gなどをいち早く導入しているが、なぜ日本の携帯電話が早期に普及したのか、このことについても学びたい。 本ワークショップの性質は次のようなものだ。プライベートなミーティングだが、秘密ではない。招待された関係者のみが参加できるが、TV局の取材もあり、ミーティングの結果は公開する。各分野の代表者に参加してもらっているが、包括的ではない。ミーティングの結果は公開するが、氏名は出さない。各参加者が自由に意見を出せるようにしたい。TV局の取材はあるが、取材をお願いした訳ではない。 まず、固定インターネットとはどのようなものかというと、(子どもが地球儀を持っている写真を見せて)耳が聞こえないナイジェリアの少年にとって、インターネットが彼の世界を広げた。その反面、インターネットは都市を家庭や教室に持ち込むようなものである。都市には良いものも悪いものも含まれている。固定インターネットは子どもに様々な機会を与えると同時に、様々な危険をも与える。 子どもがなぜ携帯電話に引きつけられるのか。一つは、親から離れることができる、パーソナル&プライベートなものだからだ。イメージやファッション、常時接続、価格の低下、色々なサービス(例としてSMS、ゲーム、着メロ)なども挙げられる。これらの魅力をどのように優先順位付けするかは、国や個人によって異なるだろう。 なぜ既存のサービスの立ち上がりには各国で差があるのだろうか。技術の違い、固定ネットワークとの競争、マーケティング、文化とファッション、価格などがその要因だろう。 若いユーザーにとって携帯の最も興味深い新しいサービスは何か。大人/ビジネスユーザーにとっては、業務メール、情報、地図、データ送信、バンキング、娯楽などだが、若いユーザーにとっては、お互いにつながっていること、新しい人との出会い、娯楽とゲーム、TVとのリンク(番組への投票など)が魅力となっている。 新サービスが若いユーザーに提供する機会としては、エンパワーメント(例えば投票や参加)、デジタルデバイドの橋渡し、ヘルプを呼ぶ、医療健康(例えば血糖値)、教育(例えばフィールド調査)、友人との豊富なコミュニケーションなどがある。その反面、新サービスが若いユーザーにもたらす危険としては、児童搾取をするような大人との出会い、子どもの位置情報を知るPredatorの存在、いじめ、ポルノ、広告、経済的負担などがある。 我々に何ができることは、問題と機会を予想しモニターすること、ポジティブな側面を促進すること、お互いに学び合い固定インターネットの経験から学ぶこと、統合されたアプローチへ向けて努力することだ。 関係者が取るべきレスポンス・ストラテジーは以下のようなものである。
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○子どもたちの発言○
●携帯電話を利用している子どもたち● 発表者:日本人高校生3名 (A:高校一年生、男子、B:高校一年生、女子、C:高校二年生、女子) 司 会: Nigel Williams (Childnet International、英国) 時間:9:50~11:00 Nigel:どのように携帯電話を使っているか。 C:電話、メール、インターネット、スケジュール、メモ(個人情報の管理)で使っている。メールでは、友達の友達とやり取りしている。インターネットでゲームや画像をダウンロードして娯楽で利用したりもしている。 Nigel:何が一番重要か。話すことか、データを取ることか、メールを送ることか。 C:友達や親とのやり取りに使っているが、話もメールも同じくらい重要だ。メールでは例えば話では言えないことを伝えることができる。 B:クラブの休み時間に連絡事項を伝えたりしている。委員会の呼び出しに使ったりしている。友達との会話に使うことはほとんどない。 Nigel:授業中に使ったり、学校内で使ったりしているのか。 B:規則がないため、学校内でも使っている。授業中は暗黙の了解があり、話はしていない。ただ、メールをしている生徒は少なくないが、先生も自己責任だからということでうるさくは言わない。 A:電話だとすぐに話を伝えられるメリットがある。メールは届いたかどうかわからないが、電話だとすぐにわかる。また、英和・和英辞書機能を付けているため、授業中に使っている。ゲームを授業中にやっている人もいる。 Nigel:カメラ付き携帯か。 A:付いている。友達の顔を撮ることもあるが、記録として黒板を撮っている。メモを取らなくてよい。 Nigel:モバイル会社もそのような使い方は想定していなかったのではないか。 C:1年半くらい使っている。以前、カラー液晶でないものを使っていたが、友達から古いと言われた。 Nigel:ほとんど毎年買い換えているのか。 B:まだ1年目で、1台目だ。少なくともあと半年は買い換えない。 A:今年1月に買い換えた。使い方のせいかもしれないが、1年くらいで壊れてきてしまう。 質問:音声とそれ以外の利用との頻度はどうか。 A:一日にeメールを送るのが30件、受けるのが30件位だ。ショートメールは同じ会社しか使えないので、利用頻度は少ない。オンラインチャットについては利用料が高く、また自宅にPCがあるので必要性が少ない。 Nigel:PCから携帯、携帯からPCへのメール送信はあるか。 A:現在使っている携帯が1万字のメールを受信できるため、NPOのメーリングリストに携帯メールアドレスを入れておき、見ている。友達の中ではPCを使わない人も多い。PCメールと携帯メールとの結び付きは少ない。 質問:どのようなメールや電話が来ているか。スパムメールや知らない人から来ることがあるか。 B:購入と同時に携帯メールアドレスを変えたため、スパムメールはない。ただし、ワン切りはある。友達は普通のメールアドレスなので、1日50通くらいのスパムメールが来ている。スパムが来ないような設定にしても1日50通くらいである。 Nigel:生活の管理が楽になったか。友達との集まりとかで便利になったか。 C:メールなら、親など電話するまでもないことでも伝えられる。 質問:携帯を買ったことで、社会生活はどうなったか。 B:持ってないからといって、のけものにはされない。携帯をもっていない友達が待ち合わせに1時間半遅れたとき、持って欲しいと思った。携帯を持っていると最新の情報がすぐに入り、色々な状況を把握できる。 Nigel:お金はプリペードか。親が払っているか。アルバイトか。 B:父が契約しており、後払いだ。自分は全く払っていない。請求書はいつも見ていない。先月は7,800円であった。これからは、自分をもっと規制したい。友達はバイトして払っている人も多い。 Nigel:父は文句を言わないのか。 B:父から、どのような使い方をしたらよいかは請求書を見て考えたらいいと以前言われた。親との連絡に使うことが多い。 C:親が後払いしている。基本料金から超過した分は自分の小遣いから引かれている。 A:親が後払いしている。毎月机の上に請求書が置いてある。つい使いすぎてしまうが、そうすると小遣いが減らされてしまう。 