インターネット有害情報対策セミナー(その2)
「少年と大人にも有害なインターネットの現状と対策」

 インターネット上の有害情報の相談事例(出会い系サイト、モデルタレント募集、自殺、薬物など)を紹介し、一方で、、プロバイダ等が情報を放置した場合や削除した場合の法的責任を中心とする問題について、実情に詳しい専門家より実例を中心にお話いただき、さらにフィルタリング等の対策の必要性について検討いたします。

 今回のセミナーは2回シリーズの2回目で、1回目(2月28日)は、こちらです。


 
日時:2006年3月29日(水)13時30分~16時30分
会場:東海大学校友会館 望星の間   地図はこちらから
      東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビル33F TEL : 03-3581-6041
主催:財団法人インターネット協会
協力:インターネットホットライン連絡協議会
経済産業省委託事業
プログラム:
13:00 ~ 受付開始
13:30 ~ 14:30 講師:WEB110代表:吉川誠司 氏
URL:http://web110.com/
講演タイトル「インターネット上にはびこる有害情報の現状」

【プロフィール】
1963年生まれ、WEB110代表/名犬ヨッシー。オンラインでの相談業務を行うほか、執筆、講演などを行う。財団法人インターネット協会評議員、警察庁総合セキュリティ対策会議、総務省違法・有害情報研究会、内閣官房セキュリティ文化委員会などの委員を兼任
(講演資料 PDF:1.78MB)

【講演内容】
 吉川氏は、まず「有害情報の範囲」をどう捉えるか、2つの考え方を示した。一つは、明らかに違法であるものを除いては、情報の受け手が見るか見ないかを決めればよいとする、表現の自由尊重・自己責任の原則に立つ考え方である。もう一つは、犯罪防止と被害拡大防止の観点から、情報そのものが違法・有害でなくとも、それらの情報が個人の人権を侵害していたり犯罪に悪用される危険性が高い場合は、送信を防止すべきとする考え方である。紹介された事例も、どちらの考えに立つかで、捉え方が変わってくる。

違法情報と有害情報
 「違法情報」の類型として、①児童ポルノや出会い系サイトなどの「わいせつ情報」、②規制薬物の「薬物関連情報」、③口座売買等の「振り込め詐欺関連情報」の3項目をあげた。また、違法ではないが公序良俗に反する「有害情報」の類型として、①違法行為を直接的かつ明示的に請負・仲介する情報、②違法である疑いが相当程度認められる情報、③人を自殺に勧誘する情報の3項目をあげ、もう1つ「人の尊厳を著しく害する情報」も含みうるとした。

モデル募集、実態は児童ポルノ
 違法情報の実例として、神奈川県警などが2005年に摘発した児童ポルノ製造販売事件をあげた。モデル募集サイトに、報酬5~10万円を提示して「モデル募集」をかけ、18歳未満の少女100人以上を集め、実際は児童ポルノに出演させていた事件である。犯人の男は、少女に淫行や暴行をくわえる様子を撮影してビデオで販売。この画像はネット上にも流出したため、少女たちの被害画像は今も“回収不能”の状態にある。犯人の男は児童買春・児童ポルノ禁止法違反などで逮捕・起訴され、公判中である。

殺人請負サイト、実態は詐欺
 有害情報の例としては、殺人請負サイト、レイプや掲示板荒らし依頼、復讐や呪い代行、他人名義カードの販売、自殺仲間募集、モデルガンの改造方法など危険物の作成法やハッキングツールの紹介、グロ画像や盗撮画像掲載サイトなど多数の例を紹介した。殺人請負サイトは、消防士の女が不倫相手の妻の殺害を依頼した事件で知られるようになったが、依頼を受けた探偵業の男は、請け負うつもりがないのに金を騙し取ったとして詐欺罪で実刑判決を受けている。執行猶予付であったためにすでに釈放され、逮捕前と同様の殺人請負サイトを開設していることが判明している。開設自体は違法ではないため、規制はできないという。

奈良県条例、「ネットの中傷」も補導対象に
 吉川氏は参考情報として、奈良県議会で3月24日に採決された「奈良県少年補導条例」と、iモードのフィルタリングについて紹介した。奈良県の同条例では、出会い系サイトの利用や有害サイト閲覧、他人を中傷する情報の書き込みなどは、飲酒や喫煙と同様「不良行為」と定義。少年の補導に法的根拠を与える全国初の条例となる。奈良弁護士会は、非行防止は重要としながらも、法制化による警察権限の拡大は「適切な手段とはいえない」と反対を表明しているという。
14:30 ~ 14:40 休憩
14:40 ~ 15:40 講師:英知法律事務所弁護士 森亮二 氏
講演タイトル「違法・有害情報を媒介したプロバイダ・掲示板管理者等の法的責任」

