本ガイドは国際エクパット(ECPAT International http://www.ecpat.net/)発行による、Protecting Children Online:An ecpat Guideの日本語版(初版2002年2月発行)を改訂、編集した第3版です。 (英語原版については初版が2000年7月、第2版が2002年5月に発行されました)。 |
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原版編集・調査 | Carol Livingston | |
協 力 | Riita Koskela(原文執筆),John Carr,Muireann O Briain,Mark Hecht,Denise Ritchie,Agnes Fournier de St. Maur(以上、技術的助言・寄稿) | |
イラスト | Katarina Dragoslavic | |
原版第2版編集 | Sarah Kay | |
Copyright | ECPAT International, 2000,2002 | |
日本語版監修 | ECPAT/ストップ子ども買春の会 〒169-0073 東京都新宿区百人町2-23-25 Tel:03-5338-3226 Fax:03-5338-3227 ホームページ:http://www.ecpatstop.org/ | |
翻訳・編集 | 宇佐美昌伸 | |
編集協力 | 財団法人インターネット協会 | |
制 作 | 株式会社東京創文社 | |
発 行 | 第3版 2004年6月 (初版発行 2002年2月) |
本ガイドへのリンク及び転載・引用・利用については、公序良俗に反する目的・内容でない限り、以下の条件にて、自由にリンク・転載・引用・利用、していただいて結構です。
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インターネットをはじめとする新しい技術は驚くべき速さでコミュニケーションの方法を変えています。数年前は高価だったコンピュータも今では安く買えるようになり、以前は大企業にしか使えなかったコミュニケーション手段が簡単に利用できるようになりました。電子メールが使えて、スキャナ(画像読み取り装置)があれば、だれでも友だちや家族に写真を送ることができます。デジタルカメラを持っていればパソコンに画像を取り込んでメールできますし、カメラ付き携帯電話ならもっと簡単です。2つの写真を1つにしたり、画像を改変(モーフィング)したりして、まったく違う現実を作り出すことも可能です。チャット(インターネット上のおしゃべり)などを利用すれば世界中に新しい友だちを作ったり、旧交を温めたりすることができます。簡単に手に入るテレビ会議ソフトを使えば、世界中から参加者を集めて生中継の会議やライブ「ショー」を開催できます。
新しい技術は革新的で驚くべきものではありますが、技術は単なる道具に過ぎません。新しい技術はコミュニケーションを便利にし、多くの人々の生活をより良いものにしていますが、残念ながら、子どもを食い物にする者にも利用されています。インターネットは子どもに対する新しいタイプの犯罪を生み出しているわけではありませんが、昔からあった犯罪を楽にあるいは新しい方法で行うことを可能にしています。インターネットは簡単に子どもと接触できる場であり、現実の世界と比べて警察に見つかる可能性もはるかに低いのです。
日本では、1999年に「子ども買春・子どもポルノ禁止法」ができましたが、2003年にこの法律の下で検挙された事件のうち、インターネットを利用した事件の数は893件となっています(出会い系サイトを利用した子ども買春791件、インターネットを利用した子どもポルノ102件)。これらを含め「出会い系サイト」に関係した事件では2003年1年間で1,278人もの子どもが被害にあっています。
本ガイドでは、インターネットなどの新しい技術がどんなもので、どこに危険があるのか、そして安全にインターネットを使うにはどうすればいいのかを説明します。第1部では、インターネットの基礎知識から子ども自身が身を守る方法まで、分かりやすく解説しています。第2部では、親や教師など大人に何ができるかを中心に説明し、インターネット上の安全についてより詳しく知りたい人に役立つ情報が盛り込まれています。第3部は、法律的な問題についての説明で、少々難しくなりますが、より深く考えてみたいという人はぜひお読みください。
用語集
「子どもの商業的性的搾取」とは、大人が子どもを性的に虐待し、その見返りとして子どもや別の人にお金などを提供することを言います。具体的には子ども買春、子どもポルノ、このような性的な目的で行われる子どもの人身売買を指します。子ども買春をするために他の国や地域に出かけることを「子ども買春観光」と言います。また、直接子どもを買ったり食い物にしたりする者やその間に入る業者などのことを「性的搾取者」と呼びます。子ども買春をしたり、子どもポルノを集めたりする者の中には、人数は多くありませんが、子どもだけに性的関心を向ける「ペドファイル」(小児性愛者)がいます。 |
インターネットは世界規模に広がったコンピュータのネットワークです。送り手と受け手のコンピュータ同士が直接つながっていなくても、インターネットに接続すれば目的の場所に情報を送ることができます。
インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)は、インターネットに接続するサービスを提供する会社や団体です。個人でインターネットを利用する場合には、プロバイダに加入して、コンピュータをインターネットに接続します。自分のウェブサイトを開きたい場合には、プロバイダからインターネット上の住所(アドレス)を提供してもらいます。電子メール・アドレスもプロバイダから与えられます。
オーキッド・クラブ 国際的な子どもポルノ・リング(同盟)である「オーキッド・クラブ」は、1996年、アメリカ・カリフォルニア州サンノゼ警察の手によって解体されました。このクラブには遠くはフィンランド、オーストラリア、イギリス、そしてカナダといった国の人間が加わっていました。この事件は、虐待されている子どもの画像がテレビ会議ソフトを利用して生中継で伝えられていたものとしては初めて起訴された事件です。このクラブに所属する男性、少なくとも11人がインターネットを通じて幼い女の子が虐待されているのを見ると同時に、彼女を虐待していた男性にさまざまなポーズや虐待行為を注文していました。 |