Nigel:子どもが出会い系サイトを使うという話はどうか。身の回りで使った人がいるか。 A:以前持っていた携帯電話ではメールアドレスが変えられずに1日20~30件のスパムメールが来ていた。通信料が高くなってしまった。ワン切りも来る。出会い系サイトについては、周りで多くはないが使っている人がいる。相手が18歳男だと言うので実際に会ってみると30代の男で、関係を迫られたという。出会い系サイトに簡単に接続できることが問題だ。 C:出会い系サイトとわかるサイトもあるが、そうでないものもある。友達から、初めは趣味の話だったのがだんだん性的な話になっていったという話を聞いた。出会い系サイトとはっきりしていないサイトがある。 Nigel:はっきりしないサイトでも、危険な方向へ行くことがある。 B:野放しになっているおり、出会い系サイトが自分たちにどう影響を与えるかを教わっていない。ファッション誌の中にも、出会い系サイトをすすめる文章が載っている。中学に入ったころからみんな読んでいる。間接的にそういったものに慣らされてしまう。危険性を教えてくれる教育がない。雑誌で出会い系のいい面ばかりを知らされてしまう。 質問:携帯を使うことで、親との関係が変わったか。 B:親からのメールは一日5件くらいだ。どこにいるのか、夕食に何が食べたいかなど。クラブ活動とかで帰りが遅くなっても親は安心している。親に監視されているとも考えられるが、逆に親は安心感が大きくなったと思う。 質問:電磁波の影響については心配ではないか。 A:それは心配だ。家でもTV、PC、レンジなどの製品が多いから問題だと思う。しかし自分では防御できない。5歳、6歳から使っている子どもに対しては心配だ。 質問:携帯はコミュニケーション手段としてふさわしくないと思うことはあるか。例えば手紙の方がよいことなど。電源を切ることはあるか。 C:携帯、インターネット、電話以外のやり取りは考えたことがない。メールだと残るのでそれを誰かに取られるのが恐いと感じたことはある。 A:好きな人に気持ちを伝えるのに、メールを使う人が多い。手紙だと手渡ししないといけないが、メールだと遠くからでも送れる。ただ、学校によって休み時間が違う場合など、メールを送るのがふさわしくないと思うことはある。 Nigel:テスト中の携帯電話利用は? A:携帯電話でのカンニングは自分の周りではやっていない。先輩で見つかって、二週間の停学処分になった人はいる。 質問(日本):学校で携帯を使ったいじめは発生したか。 B:いじめではないが、友達の着メロが面白かったので、授業中に電話して鳴らした友達がいる。自分の学校では授業中に使っていると没収なので、わざと鳴らしていやがらせをした人もいる。 質問:携帯ブラウザの、表示が遅いのはイライラしないか。 A:自分の携帯はわりと表示が速い。 質問:どんな用途に使ったか、親が聞くことはあるか。内容についても聞くか、それとも電話料金だけか。 C:お金だけで、内容については聞かれない。 B:何も言われない。自分から使い方を見せていることもある。例えば、このサイトから毎日画像をダウンロードしていることなど、親に見せている。親が知らない使い方はしていないと思う。 A:干渉されることはほとんどない。親と子の信頼関係によっても変わってくると思う。 |
○新技術をいろいろな視点からどのように理解するか○
●変動するメディアへの展望● 講演者:Kirsten Drotner(USD Odense University、デンマーク) 時間:11:15~11:55 携帯電話は毎日の生活に組み込まれている。北欧では12歳以上の子どもの90%が携帯電話を保有している。 SMSはとても重要であり、統計では、携帯メールを1人1日当たり6件ほど送っている。若い人は20~30件ほど送っているのではないか。カメラ付き携帯はあるが、まだポピュラーではない。TV番組ではSMSを視聴者のインタラクションや参加のために使ったりしている。 メディア文化の潮流としては、メディアの収斂化とメディアのモビリティ化が挙げられる。このことによって、コミュニケーションがますます複雑なものとなっている。 調査と開発の視点としては、単一のメディアから社会的なメディアへ、技術としてのメディアからコミュニケーション/コンテンツとしてのメディアへ、製作者/提供者からユーザーへと移り変わっている。 社会的な視点と、メディアの視点との両側面からの調査研究アプローチが必要である。 社会的な視点としては、何がパブリックなメディア利用で、何がプライベートなメディア利用かは、変わってきており、社会的な再構成が必要である。 プライベートなメディア利用としては、親しい人との間の対話が挙げられる。親しい人々との会話では、面と向かって言えないことでも携帯であれば言えるということがある。会話内容には性差があり、若い男性は女性と性的な話をする一方、若い女性は女性友達と性的でない話をし、事実ではなく、話したいときに話すというあり方である。 パブリックなメディア利用としては、大人はオフィシャルなメッセージを回覧する一方で、子どもはみだらな画像やうわさを流したりする。学校での携帯利用については、オフィシャルには禁止されている一方で、実際には大人と生徒の両方が使っていたりする。 メディアの視点としては、欧州の調査では、ほとんどのユーザーにとってはコンテンツが新しい技術を導入するきっかけになっている。モバイルインターネットは、コンテンツをパーソナル化できる、常時接続できるという特徴がある。ただし、モバイルインターネットはパーソナルかつバーチャルなものに終始しているわけではなく、複数の人のコミュニケーションもあり、バーチャルと現実のコミュニケーションも同時進行している。SMSは広く普及しているが、SMSは160文字しか送信できないため、短く書く必要があり、子どもが読み書きを適切にできなくなる恐れがある。 携帯電話のコミュニケーションは、多様なコミュニケーションが可能、楽しみながらのインタラクション、対照的なコミュニケーションと非対称的なコミュニケーションの両方が可能といった点で、固定電話よりもインターネットのコミュニケーションに類似している。 ●子どもとモバイル技術-日本の現状● 講演者:武山政直(元武蔵工業大学、2003年4月1日より慶應義塾大学経済学部助教授) 時間:11:55~12:35 子どもたちが新しいモバイル技術を使ってどのようなことができるかという研究を行っている。 30代の人は従来のメディアに慣れているため、PC、携帯、インターネット、デジカメといった新しいメディアに順応しないといけない。反面、10代の人はすでに新しいメディアがある時代に育っている。 日本では1953年~1972年頃までに幼少期や思春期を過ごした世代はTV世代、~1994年頃まではデジタル世代、ネットと携帯電話の普及が始まった1995年以降はネット世代と言うことができる。 新しい技術がどのように子どもたちに浸透していくかを、マルチメディアキャンプにおいって実際に新しい機器を使ってもらうことで研究している。