「インターネットの安心安全な利用に役立つ手記コンクール」
受賞作品

①使いこなし部門

silver.優秀 ネットの父ちゃん  埼玉県 ざきじゅん

はじめから障害児の親になりたい人なんていないだろう。
その日僕は産婦人科の待合室で妻と泣いた。
妊娠11週のエコー検査で、医師からダウン症の可能性を告げられた。
やっと長男にきょうだいができると思ったのに。甘ったれでどうしようもないひとり息子に。僕だって、一家の大黒柱として身が引き締まる思いだった。今度こそ育休を取ろう。小遣いカットだって受けて立つ。そう意気込んでいた。そんな矢先の宣告だった。

「ごめんね、わたしのせいで」
必死で振り絞るように妻が言った。妻が喋ったのはこの日これだけだった。こんなとき「なに言ってんだよ。俺らの子だろ。大事に育てよう」とでも言えたらよかった。僕は父親失格だった。だって妻より大きな声で泣いていたから。

帰宅するなり、インターネットで「ダウン症」と検索した。寿命、就職、老後など出てくる情報はネガティブなものばかりだった。僕はパソコンの前を離れなかった。正確には離れられなかった。生むにしろ、生まないにしろ、その答えをネットで探していた。
自分で答えを出せないからだ。誰かに「こっちの方がいい」と言われるまで安心できなかった。こうして来る日も来る日も検索魔になった。

妻もまたそうだった。ふたりしてノイローゼ気味になった。食卓には二、三日前の食べ残しがそのまま置いてあった。食欲もなければ、家事をする気力さえなくなっていた。誰かに相談するのも気が引けた。だからインターネットしかなかった。このとき息子には本当に悪いことをした。つらそうな両親の顔なんて子どもには悪影響でしかない。

そんなとき、たまたまダウン症児の父親のブログを見つけた。非常にめずらしかった。僕は最初から読み出した。すると告知を受けたときの衝撃、そして困惑、さらにネット検索など、いまの僕と全く同じ状況だったことがわかった。思わずコメント欄にメッセージを書いた。これまでの経緯、そして不安。その数日後返事が来ていた。その言葉はいまも忘れない。

「コメントありがとうございます。僕も頼りにされてうれしいです。いまはつらい時ですがきっと大丈夫。毎日割と楽しいですよ。だから不安を見つけるのはやめましょう」不思議なことにふっと落ち着いた。さらに「ネットは武器にも凶器にもなります。カミソリと同じ。いい男にも見せてくれますけど、たまに顎を切ったりしますよね。要は使い方次第です」僕はパソコンを閉じた。それから妻のもとへ向かった。妻と話がしたくなった。お腹に呼びかけてみようか。くすぐってみようか。そんなことを考えた。だって暗い未来を考えるより、楽しい1日を積み重ねていく先に未来があると思ったから。ネットの「父ちゃん」がそう僕の背中を押してくれたんだ。

結果発表ページに戻る


ホームページに戻る
Copyright (C) Internet Association Japan