インターネットを使えば、遠く離れた人との間でも簡単に、速く、安くコミュニケーションができます。「コンピュータが普及する以前は、子どもポルノ提供者は郵便や地下の流通ネットワークを利用していました。ポルノを取引したり、交換したりするためには、消費者と提供者はお互いを知っている必要がありました。しかし、インターネットによって、子どもポルノはだれもが簡単に見たり取得したりできるようになりました。子どもポルノは一瞬にして目の前に現われるのです」。
子どもポルノを探す者は、インターネットで瞬間的に満足を得られます。新しい写真が郵便で届くのを待つ必要はなく、その場で取り込むこと(ダウンロード)ができます。子どもと会おうとする者はチャットルームで網を張り、子どもの信用を得るために自分も子どものふりをします。また、インターネットは虐待者が地球規模で魔の手を伸ばすことも容易にしています。ある事件では、モスクワに置かれたサーバから子どもポルノ画像5万点が発見されましたが、指示はアメリカから出されていました。
子ども搾取者はインターネットを使って自らの信念を確かめています。彼らは同じ価値観を持つ人間をネット上で見つけることで、自分が何も悪いことをしていないという信念を強め、合理化し、正当化します。また、彼らは仲間を見つけて情報を交換したり、「ネットワーク」に引き込んだりしようとしています。
インターネット上では子ども買春観光の宣伝も地球規模で行われています。性的虐待が簡単にできそうな国についての情報が広められているのです。エクパットと、中米でストリート・チルドレンのための活動をしている非営利団体の「誓約の家」(カーサ・アリアンツァ)が2001年に調査を行ったところ、コスタリカを「買春観光目的地」として直接宣伝するものだけで40ものページが見つかりました。これらのページでは、観光客の話として、最適なホテル、買春相手を見つける場所、買春料金の「相場」があからさまに示されていました。
www.latinchat.comというウェブサイトに対する調査ではもっと不快な結果が出ました。このサイトではありとあらゆる子どもポルノを自由に入手できることが分かったのです。また、メキシコ人の13歳の男の子のふりをしてチャットルームに参加したところ、性的な情報を直接的に求めたり、実際に会おうという誘いをかけたりする電子メールがわずか4時間で102通も届きました。
子どもを食い物にする者はインターネットの匿名性を好みます。彼らはチャットルームでの偽名、偽のメール・アドレス、追跡に必要な情報をメールから削除するソフトなどを使うことで、足跡を隠し、摘発を免れようとします。また、インターネットの国際的な性質を利用し、子どもポルノや子どもの保護に関する法律が甘い国に置かれたサーバにサイトを開設し、情報を収めています。
子どもを性的に虐待する者を摘発することに成功した最初の国際捜査として知られているのが、「ワンダーランド・クラブ」事件です。1998年9月1日、インターポール(国際刑事警察機構)が調整役を務めた一斉捜査によって、12カ国で100人以上が逮捕されました。100万点以上の子どもポルノ画像が発見され、一番幼い子は2歳でした。この事件以降、世界中の司法当局はインターネットを利用した子どもの性的虐待を発見し、起訴するために協力を進めています。
インターネットを利用して子どもを性的に虐待する者を摘発した事例 2001年8月~:ランドスライド作戦ランドスライド・プロダクション社はリーディ夫妻が1997年にアメリカ・ダラスで設立した会社でした。同社がはじめのうち提供していたのは、大人を描いた性的にあらわな画像がほとんどでしたが、会社が成長するにつれて、子どもポルノを扱うウェブサイトの利用権を提供することでより多くの収入を得るようになりました。リーディ夫妻は子どもポルノを持っている外国のサイト管理者たちと会費収入を分け合う契約を結び、会費として約5700万ドル(約63億円)を得て、そのうち約60%をロシア、インドネシアなどのサイト管理者に支払っていました。同社は一番もうかった月で140万ドル(約1億5千万円)もの収入を得ました。 ランドスライド社はこれまで明らかになった中で最大の子どもポルノ業者です。同社のサイトには少なくとも25万人の会員がおり、その多くは海外在住でした。アメリカ当局と国際機関は世界中から250件以上の通報を受け、1999年に捜査を開始しました。同年9月、リーディ夫妻は逮捕されて経営権を奪われました。捜査員は同社が存続していると見せかけて会員に電子メールを送り、違法な画像を買おうとしている者を突き止めました。2001年8月、アメリカ当局はおとり捜査をしかけ、アメリカだけで100人以上が逮捕されました。 2001年11月~:ランドマーク作戦 「ランドマーク作戦」はインターネットを利用して子どもポルノを取り込み(ダウンロード)、配布する性虐待者を標的とした捜査です。19カ国の警察がインターポール(国際刑事警察機構)の提供する情報に基づき、130件の捜査を行い、容疑者を逮捕しました。「デーモン・インターネット」というプロバイダが捜査に協力し、警察は通信を監視しました。あるニュースグループでは、虐待者が相手となる幼い子どもを「仕込む」方法について助言を求めていました。当局は、30のウェブサイトを通じて11,000人以上が子どもポルノを取り込んだり、配布したりしていることを突き止めましたが、捜査対象は子どもポルノを配布していた400人に絞られました。 ただ、当局者によると、インターネット上の性虐待者たちは「ワンダーランド事件」や「ランドスライド作戦」から教訓を得て、正体を隠す新しい革新的な方法を開発しています。 |
ポルノ写真やビデオはたいていの場合、子どもの虐待が行われたことのまぎれもない証拠となります。子どもを使ったポルノは搾取であり、ポルノ描写の対象とされた子どもに対する、さらにはそれを見るように強いられたり、誘われたりした子どもに対する権力の濫用です。子どもポルノはしばしば子どもの人身売買と関係しています。子どもポルノを作るために子どもが国から国へと売買されているからです。