子どもと親をサマーキャンプに呼び、新しい機器をこちらからは何も指示せずに色々と使ってもらい、新しい教え方・教育方法を探っている。例えば、東京で行ったキャンプでは参加者にPDAを持たせ、テーマに沿った写真を街で撮って送ってもらい、共同のホームページ作りを行った。子供同士で教えあうことで、新しい機器の使い方を習得していくことがわかる。また、沖縄では理想の店作りという課題を与え、物づくり班と資材調達班とがネットで連絡を取り合い、共同で意思決定をするという作業をしてもらった。 新しい技術を使って、古い文化と新しい文化を結びつける試みとして、モバイル俳句というコンテストも行った。携帯電話については子どもが詳しく、俳句についてはお年寄りが詳しい。両者がどのようにコーディネートするかを調査した。 写真付きメールで子どもたちは何を送っているか。自分の顔を写す場合は、感情や自分の状況を伝えている。ネットの掲示板などの「アバター」のように、身の回りのぬいぐるみなどに自分の代わりに発言させる場合もある。自分の視界を写真に取り、今置かれた状況を伝える場合もある。また、ハプニングが起きたときにその状況を写して、相手に感情を伝えるという場合もある。写真付きメールの特徴としては、それが特定の人向けの写真であるため、写真をとることとコミュニケーションが一体化していることが挙げられる。 カメラ付き携帯やビデオ付き携帯では、他人がどのように見ているか、考えているかという他人の視点を伝えることができる。他人の感情や視点を受け入れるようになることが期待できる。 携帯電話を使って遠隔でやり取りすることで、何か問題が生じたときに仲間のスキルを使って解決を図ることができるようになる。 日本の社会では新しい技術が悪用されるケースも見られる。携帯で見られる写真が出会い系サイトにリンクされている場合もある。新しい技術のポジティブな面を把握するためには、ネガティブな側面に注意することが必要だ。 ●携帯文化の構築:社会パフォーマンスとしての若者の携帯電話利用● 講演者:Andre Caron (University of Montreal、カナダ) 時間:12:35~12:40 (Andre Caron氏 が来日できなかったため、Jane Tallimm氏(Media Awareness Network、カナダ)により代理発表がされた。) カナダでの携帯電話利用は欧州や日本よりも遅れているが、キャッチアップしつつある。 Caron氏の研究は若者と技術の間のインターフェースに関するものであり、携帯電話の所有と利用に関する人口統計学的なものではない。例えば、携帯電話におけるエチケットや美学、携帯電話を通じたアイデンティティ形成といったことに関する研究である。同研究はまだ準備段階である。 若者たちは自分の仲間を「取り締まる」のに積極的である。例えば、政治的に不適切な考え方の若者は周りから眉をひそめられる。携帯という新しい技術に対して「必要ない」として採用しないスタンスをとる人もいるが、年が経てばそれらの必要性を認識することが多い。 同研究はいくつかの新しい要素を発見している。例えば「on」テクノロジーである。携帯電話の技術は若者にとって「on」でなければならない。onでなければ、そのことを仲間に対して説明しなければならない。携帯を公共の場でパフォーマンスとして使うことも同様のことである。同研究はまた、若者の携帯電話の利用(会話、メッセージ)をモニターし記録する予定である。 若者は過小評価されてはならない。彼らは自分たちの社会的インタラクションを管理するために技術を使っているのだ。 ●セッションの総括● 司会:Sonia Livingstone (London School of Economics, London、英国) 時間:12:40~13:15 新しいメディアが登場すると、倫理的な問題や課題が生じ、古いメディアの位置づけも変わってくる。ただし、古いメディアに置き換わる訳ではなく、その補完をしている。社会的なコンテキストから生まれた技術によって、社会がどのように変わっていくか、それを促進するかどうかを考えなければならない。社会的なコンテキストには2つの視点があり、パブリックとプライベートであるが、後者において新しい共有の経験が生まれつつある。 Drotner氏の発表では、大人に監視されないように、子どもはパブリックなものからプライベートなものに逃れようとするということであった。携帯電話を持たないことで友達から外されるなど、子どもは新たな課題に直面している。 Jane氏の発表では、携帯電話の文化が社会的な環境や境遇を変えていくということであった。倫理観を変えていったり、新しいコミュニティが誕生したりする。その中で、どのような人々が取り残されてしまうのかに留意しないといけない。 調査研究のコミュニティは子ども中心のアプローチを取っているが、このことは2つの疑問を生じさせる。なぜ、我々は子どもについて話し合うのか。パイオニアとしての子どもたち、すなわち子どもは新しい技術の利用において最先端を走っているという捉え方がある。他方で脆弱者としての子どもという捉え方がある。産業界にとっては、子どもは期待できる新しい市場でもある。我々は調査研究のコンテキストにおいて、どのようにオポチュニティと危険の間のバランスを取ればよいだろうか。 ●質疑応答● 質問:カメラ・ビデオ付き携帯等におけるマイナスの面をどう規制すべきか。マイナス面の懸念や規制について教えてほしい。 武山:カメラ付き携帯では、出会い系サイトに子どもたちの写真を集めて、アクセスさせたりしている。携帯電話会社の自主規制として、アクセス制限をしようという動きになっている。 Nigel:シンガポールで非常に有害なビデオクリッピングがメールで配信されたことがあった。日本ではどうか。 武山:まだビデオ付き携帯はあまり普及していない。カメラ付きについては、出会い系へのアップの問題がある。 質問:モバイルでは子どもたちの創造性がどのような形で発揮されているのか。 武山:モバイルを使った場合の創造性は、Webサイトのコンテンツ作りとは異なっている。それは、デスクトップPCを使ったコンテンツ作りでは事後に良く考えてから発信するのに対し、モバイルでは現場からライブで情報発信を行うからだ。モバイルと固定を結び付けることで新たな創造性も出てくると思う。 質問:携帯電話の普及率には、男女・年齢差のみでなく、社会経済的(貧富)背景もあるのではないか。 武山:そのことについて直接研究しているわけではない。ティーンは沢山話すのでキャリア、メーカーにとって大きなマーケットである。また、高齢化が進めば、おじいちゃんが孫に買ってあげたりすることがある。こうした点で、人口的なものが携帯電話の普及に影響していると思う。 Sonia:英国では、常時接続が普及しつつあり、そのことがデバイドの一つの要因になっている。 Drotner:裕福な人の方が新しい技術の取り入れが早いことも事実だ。デンマークでは、図書館のすべての媒体を市民に平等に提供している。フリーアクセスで紙、ネット、音楽などを提供している。 |