【プロフィール】
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部・ペンシルバニア大学ロースクール卒業、米国NY州司法試験合格。専門分野は、IT・インターネットに関する法律、金融法、国際取引法。著作は、「インターネット上の誹謗中傷と責任」(共著 商事法務 05年)「サイバー法判例解説」(共著 商事法務 03年)、「金融機関のための個人情報保護コース」(共著 経済法令研究会 04年)、「パワードコム事件評釈」NBL771号、「プロバイダ責任制限法-近時の裁判例と問題点-」コピライト525号など。2003年より経済産業省「電子商取引等に関する準則」の改訂版執筆を担当。2004年より情報通信ジャーナルに「サイバースペース法律相談」を連載中。
(講演資料 PDF:298KB)

【講演内容】
 森氏は、有害情報を「違法情報(民事/刑事)」と「違法ではないが有害な情報」に分け、それぞれ放置した場合と削除した場合、どのようなリスクが発生するかについて、多くの判例を参照しながら検証した。

違法情報(民事)で想定される法的責任
 まず典型例として、プロバイダのホスティングサービスの会員が自分のウェブサイトに個人を中傷する虚偽の情報をアップロードした場合と、個人が管理する掲示板に何者かが同様の書き込みをした場合、どのような法的責任が発生するかを押さえた。放置した場合は、中傷を受けた被害者に対して違法情報を発信・拡散したことに基づく不法行為責任。削除した場合は、発信者に対して表現の自由の侵害等に基づく不法行為責任、さらにホスティングプロバイダの場合は、ホスティングサービス契約に基づく債務不履行責任も問われる。

違法情報(民事):放置のリスク
 森氏は、違法情報(民事)を放置した場合、判例比較で2つの基準が認められるとした。1つは「責任を広汎に認める基準」で、2ちゃんねるの書き込みで誹謗中傷を受けたとする「動物病院事件」「DHC事件」、匿名掲示板で誹謗中傷を受けたとする「MILKCAFE事件」の判例が示すように、違法な情報を知り、または知りえた場合は直ちに削除する義務があるとするもの。もう1つは「責任を制限的に認める基準」で、大学のウェブホスティングで誹謗中傷を受けたとする「都立大事件」、2ちゃんねるで著作権侵害を受けたとする「小学館事件」の判例に見るように、「プロバイダが発信者である場合、または違法性・権利侵害等が一見して極めて明白でない限り」、削除する義務を負わないとするものである。

違法情報(民事):削除のリスク
 削除した場合のリスクとして、上記の通り「表現の自由の侵害」「債務不履行責任」が想定されるが、そこまでの裁判例は「ない」という。森氏は、なぜ事件にならないかを、匿名掲示板の情報発信者には適法性の自信がないことや、掲示板の「パブリック・フォーラム」性が弱いことなど多面的に考察。「迷ったら削除」が安全と結論した。

違法情報(刑事):責任発生の条件とは
 刑事事件の判例としては、わいせつ画像の投稿を目的としたパソコン通信・アルファネットの運営者が「わいせつ物公然陳列罪」に問われた「アルファネット事件」、海外の某市における児童買春情報を紹介する目的でサイトを開設した男の「児童ポルノ公然陳列罪」の成否を問う「児童買春情報サイト事件」を紹介。刑事責任を認めた判決はすべて違法情報への積極的関与が認定される場合であることを示した。プロバイダはホスティングの義務がない掲示板では削除が安全であり、ホスティングの義務がある場合も削除のほうがリスクが小さいとした。

 森氏はこのほか「違法な行為・結果につながる有害情報」「規約に違反する有害情報」についても、放置リスクと削除リスクについて考察を進め、プロバイダ・掲示板管理者としての安全な対応法を提案した。
15:40 ~ 16:20 質疑応答(16:30 終了)

参加費 :無料
定 員 :120名

ご参考:過去3年間の関連セミナー
2006年インターネット有害情報対策セミナー(その1) 「少年と大人にも有害なインターネットの現状と対策」
2005年「今、インターネット上に氾濫する有害情報はどうなっている?」
2004年「インターネットにおける個人情報保護と人権」
2003年「誹謗・中傷、プライバシー侵害などのインターネット上の人権問題とそれらへの対策」

お問い合わせ先:ご不明な点がございましたらadd宛にお願いいたします
           またはお電話でも結構です(03-3500-3255 担当 大久保、山本)。

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