インターネット上ではものすごい量の子どもポルノ画像が手に入ります。インターネットを利用することで、画像を限りなく複製したり、簡単に送ったりすることが可能になったからです。
子どもポルノは虐待者が自らの子どもに対する欲求を正当化する助けとなります。ポルノに使われる子どもたちは、あたかもその行為を楽しんでいるかのように、ほほえんで行為に従っているふりをするように命令されることがよくあります。
被害にあった子どもには、長期にわたる影響がもたらされます。ポルノを作った者が摘発されようがされまいが、ポルノ写真はいったん公共の場に持ち込まれたらずっと出回り続ける可能性があり、写された子どもに永久に取りつくかもしれないのです。
また、子どもポルノは子どもの抑制を低めるために使われたり(「ほら、他の子もやっているでしょ?」)、ポルノ的なポーズを取った子どもの姿を見せることで、危険な状況に誘い込むための道具として使われることもあります(「この写真と同じことをしてごらん」)。
子どもポルノの単純所持(自分で使うためだけに持つこと)と子どもの虐待との間には強い関連性があります。子どもポルノを所持している者の多くが子どもの性的虐待も行っているということが指摘されています。
国際、国内および地方のNGO(非政府組織)や警察などの法執行機関がインターネットに関係した虐待から子どもを保護するために行う取り組みの基礎となっているのが、「子どもの権利条約」です。この条約の批准(国として正式に同意する手続き)をした政府は、子どもの権利--虐待されない権利を含む--が尊重される法制度を築く義務を負います。これまでに191カ国(ソマリアとアメリカ以外のすべての国連加盟国)がこの条約に加わっています。
安全にインターネットを利用し、危険から身を守るためには、インターネット上で自分をどう扱えばいいのかを覚えておく必要があります。多くの国では、エクパット・グループや他の団体がインターネット上の安全について意識を高める取り組みを始めています。そのような取り組みの中で勧められている子ども向けのインターネット利用ルールの1つに「ネットスマート・ルール」があります。ぜひ、このルールを覚えてください。
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フィルタリングとは、インターネット上の情報を選別して、見ることのできるウェブサイトを制限する技術のことです。フィルタリング・ソフトを使えば、親や保護者が有害と考えるサイトを子どもが訪れないようにできます。ただし、フィルタリングは表現の自由を妨げたり、大人に対して見たいものを見せないようにしたりするためのものではありません。
フィルタリングには主に3つの方法があります--ブラックリスト化、ホワイトリスト化、中立的ラベリングです。ブラックリスト化はリストに載っているサイトへの接続を遮断するもので、逆にホワイトリスト化はリストに載っているサイトへの接続だけを許可し、その他の接続はすべて遮断します。中立的ラベリングの場合、サイトにはラベル(情報内容の区分を示す標識)が張られるか格付けがされるかしますが、それをどう使うかは利用者に委ねられます。
コンピューターにフィルタリング・ソフトを入れるか、プロバイダなどが提供するサービスを利用するかすれば、より安心してインターネットを楽しむことができます。また、年齢などに応じて方法や設定を変えていくことで、安全を確保しながら、インターネット経験を深めていくことができます。
日本語で使えるフィルタリング・ソフトは巻末の資料に載っています。また、「インターネット協会」は、市販ソフトやプロバイダ・携帯電話会社によるサービスについての最新情報を提供しています。(http://www.nmda.or.jp/enc/rating/nihongo.html)
ホットラインは、子どもを搾取するウェブサイトやニュースグループの投稿、あるいは子ども虐待者についての一般市民からの通報をインターネットや電話、ファックス、郵便を通じて受け付けるものです。ホットラインは子どもポルノや子ども虐待者との闘いにおいて大きな成功を収める可能性を持っています。イギリスでは、「インターネット監視財団」がホットラインを立ち上げた1996年12月から99年末までの間に、寄せられた情報を元にしてプロバイダに対して2万件以上の削除が勧告されました。
日本では、さまざまな問題について苦情を受け付けているホットラインが集まって「インターネットホットライン連絡協議会」(http://www.iajapan.org/hotline/)が設立されており、トラブルに応じた相談窓口を探すことができます。
フィルタリングとホットラインについては第2部でより詳しく説明しています。
親は子どものインターネット体験に関わりを持つ必要があります。インターネット上で自らをどう扱えばいいのかを子どもに教えることが重要です。子どもの独立を保ちつつ、親が子どもを導くのを助ける手段として、前の章で説明したフィルタリング(見ることのできるウェブサイトの制限)やウェブサイトのレイティング(格付け)の仕組みがあります。
フィルタリング・ソフト フィルタリング・ソフトの中には、「スパイダー」と呼ばれる自動プログラムを利用しているものがあり、このプログラムはインターネットを泳ぎ回って、それぞれのサイトにどのような情報が載っているのかを調べます。これに対して、実際に人がサイトを見て回って内容を確認するプログラムもあります。いずれのプログラムともサイトを異なるカテゴリー(区分)に分類するのが一般的で、カテゴリーごとに接続・閲覧を制限できます。しかし、依然としてソフトの多くでは、文字が伴っていたり、フィルタリングのための格付け人が実際にサイトを訪れて確認をしたりしていない限り、性的にあらわな画像を選別することはできません。◆ | 「娯楽ソフト諮問委員会」(RSAC)はインターネット上のサイトを格付けする仕組みであるRSACiを運用しています。RSACiは、コンピュータ・ゲームの暴力、ヌード、低俗さなどを格付けするのに用いられている仕組みと似ています。親は子どもに合ったコンテンツ(情報内容)の種類と格付けの設定水準を選ぶことができます。 |