○技術動向から見た将来の利用形態○
●日本の展望● 講演者:永田英昭 (NTTドコモ、日本) 時間:14:45~15:00 ドコモのiモードサービスには、電子メールを含むメールサービス、ドコモのメニューリストに掲載したサイトアクセス、その他のインターネットサイトアクセスがある。ドコモのメニューリストには、トランザクション系(バンキングやトレーディング、チケット予約など)、データベース系(電話帳検索、レストランガイド、料理レシピなど)、情報提供系(ニュース、天気予報、スポーツニュース、株価など)、エンターテーメント系(ネットワークゲーム、キャラクターダウンロード、占いなど)に大別され、生活に便利で楽しいコンテンツを基本としている。 また、子どもにも人気のあるコンテンツとしては、待受け画像、着メロ、ゲーム等を掲載している。 これらドコモのメニューリストは、企画書→打合せ→メニューリストへの掲載という手順を踏んでいる。 ドコモのメニューリストには児童買春、出会い系サイトなどは存在しない。 青少年への健全なモバイルインターネットの提供をキャリアの責務と考えており、こうしたサイトは当初から掲載しなかったからだ。 子どもは親のチェックを嫌がるが、携帯電話は街中等で利用されると親の目が届かないから、なおさら青少年への出会い系サイト対策が必要だ。 出会い系サイトは、女性は無料で男性は会員制というところが多いため、女性だけでなく男性も出会い系サイトによるトラブルに巻き込まれているかもしれない。 公式メニューに登録されたサイトは3400であり、一般サイトは6万程度のサイトがり、一般サイトの一部には危険な出会い系サイトもあると思われる。 そこで、ドコモは契約者又は保護者の申し込みによって、子どもが20歳になるまで、ドコモのメニューリスト以外のサイトにはアクセスできなくする機能を検討している。 i-shotサービスでは、ドコモのi-shotサーバに保存された写真が掲示板的に使用される可能性があるため、一つの画像を最大50回しかアクセスできないように仕組みを変えた。 FOMAでは動画メールの迷惑メール対策として、動画はカットしてテキストだけを送っている。 ●日本の展望● 講演者:安田豊 (KDDI、日本) 時間:14:15~14:45 日本における携帯電話加入者は2003年1月に7390万人であったが、そのうち6020万人が携帯電話インターネットに契約している。うちi-modeが3660万人、EZwebが1200万人、J-SKYが1170万人であった。 携帯電話端末の市場トレンドは、量的な成長から質的な成長へ移っていくだろう。端末におけるトレンドには以下の3つがある。すなわち、家電製品などの(外出先からの)リモコン、家や保育園など特定の場所のリモート監視が1つ。車と人間のナビゲーションを可能にしたりするような位置情報の活用が1つ。個人情報・属性情報を含む財布や定期券の代用品としての利用が1つである。 将来の携帯電話の利用例としては、絵葉書代わりの外国からの写真・動画メールの送信、自動翻訳(テキストベース、音声ベース)を使った外国の友達とのコミュニケーション、GPS携帯電話を使った学級新聞の作成、香り通信、動物との通信などが考えられる。 ●欧州の展望● 講演者:Angus Cormie (O2、英国) 時間:15:00~15:25 O2は英国のネットワークオペレータであり、英国内に1100万人の顧客とその他欧州内に600万人の顧客を持っている。O2は英国では最も多い量のSMSメッセージを扱っており、欧州向けの大きなWAPポータルサイトを持っている。英国内のネットワークを有するほか、オランダ、ドイツ、アイルランド、マン島で3Gのライセンスを持っている。 子どもたちに影響を与える最新のトレンドとしては技術(デバイス)と市場・サービスの2つがある。 英国ではプリペード式の携帯が多く、購入の50%を占めている。プリペード式の携帯はスーパーマーケットなどでも購入可能であり、SMSやインターネット機能が付いている。携帯電話会社はこのような携帯利用者の名前や住所を知ることができない。 歴史的に白黒でテキストベースの技術は、成人向けのコンテンツにとっては可能性が限られたものである。しかし、より機能が豊富な携帯電話が登場しつつあり、WAPやMMSを通じてカラー画像を見ることができる。 ユーザビリティにも改善が見られ、これにより人々は携帯電話経由で容易にインターネットを利用できるようになった。これは、子どもたちにとっても同様である。 SMSの普及と、SMSの双方向性の進化によって、SMSチャットのようなサービスが生じてきている。 パーソナライゼーションが18歳未満の市場においては鍵となる。携帯電話向けの成人アイコンやロゴが世の中にはあふれており、新聞や男性誌で広告されている。 様々なコンテンツを利用できるのみならず、ユーザーが自分でコンテンツを作成しうることもできる。”Create your own WAP page”のサービスはとてもポピュラーである。このサービスによってかなりの数のアダルトサイトが作成されている。 Mopilotなど、モバイルインターネット向けの検索エンジンも利用されている。 英国においては昨年6月に訪問されたサイトの41.2%がアダルトサイトであった。WAPのゲートウェイのトラフィックの約20%はO2以外のアダルトサイトである。 Visiongainはグローバルなポルノ市場について、2006年に700億ドル、そのうち携帯電話経由のものは40億ドルと予想している。 携帯電話会社がターゲットとするコアな顧客層は成人であるが、その市場には子どももある程度かかわりがあるため、携帯電話各社は積極的に児童保護のストラテジーを立てる必要がある。 産業界は社会的弱者を保護することや違法なコンテンツ・活動に対処すること野の必要性を認識してきている。政府や他のステークホルダー(児童保護団体など)は自主規制アプローチに期待している。よって、産業界は業界横断的な規制についてイニシアティブを取る積極的な立場にある。 自主規制がカバーすべき範囲としては以下のものがある。
