「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

③親子ルール作り部門

silver優秀 「ピンチをチャンスに」  京都府 菅原 邦美


それは9年前の夏の夕暮れ時のこと…台所で夕飯の支度をしていた私のところにドドド!と凄まじい音を立てて息子が走りこんできた。目は真っ赤、口はパクパク、震える手に握られていたのはピカピカの携帯電話だった。当時息子は13歳、中学入学と同時に携帯電話を使いだしたのだ。

「どうしよう、変なメールが来た。お金払えって…。」

慌てて見てみると、見知らぬサイトからの3万円余の使用代金請求の脅しにも似た文言が画面を埋め尽くしていた。「期日までにお支払のない場合は法的措置をとる」、「このメールが最終通告。」などと書かれ、今日が支払期日で、提示されたアドレスと電話番号に連絡せよとある。

「ここにメールしたほうがええのかな…」

息子が涙声でぼそっと言う。体だけは大きいが13歳の子供である。私はまず、そのサイトを見ていないことを息子に確認した。こんな類のメールは無視すると聞いたことをボヤっと思い出したものの、実際の画面を前に私は動揺した。早くどこかに相談しなければ、と急いで電話帳で調べた某相談窓口に電話すると、年配女性らしき相談員は慣れた口調でこう言った。

「息子さん、いやらしいサイト見たんですね。だからそんな請求が来るんです。」

息子が見もしないサイトからの請求メールはどうしたらいいのか?と必死に問う私に相談員は、「絶対見ています。親には嘘をついています。」と繰り返すばかり。脱力して電話を切ったその時、机の上の情報誌の端に書かれていた電話番号が目に留まった。「ここだ!ここに電話しよう!」まさに天啓だった。ぱっと光が射し込んだような気がした。

今度は息子自身が、自分のことだから電話したい…と言った。電話はすぐ繋がり、話すうちに息子の涙は渇き、背筋は伸び、「ありがとうございました!」と大声で電話機に最敬礼をして相談は終わった。

別人のように晴々として息子が言うには、

・心当たりのない相手からのメール、着信は無視。送信不要のボタンも押さない。
・自分の個人情報は絶対に相手に知らせない。しつこいメールが心配ならアドレス、電話番号などを変更する。

…と答えてくださったそうだ。

不正請求メールは適当にアドレスを操作し膨大な数が送信されている。こちらが返信して個人情報を知らせてしまったら相手の思う壺!である。不安で堪らず返信し、お金を払ってしまったという人も多い。請求額は、子供であればお年玉貯金、大人であればヘソクリで払えそうな金額だったりする。きちんと解決策を教わり、二人で胸を撫で下ろした。

この日から4年後、私は京都市教育委員会の研修を受け携帯電話市民インストラクターとして保護者や地域の人たちに啓発講座を、またそのご縁で今春から京都府警のネット安心アドバイザーとして高校生対象に活動をさせていただいている。インターネットを使わずに社会生活を送ることは難しい今日、使うならば何にどう注意し、親は子どもたちをネットの被害者にも加害者にもしないためにどう見守っていくか…今こそ社会の底力が問われていると痛感している。

正しい知識は自分や自分の大切な人を守る力・武器となる。講座では、参加者同士でルール作りなどを話し合ってもらい、悩んだら専門機関に相談することが大切である!と、息子の経験談を話すとともにあの時電話した番号を大きく印刷した紙を配布している。その番号とは、京都府警本部の番号である。

あの日相談の最後にこんな会話があった。

府警の係員の、「誰からこの番号を聞いたの?」の問いに息子が、「母に相談したら教えてくれた。」と答えたところ、係員は「おうちの人に相談して良かった。これからも困ったらおうちの人に相談したり、ここに電話したらいいよ。」と優しく仰ったそうだ。

この言葉に私は胸が熱くなった。親と一緒に悩み解決できたことが貴重な経験であると息子は気づいたのだから。

親として子どものサインに気づき、聴き、共に学び考える…そこから自分たちのルールができる。トラブルが起きた時こそ親力発揮。大切な子どもを守れるのは親なんだ!と伝える私の活動の原点はここにある。


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