◆ | RSACiシステムに基づき、新しい世界的なレイティング・システムが構築されているところです。これはICRA(インターネット・コンテンツ・レイティング協会)という団体が構築しているものです。この新しいシステムはマイクロソフトのインターネット・エクスプローラで使用することができますが、さらに多くのソフトが開発されているところです。 |
◆ | 「セーフサーフ」はRSACiよりも多くのカテゴリー(区分)を用いており、独自の格付け基準を持っています。「セーフサーフ」のサイトではウェブサイト運営者が格付けのための質問票に記入をします。各カテゴリーごとに9つの水準(レベル)が厳密に年齢に基づいて設定されています。 |
◆ | 日本の「インターネット協会」はRSACiを基礎とした格付け基準である「Safety Online(セーフティ・オンライン)」を策定しています。RSACiの基準に従った「ヌード」「セックス」「暴力」「言葉」の4つのカテゴリーに加えて、これらのカテゴリーでは網羅できない有害コンテンツへの対応として、「その他」を設けたことが特徴です。 |
インターネットの本質から言って、多くの国・地域の関係者の間で広く協力がなされることが求められます。ホットラインやプロバイダの行動規範は、子どもを食い物にするウェブサイトの通報を促したり、排除したりする上で助けとなります。ホットラインは地元の警察や税関、インターポール(国際刑事警察機構)のような国際機関と協力して運営されていることが多くあります。
ホットライン ホットラインは第1部の第4章で説明したように、一般市民からの通報を受け付けるものです。また、不快なサイトに関して苦情を申し立てる方法について市民に助言をします。さらに、ホットラインは不快なコンテンツ(情報内容)の削除を発信者に要請したり、プロバイダに対してそのようなコンテンツの削除を勧告したりすることができます。法執行を勧告することもありますし、外国から発信されたコンテンツの場合にはその国のホットラインや関係当局に情報提供することもあります。往々にして、当局を経由するよりもホットラインを経由する方が情報は速く伝わります。ホットラインはレイティング・システムの開発の奨励、促進および支援も行います。
「欧州インターネット・ホットライン・プロバイダ連合」(INHOPE)はホットラインの新規開設を奨励、支援しており、ホットライン同士が効果的に協力できる方策を検討しています。ホットラインのヨーロッパ・ネットワークを築くことが最終的な目標です。
日本では、国内の各ホットラインの実務担当者相互の情報共有や連携を目的として、2000年12月に「インターネットホットライン連絡協議会」が設立されました。ここにアクセスすればトラブルに応じた相談窓口を見つけることができます。(http://www.iajapan.org/hotline/)
プロバイダの行動規範 いくつかの国では、プロバイダ団体がインターネット上の違法なコンテンツ(情報内容)に関する自らの役割と責任を明確にするために、行動規範の起草を行っています。欧州評議会の「視聴覚および情報サービスにおける未成年者および人間の尊厳の保護に関する勧告」はプロバイダ向け行動規範を起草するに当たって考慮されるべき事項をいくつか提示しています。
◆ | 利用者はインターネット利用の基本的ルールとコンテンツ提供者の法的責任について知らされる必要がある。 |
◆ | 未成年者は有害なコンテンツから保護されなければならない |
◆ | 有害なコンテンツが提供される可能性がある場合には、警告ページ、視覚的もしくは音声信号、ラベリング(標識付け)もしくは分類、または利用者の年齢確認の仕組みなどの保護措置が講じられるべきである。 |
◆ | プロバイダはフィルタリング・ソフトのような親による管理手段を支援すべきである。 |
◆ | 苦情を取り扱う仕組みが備えられるべきである。 |
◆ | プロバイダは人間の尊厳を侵す違法なコンテンツと闘うための措置に対して効果的に支援をすべきである。 |
◆ | 運営者と司法・警察機関との間の協力に関する基本ルールがプロバイダ向けに明記されるべきである。 |
◆ | 行動規範の違反に対処するための手続きが盛り込まれるべきである。 |
◆ | 情報発信を止めるよう発信者に要求する。 |
◆ | 発信を止めない場合、当該情報の削除等の措置を取る。 |
◆ | 繰り返し発信が行われる場合、発信者の利用停止・契約の解除を行う。 |
日本の警察庁がインターネット上の子どもの安全確保策を支援
2002年3月、ECPAT/ストップ子ども買春の会は本ガイドの日本語版を発行しました。その記者発表には警察庁の担当者も出席しました。警察庁は警察官の研修で使うためにこのガイドの増刷を注文しました。日本では、子どもポルノを具体的に禁止する法律が1999年11月に施行されたばかりで、立法の歴史が浅いのですが、このような警察庁の対応は非常に励みとなることです。 |
オーストラリアの新しい法律
オーストラリアでは「1999年放送サービス修正(オンライン・サービス)法」が成立しました。これは禁止されているコンテンツ(情報内容)に関するプロバイダの責任を明確にするものです。通常の電子メールとチャット・サービスは対象外です。子どもは16歳未満の者または16歳未満に見える者と定義されています。この法律は2000年1月1日に施行されましたが、違法なコンテンツだけではなく、不快な素材および成人向け素材も対象としているため、オーストラリア国内で強い批判を招きました。この法律では、プロバイダは対象となるコンテンツの存在を知った後でも削除をしなかった場合に限って、自社のサーバに置かれたコンテンツに対して法的責任を負うことになっています。違法なコンテンツが自社のサーバに置かれていることを知らなかったときには刑事責任は発生しないのです。 個人はインターネット上のコンテンツに関して、オーストラリア放送庁(ABA)のウェブサイトまたはファックス、手紙、電話で苦情を申し立てることができます。ABAはそのコンテンツが禁止対象に当たると判断した場合には、プロバイダまたはコンテンツ提供者に通知をします。プロバイダは指定された時間内にそのコンテンツを削除するか、接続を遮断しなければなりません。コンテンツが海外から発信されていた場合には、プロバイダは行動規範に基づき、接続を遮断するために「合理的な措置」を講じなければなりません。その場合、外国の関係機関に情報提供をするために、オーストラリア連邦警察にも通知がなされます。 |