2003年半ばにはこれらを踏まえた倫理綱領が立ち上げられる予定である。 ●世界的展望● 講演者:Linda Criddle (Microsoft、米国) 時間:15:25~16:00 ホットメールとMSNサービスのユーザーが3億人いる。マイクロソフトは、これらのサービスを携帯電話のプラットフォームに移行しようとしている。マイクロソフトは、児童と青少年を保護するための、携帯電話インターネット向けソリューションの構築にコミットしている。 携帯電話は子どもに安全、情報、娯楽といったオポチュニティを提供するとともに、虐待やストーカー、脅し、いじめなどの否定的な側面も持っている。 リスクとしては、インスタントメッセージ(PtoP)、位置情報、プレゼンス(いる/いない)、ステート(感情)などがある。コンテンツフィルタリングについては、現状HTTP上でのみ行っており、これをWAPに拡大する必要がある。 MSNモバイルでの対策としては、キッズパスポートがあり、米国で導入しているが、近々韓国でも導入する予定である。また、親がホットメールやインスタントメッセージの管理をできるような仕組みを提供している。 計画中の機能として、複数の親(両親)のコントロールが及ぶような機能などがある。また、携帯コンテンツのフィルタリングも検討している。 実世界では子どもたちに知らない人としゃべらない、ドアを開けてはいけないなどと教育しているが、インターネットの世界でも同じだ。業界・学校・家族が教える必要がある。親にはインターネットを理解する責任がある。 ●セッションの総括● 司会:苗村憲司 (慶應大学) 時間:16:00~17:00 安田氏の発表にあったように自動翻訳、香りの伝達、動物との会話など、技術の進歩が速く、エンパワーメントが実現されつつあると感じられる。 「使いやすさ」とは何か、「子どもにとっての使いやすさ」とは何かを考えることが重要である。今の携帯は子どもにとっては使いやすいが、年を取った人にはそうではない。 ソニア氏の発表では、なぜ子どもたちの携帯利用を問題にするのかということは、携帯においては子どもたちがパイオニアであり、かつ子どもが被害を受けやすい弱者であるから、ということであった。子どもを実験台にしてはいけないとうことだ。 日本では電車内で「携帯を使わないで」というアナウンスはあるが、「PCを使わないで」というアナウンスはない。社会的に、携帯はまだ「音声」という認識である。実際、電車内でiモード等は良く使われている。 また、大学ではPC利用は推奨するが、携帯利用は推奨していない。なぜこのような差が生じたのだろうか。 永田氏の話で、ドコモの公式メニューの話があったが、これはPCのインターネットではない考え方だ。ドコモは利用者を拡大するために積極的に公式メニューにサイトを登録していった。携帯電話会社がコンテンツをコントロールする可能性の実例である。 キッズパスポートやフィルタリング/レイティングのように、事業者が自らを規制するセルフコントロールの方法もある。 リンダ氏は、知らない人とは話さないことというルールを挙げたが、それではネットのエンパワーメントが活かされない。子どもにとって携帯電話を使うことは家の前に出ることのみならず、世界に出ることである。 技術でネット利用のリスクをふさいでも、子どもがバイパスしてしまう可能性があるため、親を教育するためのプログラムがもっと必要だ。 国によって法律の違いがあまり生じないようにする必要がある。違法情報については、サイバー犯罪条約で取組みがなされている。有害情報についても取組みが必要だ。日本では出会い系サイトの法律が制定される見込みであり、国際的な対話を積極的に進めていくべきだ。 インターネットのレイティングについては、ICRAが国際的な取組みを進めており、モバイルについても同様な取組みが必要であろう。 ●討論● 質問:固定インターネットと同様、モバイルインターネットでもサイトのレイティングはできるのか。 Angus:携帯電話でもできる。ゲートウェイが色々あり、サーバレベルでフィルタリングできる。 質問:ISP自体にも善し悪しがある。携帯電話会社がISPへの接続可否を決めてはどうか。 永田:公式メニューのサイトは選定しており、それ以外のサイトは優良なものもあれば、不適切なものもある。公式メニューのサイトについてはドコモ側で規制できるが、その他については業界や国などの協力がないとできない。 質問:SIMカードを換えるだけで親の名前で携帯電話が使えてしまう。悪用する恐れがあるため、個人認証が必要ではないか。 Linda:指紋認証などがあるが、悪い子どもはすぐにずるをすることを考える。正しく行動したいという子どもは守るべきだが、それ以外の子どもまでは守ることはできない。ただし、マイクロソフトとしてはどんな子どもにも適用できるような技術を用意していきたい。 質問:KDDIでは学割サービスがあるが、この適用者に対しては親に決定権を与え、ネット利用を基本的に禁止してほしい。成長に合わせて特定のメールアドレスとのやり取りのみを許可できるようにしてほしい。 安田:学割サービスへの規制導入は考えていないが、未成年について親の意思で規制できるような仕組みは検討している。 質問:日本では、10代の被害者は相談相手がおらず、出会い系サイトを相談用に使っているという実情もある。出会い系サイトに代わるものは提供できないだろうか。 苗村:本来の意味での相談サイトが必要だろう。 Nigel:英国ではそういった児童の相談のためのサイトがある。 質問:有害な情報を出させないようにするためにはどうしたらよいか。 Angus:規制の質を高めようとする取組みがなされている。 苗村:有害だが違法ではないものをどう規制したらよいかは難しい。ICRAの取組みは重要である。 Linda:薬物のようなものだ。子どもたちが炭鉱のカナリアにならないようにしないといけない。 永田:通信の自由もあるため、規制しすぎるのではなく、中間の対策がよい。 安田:人を幸せにするような通信の自由は制限したくない。子どもを危険にするからといって、カメラ機能や位置情報などを無くしてしまうのはおしい。技術と、その悪用を避けるための取組みとが車の両輪のように必要である。 |
第二日 2003年 3月 7日(金) |
○イントロダクション○ 講演者:Nigel Williams (Childnet International、英国) 時間:9:00~9:15 ノルウェーのTronde Waage氏が用意した短いビデオを見せた。ノルウェーの子どもたちが携帯電話に関するインタビューに対して答えるものであった。子どもたちの発言は以下のようなものであった。
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○可能性と課題:子どもにどのような肯定的/否定的可能性が提供されるのか○
●キャスターとしての展望● 講演者:Greg Childs (BBC、英国) 時間:9:15~9:45 BBCは8つのデジタルチャンネルを提供しており、インタラクティブTVにおいて主導的な立場にある。BBCオンラインでは通常のWebサイトのみならず、携帯・PDA向けのコンテンツも提供している。子供向けのサイトもある。 従来のマスメディアとしての放送のみならず、コミュニティ向けに、オンライン上の人々のコミュニケーションをサポートするような試みを行っている。人々が単に番組を受け取るだけでなく、自分から発信し参加できるようなインタラクティブなものをサポートしたい。世論を作ったり、メディアを自分で変えることができるような力を与えたい。 放送事業者がなぜ携帯電話に興味を示しているかというと、SMSやMMSを通じて視聴者の意見をすぐに汲み取ることができたり、番組に投票したりといったインタラクティブ性があるからだ。 学校に放送機器を提供したらどうなるだろうか。子どもたちが使いやすいカメラもある。フィルムには子どもたちの視点が強く出ており、放送局は子どもに新たな創造の場を提供することができる。 