ホットライン--子どもポルノ・リング(同盟)の取り締まりを支援
2001年1月16日、NGO「セーブ・ザ・チルドレン」から情報提供を受けたスウェーデン警察は、50人以上の容疑者が関与していた同国最大の子どもポルノ・リングを壊滅させました。「セーブ・ザ・チルドレン」の運営するホットラインに2000年11月、子どもポルノの存在を知らせる電話があり、警察に通報したのです。押収されたコンピュータからは「あらゆる年齢の、そして一部はとても幼い子どもの」ポルノ写真やビデオ画像が見つかりました。 |
◆ | 最初から、そして過程全体を通して国の機関を関与させること。 |
◆ | ホットラインが担当する地域のプロバイダを関与させ、彼らとコミュニケーションを取ること。ホットラインが日常業務を遂行するためには、彼らから受け入れられ、信用と支援を得る必要があります。 |
◆ | ホットラインの責任領域を法律で明確に定義されている分野に集中すること。検閲をしようとしていると非難を浴びる可能性のある分野は避けること。 |
◆ | 明確に定義され、しっかりとした理解が得られ、一般市民が利用可能な手続きを定めること。 |
◆ | 同じような分野で取り組みをしている既存の組織の経験を集めること。 |
◆ | 利用可能なコミュニケーション手段をすべて使って、インターネット利用者にサービスについて知らせること。 |
情報提供・教育キャンペーン
スペインの「子どもポルノに対する行動」(ACPI)は2000年2月に「安全に遊ぼう」という名称のキャンペーンを開始しました。このキャンペーンでは、子どもが虐待を受けている兆しや、ペドファイル(小児性愛者)の虐待者が活動する手段について親たちが教育を受けています。また、ACPIは2002年にも「子どもオンブズマン」やスペイン語サイト向けプロバイダ大手のTerra-Lycosと協力して新しいキャンペーンを行っています。ACPIは、インターネットを利用する際に守るべき基本的ルールを説明する8ページの漫画冊子を若者向けに作成しました。また、これらのルールを伝えるイラストが入ったマウスパッドがすべての学校向けに配布され、親には情報を盛り込んだパンフレットが配られます。Terra-Lycosは若い利用者向けサイトのある「安全地帯」を設けるとともに、学校のサーバにフィルタリング・ソフトを組み込んで(インストールして)います。 エクパット台湾も2000年に、ホットライン(「Web547」という名称)で受け付けた通報を処理するために親によるボランティア・チームを組織し、研修を行うとともに、子どものインターネット利用を監視する方法を教えました。 |
ニュージーランドの「インターネット安全グループ」と教育省
ニュージーランド教育省は他の政府部門、学校、エクパットなどのNGOと協力して、学校で配布する「インターネット安全キット」を作成しました。このキットには「インターネット上の安全に関する合意書」が入っており、これは家族が協力してインターネットを安全に利用できるよう子どもと保護者が署名するものです。キットでは?子どもが危険にあうことなくインターネットを楽しむためのコツやヒントが親、教師、子ども向けにまとめられています。このキットにはインターネット版もあります。(http://www.netsafe.org.nz/ie/kit/index.asp?xmldata=kit.xml)
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プロバイダはインターネットに接続するコンピュータ1つ1つに、IP(インターネット・プロトコル)アドレスと呼ばれる住所(識別用の数字)を割り当てます。ある1つのコンピュータに決まったIPアドレスが与えられることもありますが、たいていの場合、プロバイダは「動的(ダイナミック)」IPアドレス・システムを利用しています。動的IPアドレスは利用者がインターネットに接続するたびに無作為に割り当てられます。何人かの利用者が同じ日に同一の動的IPアドレスを利用する場合もあります。
動的IPアドレスはインターネットの資源を分配し、情報の流れを制御する上で便利な手段です。しかし、動的IPアドレスをたどって個々の利用者を突き止めるためには、プロバイダの利用記録(ログ)を確認してそのIPアドレスが特定の時間にどの利用者に割り当てられたのかを見るしかありません。ですから、プロバイダが持っているIPアドレスの利用記録と利用者情報は、インターネットを使って子どもを搾取する者を見つけ、裁く上で不可欠なのです。
多くの国では、いわゆる「無料」プロバイダが登場しています。このようなプロバイダを使う場合には、電話代以外に料金はかかりません。だれかがいったん無料プロバイダに入会してしまえば、その利用者の本当の身元を特定することはたいていの場合不可能です。偽名を使ってインターネットを利用する犯罪者を逮捕するためには、プロバイダから完全な協力を得る必要があります。
しかし、プロバイダは令状なしに利用者の個人情報を提供したら、その利用者の自由を侵害することになるのではないかと恐れるかもしれません。また、そのような情報をプロバイダが保持しまたは提供することを求める法律を作った場合、プライバシーや通信に関わるその他の法制度とぶつかる可能性もあります。そういった中で、プロバイダに対して、管理するサーバ上のコンテンツ(情報内容)を監視する積極的な義務を課し、義務違反に対する罰則を定める法律を作った国もあります。
事例:Buffnet(バフネット) 1998年、ニューヨーク州検察と州警察は「小児大学」というグループの捜査に着手しました。このグループの会員はニュースグループを使って子どもポルノを取得し、交換していました。一連の起訴がなされ「小児大学」は解体されました。それによって捜査の焦点はニュースグループの利用を可能にしていたプロバイダへと移りました。その1つがニューヨーク州バッファロー郊外の地域プロバイダ大手Buffnetでした。2001年2月、Buffnetは犯罪を助けた罪を認めました。同社は、ニュースグループの1つが子どもポルノ画像配布のために使われていることを当局や顧客から知らされたときに、対応を取らなかったことを認めたのです。Buffnetには5千ドルの罰金が科されましたが、イメージ悪化の効果は測りしれません。 ニューヨーク州検事総長のエリオット・スピッツアーは「どんなプロバイダでも、この種の凶悪犯罪について知らされたら行動を起こす義務があります。しかし、Buffnetはそっぽを向くことを選んでしまいました」と言います。「この対応はどのような法律あるいは良心に照らしても弁護できるものではありません」。 これまでのところ、この分野における起訴の対象は、子どもポルノを取り込んだり、取引したりした個人が中心です。ここで取り上げた事件においては、このような犯罪の手段や機会を分かっていながら提供したプロバイダも捜査対象に含めるよう範囲の拡大が図られました。 |
「子どもポルノとは何か」というのは、最も難しい問題の1つです。「わいせつな」、「きわどい」といったことに関しては文化ごとに多くの解釈があります。また、子どもポルノを構成する要素や処罰の対象となる行為などについても意見の違いが見られます。
インターポール(国際刑事警察機構)の「子どもに対する犯罪に関する専門家グループ」は、「子どもポルノは子どもに対してなされた搾取または性的虐待の結果である。子どもポルノは、子どもの性的行動または性器に焦点を当てて子どもの性的虐待を描写しまたは促進するあらゆる方法と定義することができ、印刷および/または聴覚素材を含む」としています。
「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノに関する子どもの権利条約選択議定書」は、子どもポルノを「現実のもしくは擬似のあらわな性的活動に従事する子どもの、あらゆる方法でなされるあらゆる描写、または主として性的目的でなされる子どもの性的部位のあらゆる描写」と定義しています。
また、「欧州サイバー犯罪条約」は子どもポルノを次のように定義しています。
以下のものを視覚的に描写するポルノ素材:
(a)性的にあらわな行為に従事する未成年者
(b)性的にあらわな行為に従事する未成年者のように見える者
(c)性的にあらわな行為に従事する未成年者を表現した写実的な画像
子どもポルノはさまざまな形態で存在します。最もよく見られるのが視覚的な子どもポルノであり、「現実のもしくは擬似のあらわな性的活動に従事する子どもの視覚的描写、または性器のあからさまな開示」を意味します。聴覚的子どもポルノとは、「利用する者の性的興奮を目的として、現実のまたは擬似の子どもの声を用いるあらゆる聴覚装置の使用」です。子どもポルノは「性的行為を描写しまたは性的興奮をもたらすことを目的として文字だけを用いるもの」の場合もあります。
子どもの権利条約選択議定書 「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノの問題に関する子どもの権利条約選択議定書」は2002年1月18日に正式に発効しました。議定書の規定に基づき、批准国は子どもの性的搾取目的で行われる子どもポルノの製造、頒布、流布、輸入、輸出、提供、販売および所持を犯罪としなければなりません。以上の行為の未遂や、これらの行為への共犯あるいは関与も刑事法において処罰対象とすることが求められます。犯罪が国内的なものであれ国際的なものであれ、また、個人によるものであると組織的なものであるとに関わらず、議定書の対象となります。
日本初の国外犯適用事犯 2000年11月に神奈川県警少年課と南署は、東京都の書籍販売会社「コネクション」を経営する男性(51)ら同社社員3人を「子ども買春・子どもポルノ禁止法」違反の容疑で逮捕しました。これは、同法の国外犯規定を適用した日本初の事件です。同県警はインターポール(国際刑事警察機構)を通じてタイ政府に捜査協力を依頼し、被害者の女の子を特定しました。同容疑者らは1999年12月に、タイのチェンマイ県のホテルで、当時高校生だった同国の16歳と17歳の女の子をヌードにしてビデオで撮影し、また、同様に女の子たちを撮影した子どもポルノを同年11月から12月にかけて、インターネットや宅配を利用した通信販売などによって、1巻1万円で3人の客に販売しました。販売したビデオや写真集は、同法に触れるのを免れるため「18歳」と広告し、外国人の女の子たちには日本人の名前をつけて販売していました。 |
子どもポルノの単純所持(自分で使うためだけに持つこと)を犯罪とすることが重要な理由はいくつかあります。警察には子どもが性的に虐待されたかどうかが分からない場合がありますが、その子どものポルノ画像が見つかれば虐待が実際に行われたことを確認できます。また、子どもポルノの発見がきっかけとなって行方不明の子どもが見つかることも多いのです。さらに、子どもポルノが見つかれば、摘発を免れていた子ども虐待者を有罪とする証拠を得ることができます。
子どもポルノを持っているだけで犯罪としてはならないと主張する人たちもいます。しかし、子どものポルノ画像1つ1つが子どもに対する犯罪なのです。画像を所持するのは盗品を受けとるようなものです。虐待の記録に対する「市場」をその人が提供しなければ、その虐待は起こらなかったかもしれないのです。また、専門家は、子どもポルノ画像を所持している者は虐待者であるか、子どもを虐待したいと考えている者であると言います。だから、所持は司法・警察当局以外に許されてはなりません。
日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」(2004年改正)では、提供または公然陳列を目的とした子どもポルノの所持・保管は処罰されますが、単純所持は禁じられていません。2004年に提出された改正案では、単純所持の禁止(罰則なし)も提案されていましたが、実現しませんでした。