新しいメディアには魅惑的な将来が待っているが、そこでは子どもをエンパワーメントすると同時にコントロールされる必要がある。我々はたくさんの質問・疑問を持っているが、現状では回答をほとんど持っていない。 ●モバイル技術とヘルプライン● 講演者:Ute Navidi (Childline、英国) 時間:9:45~10:10 Childlineは1986年に設立されたが、当時は固定電話のみのヘルプラインであった。BBCが子どもの性的虐待番組を放映したこともあって、社会的な関心が高まっていた。子どもはこのヘルプラインにどんな内容でも匿名で相談できるが、当時は子どもは家か公衆電話か、学校の公衆電話から電話をかけなければならず相談しにくかった。携帯電話の登場により、この状況は変わっている。 Childlineは、無料、内容自由、24時間対応のヘルプラインであり、毎日2000人の子どもから相談がある。内容は性的・肉体的虐待、いじめ、家庭の問題など様々である。 電話料金の請求書によって、Childlineにかけたことが親にばれるのが恐いとということがないように、電話会社にかけあって、Childlineの名が出ないようにしている。 子どもたちは弱い立場にあるため、身近な人と相談したくない、すなわち客観的な見解を持っている人と相談したいと思う場合がある。 昨年は、1万9000人が自殺関係で、2万人が性的虐待で、8400人がいじめで相談してきた。また、12万人が携帯電話を使って連絡してきた。 携帯電話だと、周りの人に話を聞かれない、公衆電話のように待つことがない、思ったときにすぐにかけられ思い直さなくてよいという利点がある。 ●米国の現状と展望● 講演者:Larry Magid (技術ジャーナリスト/SafeKids.com、米国) 時間:10:10~10:40 米国では、憲法の第1条修正で表現の自由が保障されているが、子どもに対する性的搾取は犯罪であるため、そうした内容のものについては表現の自由が制限されるとされている。ただし、子どもには見せられない内容(有害情報)と、表現の自由との兼ね合いについては議論がある。 性犯罪者の顔写真のWeb公開はOKとされているが、プライバシー保護の面から異議を唱える人もいる。 1993年時点で電話の普及率は95%であった。一方モバイルは他国に比べて普及していなかったが、これから普及すると思う。電話はデジタルの必要性がないため、まだアナログである。 ベライゾンやAT&Tの間でのコンパチビリティがあまりよくない。電話会社を変えるにはSIMカードを変えないといけない。 固定電話との比較では、従来モバイルは従量制であり、夜間割引きなしであったが、現在では様々なプランが出てきて、ハードは無料の場合もある。35ドルの定額制もあり、平均価格が下がっているため、大都市部で51%普及している。子どもたちも使うようになってきている。9・11の同時多発テロ事件も大きな転機となった。 従来は学校で携帯を持つことは、麻薬やチャットを避ける意味で、禁止されることもあったが、現在では万一の場合に携帯で連絡ができるようにと、持ってもよいという方向に変わってきている。例えば、コロンバインの学校の殺人事件では、生徒が携帯で連絡をとっている。 子どもは、電話をかけながら宿題をしたりすることができる。 劇場で携帯を使うと50ドルの罰金を課す場合がある。また運転中に携帯を使うことを禁止する法律もある。 現在ではカメラ付き携帯は1機種のみである。携帯は、画面が小さい、キーボードがないなどのデメリットがあり、また規格もそろっていない。 フィルタリング技術には限界があり、子どもの頭の中のフィルターが唯一の頼れる手段である。このため、しっかりとした教育が必要だ。 ●質疑応答● 質問:Childlineのようなヘルプラインへのニーズは、日本では大変にあると思う。各地でボランティアがこうした相談サイトを始めているが、規模が小さいため24時間265日の対応は不可能だ。まとまった資金が必要だからだ。Childlineでは資金はどのように集めているか。 Ute:90%は民間の寄付や企業スポンサーからの資金であり、10%は政府や信託財団からの補助金である。モバイル業界からも資金援助を受けたいと思っている。相談員としてボランティアの人も集めているが、トレーニングにはお金が必要である。 質問:オーストラリアでは、僻地の携帯電話サービスのカバレージが十分でなく、オンライン教育の機会を均等に与えられない。このような点についてはどうか。 Larry:モバイルはブラウザが小さいため、米国では教育利用はしていない。オンライン教育はモバイルを使わずにPCで十分だと思う。これは、TVがいくら普及しても映画館がなくならないのと同じ論理だ。固定インターネットのインフラを強化した方がよいのではないか。 質問:公共放送で子どもを守るという取組みはあるか。 Greg:素材提供を求めるとプライバシーの問題がある。子どもたちが出演するフィルムを作った場合、何回放映してよいか子どもたちと契約をしている。放送とコミュニティの結びつきについては、特にWebサイトで顕著である。 質問:BBCは業界との関わりがあるか。 Greg:ディズニーとイマジニアリングワークを行っており、リソースをBBC内で共有している。 質問:チャットについてはどうか。英国ではチャットをモニターするためのガイドラインを作ろうとしているが、モニターすべきかそれとも自由に任せるべきか。 Ute:チャットに対して懸念を持っている。子どもたちはチャットが大好きであり、障害をもった子どもも参加することができる。英国の法務省ではモデレーターがチャットをチェックすべきとの議論もある。ただし、すべてのチャットをモニターすることは不可能だ。何らかの技術的な手段と、子どもへの教育が必要だ。 Greg:事前にモデレートすることは難しい。事後にモデレーションを行った方がよいのでは。教育キャンペーンも行っていきたい。 質問:出会い系サイトは、米国や英国でもあるのか。子どもが巻き込まれたりしているか。 Larry:ネットの利用者の20%が出会い系サイトを使っている。10代については問題があまり出ていない。10代の利用者には魅力的でないからだ。利用者が全然違うプロフィールを書く場合もある。ただし、大きな問題は聞いていない。 Ute:児童があえて大人の出会い系サイトにアクセスし、年上の人との出会いを求めた例はある。児童は、大人と電話番号を交換したらどうなるかなど、そうした行動の結果が予想できない。 Nigel:出会い系に当たるものは英国でもある。チャットルームでのフラウディング(詐欺)などが生じている。英国でも法律で対応しようとしている。 |
○可能性と課題:子どもにどのような肯定的/否定的可能性が提供されるのか(続き)○
●出会い系サイトと日本の現状● 講演者:木岡保雅 (警察庁) 時間:11:15~11:55 子どもが携帯電話を使う背景としては、日本では学校が終わった後に9時~10時まで塾通いをすることが珍しくなく、両親は子どもに普通に携帯電話を与えている。出会い系サイトには携帯電話から簡単にアクセスすることができる。 出会い系サイトについては無料のサイトが多く、有料でないため規制をしにくいという実情があった。どのようにして無料で運営していけるのかが疑問であったが、一つは他のサイトを紹介したりすることによる広告収入、もう一つは、実際に出会い系サイトを利用させることによって、個人情報(メールアドレス等)を集めて他の業者に販売するという方法をとっているようだ。 平成13年度に「インターネット上の少年に有害なコンテンツ対策研究会」において行われたアンケート調査結果によると、出会い系サイトにアクセスしたことのある高校生は女子が22%、男子が18.4%であり、そのうち知り合った人と会ったことのある人は女子で43.2%、男子で27.8%であった。 出会い系サイト関連の犯罪では、平成14年上半期に検挙した事件の分析によると、18歳未満の児童が被害者になっている場合が多く、全体の86%である。 事件化したもののうち、児童(女子)からの誘いかけで始まるのが94%である。これは、女子児童がメッセージを載せると多くの反応が返ってくるという実情を反映している。 出会い系サイト関連の犯罪では、携帯電話を使ったものが大半である。 警察庁の法律案では、出会い系サイトに対し、利用者に年齢を自己申告させ、18歳以上でないと入室できないようにすることを求めている。 質問:プロバイダの責任はどうなるか。業者が女性児童からの書き込みを装う「さくら」についてはどうか。 木岡:プロバイダの制限については、プロバイダの規模による区別が難しいため、年齢認証を義務付けることにしている。書き込みの管理まで義務付けることは難しい。また、「さくら」の実態は必ずしもはっきりとしていないが、「さくら」も利用者である限り同様の扱いとなる。 質問:ドイツでは、アダルトサイトが年齢認証を行っており、国民番号を使って認証している。 木岡:本人認証の確実なシステムを待っていては、今ある問題に対処できないので、出会い系サイトに対して年齢認証を求める方策をとることにした。 Nigel:学割サービスなど、通信企業の持つ年齢情報を使って出会い系サイトを制限するのはどうか。 木岡:日本では子どもが使っていても、親の名義で購買している場合がかなり多い。 ●現在と将来の安全への課題● 講演者:John Carr (NCH、英国) 時間:11:55~12:15 NCHは1869年に設立された、家族と子どもむけのサービスを提供する英国最大のサービス提供者である。 子どもたちのサポートや教育を行っている。子どもたちはコンピュータに詳しい反面、人生経験は少ない。そのあたりのサポートをすることがNCHのような機関の役割である。 今後、モバイルは帯域幅やメモリーなどが増大し、子どもたちにとってPCをデスクトップのみで使うという世界ではなくなってくるだろう。 1995年-96年の頃はインターネット業界の人々に理解してもらうことが難しく、なかなか会ってもらえなかった。最近では3Gの人など、我々に会いたがっている。 英国では携帯によるいじめが問題になっている。いじめの問題では、子どもたちが自分が被害者であると感じたかどうかが問題である。 女子生徒が自殺し、遺書の中で、自分が受信したテキストメッセージによって死ぬということが書かれていた。英国政府はこの問題に6ヶ月で対応し、教育省が教育機関への書簡の中で、学校の規律で携帯でのいじめに対応してほしいという要請を行った。他方、携帯電話会社の反応はあまり良くなく、いじめと証明できれば代わりのSIMカードを提供するという対策をとっている。 携帯によるいじめに対応する法律としては、アンチ-ストーキング法と悪意ある通信法がある。 ●携帯電話と若者と消費者保護● 講演者:Dennis Nelthorpe (消費者連盟、オーストラリア) 時間:12:15~12:35 1999年の報告書では、オーストラリアにおいて、16歳~19歳の33%が携帯電話を所有しており、25%が支払いが困難なことがあり、9%がプリペイドカードで携帯を利用しており、18%が契約書を読んでおらず、7%が契約書を読んだが理解できず、17%が支払いの困難さに関連した不安を持っているという調査結果が挙げられている。 事例としては、以下のようなものがある。79歳の祖父が孫の保証人としてサインしてしまい、1500ドル以上の支払いを要求された。また、18歳の知的障害者が16歳の友人の保証人として契約してしまい、1800ドルの支払いを要求された。 これらの問題の結果として、使いすぎた児童が孤立したり、のけ者になったりする場合がある。業界による対応はほとんどない状況である。 契約の際に、どのくらい使うといくらか、解約にいくらかかるかというコストが利用者に分かりにくい問題がある。 プリペイドカードの携帯であっても、SMSについては後ほど請求書を送るためプリペイド分以上に請求が発生する場合があった。 SIMカードのアンロックに60ドルもの料金を請求する場合があった。 携帯電話業界は今までのシェア争いの時代から、業界が消費者やコミュニティのために活動する時代に入っている。業界で倫理的基準を作成するべきだ。 ●セッションの総括● 講演者:Tronde Waage (子どもオンブスマン、ノルウェー) 時間:12:35~13:00 子どもたちがカメラ付き携帯を持っており、太った生徒の写真が全校生徒に配信されたようなケースがある。保護者からは携帯電話利用を禁止して欲しいという意見が出た。結局、学校で行動規範を作成することで落ち着いた。 ノルウェーの350人の高校生にアンケートを行ったら、90%がアルバイトを行っていた。一日3時間以上行う人も20%いた。 自主規制はリーダーシップの問題だ。また、親の参加や親の学習も必要だ。 ●討論 質問:オンラインでの年齢認証があるが、これは18歳未満の脆弱性が前提となっている。ただし、ネットで生じる問題は多かれ少なかれ全ての人に当てはまるのではないか。 John:18歳未満でないと児童とみなされないが、18歳の時点でスムーズに移行できるわけではない。 質問:携帯電話をすぐに解約できないことは問題だ。 Dennis:これは競争上の問題であり、企業としてはまずお客に買ってもらい、買った後はお客を逃がさないようにすることが必要だ。2年間解約できないような契約は、反競争的な慣行とも言える。ハードを無料で配っても2~3年後には通話料で回収することができる。無料を真に受けてはいけないと利用者向けに啓発が必要だ。 質問:インターネットや携帯により、いじめの危険が高まっているか。 John:新しい技術により、児童ポルノの画像は増えている。 |
○規制と自主規制について:可能な対策は何か、行政の視点からどのようにアプローチするか○