「子どもの権利条約」が18歳未満のすべての者を「子ども」と定義しているにも関わらず、子どもの定義は国によって、あるいは州によってさえ大きく異なります。定義は年齢によることもあれば、性的成熟の程度によることもあります。ほとんどの定義では子どもの法的年齢を13歳未満から18歳未満に設定しています。日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」では「18歳未満の者」となっています。国によっては、子どもポルノ事件の起訴において子どもの年齢を特定することは求められていません。これらの国では、子どもであるという印象が与えられれば十分なのです。
欧州評議会の「子どもポルノに関するサブグループ」は、子どもポルノ法では、実際に存在する未成年者、未成年者に見える者またはそのように描写されている者、そして、未成年者の人工的またはモーフィング(改変)された画像を対象とすることを提案しています。イギリスなどでは、人工的なまたはモーフィングされた子どもポルノ写真も違法とされており、現実を写したものとまったく同様に扱われています。
日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」は実際に存在する子どもの姿を描いたものだけを対象としていますが、「合成写真」(コラージュ写真)でも、実際に存在する子どもの身体の大部分が描かれている場合には違法となる可能性があります。
犯罪化されている子どもポルノの側面としては、所持、保管、販売、配布、輸出、輸入、配布の意図、子どもの虐待を描写するもしくは促す意図、供給、または以上の行為の幇助(手助けをすること)などがあります。インターネットに特化して子どもポルノに対応する法律を導入した国もあります。
日本の「子ども買春・子どもポルノ禁止法」は、子どもポルノの(1)提供または公然陳列、(2)提供または公然陳列を目的とする子どもポルノの製造、所持、保管、運搬、日本への輸入・輸出および外国への輸入・輸出、(3)製造(子どもにポーズをとらせ描写)が犯罪となっています。
表現の自由についての権利があるのだから子どもポルノを所持したり、それを他の人と交換したりする権利があるのだと主張する人たちがいます。インターネット上での意見の広がりを最大限に保障するためには情報の自由が必要ですが、子どもの性的虐待、子どもポルノおよびペドフィリア(小児性愛)は、現実の世界で起こるものであってもインターネット上で起こるものであっても許容されてはなりません。技術が進歩したからというだけで社会的な価値は変化しないのです。
表現の自由は絶対的な権利ではありません。人権に関する基本的な国際法である「市民的および政治的権利に関する国際規約」は制限を課されたり、損なったりされることがあり得ない権利を挙げていますが、そこに表現の自由は含まれていません。同規約第19条は表現の自由について次のように規定しています。
アメリカ憲法修正第1条とモーフィングに関する懸念 2002年4月、アメリカ連邦最高裁判所は、バーチャルな(仮想現実の)および擬似の子どもポルノを禁じる「子どもポルノ防止法」(CPPA)の規定について、言論の自由を保護する憲法修正第1条に照らして無効とする判決を下しました。 「子どもポルノ防止法」を支持する人々は、バーチャルなおよび擬似の子どもポルノは子どもを性的に虐待する者が犠牲者を誘う手段として利用するだけでなく、このような画像の存在自体が子どもを性的に虐待する者の欲望を刺激し、新たな犠牲者を求めるよう促すと主張しています。 しかし、連邦最高裁は「実際に存在する」子どもの描写がない以上、そのような画像と子どもの性的虐待との間に「直接的関係」は認められないと判断しました。また、多数意見では子どもポルノ製造者が子どものバーチャルな画像を用いるという実質的な危険は認められないとされました。 さらに多数意見は、「子どもポルノ防止法」が「重要な文学的、芸術的、政治的または科学的価値」を有する言論を事実上禁止した可能性があるとしました。例として、14歳同士の性的関係を含むラブストーリーである「ロミオとジュリエット」が挙げられました。この物語は15歳以上の俳優が主演して何度も映画化されています。これに対して少数意見は、多数意見がこの法律の持つ力を誇張しているとしました。少数意見は、この法律が1996年に施行されて以降もハリウッドでは10代の性を食い物にする映画が多数製作されており、これらの映画の製作者は一度も起訴されたことがなく、彼らはこの法律があるからといって映画の製作をやめていないと指摘しました。 アシュクロフト司法長官は判決に失望したとする一方で、司法省は子どもポルノ事件の捜査・起訴努力を強めることになろうと述べました。同司法長官は連邦議会と協力して、最高裁の審査を通過できるような新法を起草すると約束しました。 |
表現の自由の問題か? ジョン・シャープは裸の男の子たちの写真と子どもに関わる短編小説を所持していたとして逮捕されました。彼は表現の自由とプライバシーの権利の侵害であるとして争い、2つの公判で勝利を収めました。2001年1月、検察側は判決を不服としてカナダ最高裁判所に上告しました。国際エクパットとカナダのエクパット関連団体は最高裁に意見を提出することを認められました。 カナダ刑法第163条第1項では、18歳未満の者との性的活動を擁護しまたは勧めるような「視覚的表現」および「筆記素材」を子どもポルノに含める広範な定義が定められています。 最高裁の多数意見は、ある種の形態の子どもポルノの所持を犯罪とすることは、それによってだれかの表現の自由が侵害されるという事実に関わらず、子どもポルノが子どもにもたらす害悪によって正当化されると判断しました。 その上で法律によって禁止されている子どもポルノのうち2つの形態に焦点を当てました。すなわち、(1)被告が製造し、個人的利用目的のみで被告だけが所持している筆記または視覚的表現、(2)被告が製造しまたは被告を描写した視覚的記録で、違法な性的活動を描写しておらず、個人的利用目的のみで被告だけが所持しているもの。 多数意見はこれらの点について法律は行き過ぎであり、「子どもに対する害悪を防止するという面でもたらされるわずかな利益」に比べて、言論の自由に係る損失が大き過ぎるとしました。このように、判決は政府が子どもポルノの所持を犯罪と定める権利を確認する一方で、どのような種類の子どもポルノが禁止されるのかを政府があらかじめ決める権利については制約を課しました。 2002年3月26日、シャープは子どもポルノ所持に係る2つの容疑について有罪判決を受けました。しかし、彼が書いた「シャープの子どもに対する変態嗜好小説」などの文章に係る別の2つの容疑については無罪となりました。これらの作品は子どもに対する性犯罪の実行を擁護するものではなく、一定の芸術的価値があると判断されたのです。同年5月2日、シャープに対して、1日16時間の電子的監視を伴う4ヶ月の自宅拘禁、18歳未満の者との接触禁止およびインターネット使用の厳格な監督という刑が下されました。 |