セッションの開始に先立って、ナイジェル氏より、本会議に対する参加者のレスポンスを求めるために黄色とピンクの2色のポストイットが配布された。黄色のポストイットには "What is the main action point YOU will want to take as a result of this meeting?" に対する回答、ピンクのポストイットには "What is the most important issue youfeel needs attention?" に対する回答を記すこととした。 ●モバイルコンテンツの格付けとフィルタリングの可能性● 講演者:国分明男 (財団法人インターネット協会) 時間:13:45~14:20 表現の自由を重視している。しかし、インターネットは国際的なものであるため、日本で違法な情報が米国サイトなどで掲示されており、そういった情報が学校の教室で見れてしまうのは問題だ。海外サイトには日本の司法は及ばない。 フィルタリングは表現の自由と、規制とのバランスを取る上で重要である。 コンテンツ作成者の意図(インテンション)が何かということを、テキストから自動で取り出すことは現在のソフトウェア技術では難しい。 出会い系サイトでは、「有害」な単語が少ないため、テキストの字面だけではなかなか意味を理解することが難しい。文脈の理解が必要である。このため、現在の技術ではコンテンツに対するラベルが必要である。 日本では2Gの携帯電話にはSIMカードが入っていない。3Gでは個人認証のためにUIMカード(SIMカードの高度版)が導入されている。日立、東芝、松下が主導して、MOPASS(Mobile Passport)仕様のメモリーカード(スマートカードつきのメモリーカード)の実証プロジェクトが2002年8月に開始された。 UIMカードの中に利用者の基本情報として年齢を加えることで、年齢認証による入場制限などの広がりができるのではないか。 携帯電話で利用できる個人認証技術としては、バイオメトリクス(日本では、指紋認証は社会的・心理的に抵抗がある。カメラ付き携帯で自分の顔を写すことができる。)、スマートカード、PKIの3つが挙げられる。 ●コンタクト、コンテンツ、およびコスト● 講演者:George Kidd (ICSTIS、英国) 時間:14:20~14:45 ICSTISでは、モバイルの料金請求とコンテンツの問題について扱っている。 若者向けの市場としては、着メロやコンテスト、ゲームなどがある。 SMSの着信払いサービスを使って、4000万人に対してスパムメッセージを発信して問題になった例がある。 子どもたちにどこまで警告するか、子どもたちにふさわしくないアプリは何かを、行動規範で定めるべき。 チャットの着信払いについては子どもについては許可していない。 消費者向けのメディアリテラシーについては、以下の点に留意すべきである。
●ヨーロッパの現状● 講演者:Richard Swetenham (欧州評議会) 時間:14:45~15:00 EUは法律的な権限を持っている。物/サービスの自由な移動を奨励している。また、未成年を保護するためのルールを策定しようとしている。 法律的なアプローチとしては、Television without Frontiers Directiveというものがあり、これは、TVのみをカバーするものである。2003年までにレビューを行うことになっている。放送局に対し、有害コンテンツから未成年を保護することの保証の義務を課し、このような放送局に対して国境を越えたTVプログラムの許可を行っている。 最近の法律としては、EC指令があり、プロバイダの責任を明確化している。また、Framework Decision on Child Pornographyの提案がなされている。 非法律的なアプローチとしては、予算的な措置がある。Safer Internet Action Planがあり、これは1999年から2002年の間に総額2500万ユーロの助成金を拠出している。この行動計画の結果、欧州の14ヶ国のホットラインがサポートを受け、レイティング/フィルタリング関連の13のプロジェクト(ICRAやSIFTを含む)が支援を受け、また普及啓発関連の12のプロジェクトが走っている。同行動計画の第2フェーズとして2003年から2004年にかけて総額1330万ユーロの助成金が拠出されている。これは、新技術に対応しながら、児童保護により焦点を当てた行動計画である。児童の新技術利用の調査研究、フィルタリングソフトのベンチマーキングなどが含まれ、また国レベルのノードを設けたりしている。 可能なアプローチとしては、問題のアセスメント、メンバー国の規制アプローチの比較、プラットフォームの提供、ベストプラクティスの交換などがある。 ●セッションの総括● 講演者:Bernard Tan (インターネット諮問委員会、シンガポール) 時間:15:00~15:10 全世界レベルでの規制が必要であるが、規制はあまり多すぎてはいけない。業界がもっとリーダーシップを発揮できてもよい。政府は技術の規制には追いついていないため、政府には業界の取組みをバックアップすることが求められる。ラベリングは国際的、ジェネラルなものでないといけない。 ●質疑応答● 意見:本ワークショップでは会議中に携帯電話が一度もならなかったが、そうしたしきたりや場所が必要だと思う。 George:電源をOFFにすることが、最良のフィルタリング手段だ。 意見:英国では法務省、内務省、通商産業省など、コンテンツそのものは規制したくないというのが政府の統一見解だ。国際協力をとるためには国際的なスポークスマンが必要ではないか。標準作りや普及啓発のためには各国で行うとともに、国際的な強調が必要だ。 Richard:国際情報サミットが予定されている。本分野については未定であり、検討中である。 国分:技術はIETFなどで標準作りをしたり、民間の競争でデファクト標準が決まったりしている。日本のメディアリテラシーの状況については、子どもはもともと高い。また、ADSLは300万ユーザーに拡大しており、PtoPのゲーム利用が多くなってきている。 George:ロシアのサイトでレイプサイトがあったりする。国際機関は接続を遮断することができないが、我々の機関はできる。 Bernard:ICRAはいいアプローチだと思う。 質問:技術が出ると法律を考える、すなわち、新しい法律をそのたびに作るという状況が続いている。社会制度をデバイスで切り分けるのではなく、全体的アプローチをどう考えるか。子どもを中心に考えることが必要ではないか。毎回毎回、あらゆる技術に合わせてそれぞれの法律を作る必要はない。 |
●まとめ● 参加者からの意見(ポストイットに記入して頂きました)概要 Sonia:黄色いポストイットのうち、英語で書かれたものについては以下の3つにまとめられる。
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●参加者からの意見一覧●
問1:今回のミーティングを受けて、あなたが最も取りたいと思うアクションは何か?
問2:注意を喚起すべき最も重要な問題は何か?
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