◆ | エクパットは、子どもを関与させる性的活動を描写し若しくは模写した、又はあからさまな仕方で子どもの性器を開示した、18歳未満の子どものあらゆる筆記、視覚的又は聴覚的描写に反対する。 |
◆ | エクパットは、全ての国が擬似子どもポルノを含む子どもポルノの製造、頒布、輸入及び単純所持を犯罪とし、製造者、頒布者、輸入者及び/又は所持者に厳しい刑罰を科すべきであると信ずる。その際、犯罪意図又は商取引の証拠があることを要件としてはならない。エクパットは、全ての国において適切な立法がなされることを目指して、ロビー活動と意識喚起をすることにコミットする。 |
◆ | エクパットは、子どもの権利一般及び性的搾取から保護される子どもの権利が大人のプライバシー及び言論の自由に対する配慮に優越すべきであると信ずる。子どもの最善の利益が優先されるべきである。 |
◆ | エクパットは、インターネットに関係する子どもポルノの訴追を容易にする二国間及び多国間取り決めを含む立法及び法執行メカニズムの適切なモデルの検討を支持する。エクパットは、コンピュータ及びインターネットを利用した子どもポルノの伝送に関わる技術的問題に対する解決策を見付けるために、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)やソフト及びサーチ・エンジン製造業者と前向きかつ協力的な関係を構築することを目指している。 |
◆ | エクパットはISPに対して、警察に子どもポルノを通報することを約束し、ユーザーにその意思を知らせるとともに、サイト上で子どもにやさしい情報を提供することを内容として盛り込んだ行動規範を定めることを奨励する。エクパットはISPに対して、子どもに対する性犯罪者によるインターネットの犯罪利用を防止するため、法執行機関にあらゆる可能な協力をすることを奨励する。 |
◆ | エクパットは、子どもたちが子どもポルノの犠牲者や被写体となったり、インターネットを介して有害な素材に晒されたり、誘われたりするリスクを減少させることを可能にするような市民教育や意識喚起プログラムを支持する。 |
◆ | よって、エクパットは、子どもたちや大人たちが子どもポルノを通報したり、インターネット利用に潜む危険について学んだりすることができる国内ホットラインや教育ウェブサイトの開設も奨励する。 |
◆ | エクパットは、地元の警察の具体的な許可があり、彼らとの協力がなされていない限りは、また、教育目的で厳格に管理された状況下にない限りは、その業務において、スタッフやメンバーが子どもポルノを所持することは適切でないと考える。 |
◆ | しかし、エクパットは、法執行機関が立法者や裁判官のような社会変革をもたらす可能性のある者に対して子どもポルノの例を示すことは奨励する。 |
◆ | ECPAT/ストップ子ども買春の会 http://www.ecpatstop.org/ |
◆ | 国際エクパット(ECPAT International) http://www.ecpat.net/ |
◆ | 財団法人インターネット協会 http://www.iajapan.org/ |
◆ | インターネットホットライン連絡協議会 http://www.iajapan.org/hotline/ |
◆ | 日本ユニセフ協会 http://www.unicef.or.jp |
◆ | 外務省 (第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議のページ)http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csec01/index.html |
◆ | 警察庁(「生活安全の確保」のページ)http://www.npa.go.jp/safetylife/index.htm |
◆ | ベス http://filtering.nissho-ele.co.jp/ |
◆ | サイバーパトロール http://www.netmedia.solution.ne.jp/products/cp/index.html |
◆ | サイバーシッターII http://www.iqs-j.com/ |
◆ | サーフモンキー http://www.surfmonkey.co.jp |
◆ | 財団法人インターネット協会 http://www.nmda.or.jp/enc/rating/index.html |
◆ | 日本語対応市販フィルタリングソフト http://www.nmda.or.jp/enc/rating/nihongo.html 本ガイド英語版に記載されているソフトのうち、日本語版があることが確認できたものについては日本のサイトのURLを掲載したが、このサイトでは、これらを含め、日本語対応ソフトのリストが提供されている。 |
◆ | ジョン・カー(外務省訳)『子どもポルノとは何か(第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議テーマ・ぺーパー3) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/pdf/jido_p.pdf |
◆ | マーク・ヘクト(外務省訳)『重要なパートナーとしての民間セクター(第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議テーマ・ぺーパー4) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/pdf/p_minkan.pdf |